琴陵姉妹の異世界日記

もっけさん

文字の大きさ
上 下
83 / 148
ハルモニア王国 王都

82.琴陵式ブートキャンプ 後編

しおりを挟む
「ウガーッ!! 嫌だ~嫌過ぎる~。こんなおっさんばっかりのパーティーなんて酷い! 潤いがないよ」
 私は、琴陵ことおか容子まさこ
 宥子ひろこに命じられて、ボブ・イスパハン・ジョンの男衆を引き連れて絶賛パワーレベリング中である。
 むさ苦しいおっさんパーティで、唯一の癒しが楽白だけとは鬼畜の所業だ。
 私の髪の中でうごうごしているので、何か怪し可愛い踊りでも踊っているんだろうか。
 気楽で良いね、お前は。
「さて、駄々を捏ねたところでレベルは上がらない。仕方がないので、サクサクモンスターを倒しに行くよ~」
 原付バイク二台を拡張空間ホームから出し、三人に指示を出す。
「ボブとイスパハンは、そっちの原付に乗れ。ジョンは、私の後ろな」
「あの、乗り方が分からないんですが」
 困ったような顔をする二人と、原付バイクに興味津々で嘗め回すような目で見ている者が一名。
 反応は、様々だ。
「イスパハン、バラしたら半殺しな」
「わ、分かった」
 念のため釘を刺しておくと、イスパハンの顔が少し青くなり冷や汗を流していた。
 こいつ、解体する気満々だったな。
 乗り方を口頭説明するよりも、実践で体験した方が覚えるだろう。
 エンジンの掛け方、減速・加速の仕方、停止方法を教えた。
 入れ替わり立ち代わりで一時間も乗れば慣れてきたのか、それなりにみれる形にはなったと思う。
「時間も限られてから、さっさと森の奥を目指すよ」
 索敵使って森の最深部を目指す。
 森の最深部は、数は少ないが強いモンスターがいる。
 こいつらのレベル上げには、丁度良いだろう。
 原付バイクに引き殺されたモンスター多数。
 サクラの聖域sanctuaryが無くても、中層部までは車体が少し傷つく程度で済んでいた。
 王都周辺のモンスターは、弱いのか?
 宥子ひろこ曰く、RPGゲームを模倣した世界らしいので、街を移動すればモンスターのレベルも上がると思っていた。
 現実は、違ってガッカリだ。
 引き殺したモンスターは、その都度バイクを停止して、ドロップ品を回収している。
 原付バイクで森の最深部手前まで来て、原付バイクから降りた。
「こっからは、実践訓練です。一応、死なないように各種ポーションもたんまりあるから大丈夫。武器は、これ使って良いよ」
 拡張空間ホームから武器出して、三人をジャイアントアントの群れの中に放り込んだ。
「イヤリングがある限り、余程のことがない限り死なないから安心してね。私も後方支援する(予定だ)から頑張れ」
と言ったら、
「ギャーッ!!」
「ちょっ、死ぬ死ぬ死ぬ!」
「助けておかあちゃーん」
なとど、男衆が腑抜けた事をほざいた。
 私は無言で結界を張って、その場でお茶セットを取り出し、観戦することにした。
 別にイラッとしたからじゃないよ?
 根性なし共め、少しは男気見せて戦えっつーの。
 武器を滅茶苦茶に振り回しても、ちゃんと体のどこかに当たる命中率。
 ああ、素晴らしきかな。
 流石、カルテットが人の素材をくすねて制作した武器だ。
 あいつら、人の目を盗んで勝手にチートアイテム作るから売るに売れないと宥子ひろこが嘆いていた。
 箪笥の肥やしになっていた物が、奴隷達の手に渡り日の目を見た事で武器も本望だろう。
 正直、売れない武器を量産するのは止めて欲しい。
 それで怒られるのは、何故か私のは理不尽だ。
 宥子ひろこに幾らカルテットが勝手に作ったと言っても、返ってくる言葉は決まって「監督不行き届き」の一言である。
 思い出しただけでムカついてきた。
「頭狙え。一撃で死ぬよ~」
「「「もっと早く言えぇえ!!」」」
 着実にモンスターの数を減らしてきているところで、アドバイスしてあげたら何故か怒られた。
 理不尽だ!
 ジャイアント殲滅戦も収束し、私達はドロップアイテムを回収した後、次の狩場へと移動した。
 ブチブチ文句を言われたが、無視スルーだ。
「お前ら、レベル80になるまで休憩はなし」
 別に腹いせで言っているわけじゃないよ!
 これも、レベル上げには必要な工程なのだ。
 レッドボアやアースドラゴンなど縄張りに彼らを放り込んでは、悠々自適に戦闘観戦しつつ、時々アドバイスを送る。
 鬼だ悪魔だと言われたが、パワーレベリングしても実践してなければ意味がない。
 チートな武器持っているんだ。
 死にはしないと何度言えば、そのスカスカな頭に届くのだろうか。
 宥子ひろこお手製のHP・MPポーションもあるので、彼らの腹がタプタプになるまで飲ませて戦わせた。
 最後は、死んだ魚のような目をしながら無言で原付バイクに乗って集合場所へと戻った。


 琴陵ことおか姉妹による鬼畜ブートキャンプとは違い、アンナチームは緩い感じで戦闘をしていた。
 サクラの張った結界内から、ただ魔法を打つだけの単純作業をルーシー・キャロル・マリーの三人は延々と繰り返している。
「基本は頭を狙って窒息死させるか、首と胴体を切り離します。飛ぶ魔物は羽を狙って攻撃して下さい。足を狙って動けなくするのもありですよ」
と、えげつない戦術をアンナは教えていた。
「「「は、はい……」」」
 怖くて口答え出来ないと、三人はアイコンタクトをし合い言われた通りに魔法を放つ。
 魔力はあっても、魔力操作や熟練度が足りないので明後日の方向に飛んだり、魔法が不発に終わったりと様々だ。
「慣れれば出来ますから、焦らずゆっくりやりましょう。あれは、単なる的です。結界から出なければ、怪我したりしませんから」
 ホホホッと上品に笑いながら、見本と称して上級魔法をぶっ放すアンナに、三人とも顔が引きつっている。
 琴陵ことおか姉妹のようなブートキャンプにはならなかったが、アンナも格上の敵を見つけては指示を出して攻撃させて強制戦闘をさせている。
「キャロルは、土魔法で相手の足場を崩して! ルーシーさんは、青い炎が出るまで魔力を練ってダイアウルフの顔面にぶつける!! マリーさんは、ウィンドカッターで首と胴体を切断を意識して下さい!」
 ガンガンとサクラの結界を破ろうと結界に体当たりをするダイアウルフに、一斉に魔法攻撃が炸裂する。
 敵イコール的という考えを持って攻撃しろ、と激を飛ばすアンナに対し、三人は涙目になりながら攻撃を続けた。
 スタボロなダイアウルフは、あと一歩のところで逃亡した。
「チッ、逃がしてしまいましたか」
 柄悪く舌打ちするアンナに、誰も声を出せないでいる。
「大分精度も上がってきたことですし、一度皆と落ち合いましょう」
 アンナ式ブートキャンプは、こうして幕を閉じたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ
ファンタジー
 ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。  そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。  まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。  全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。  間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。 ※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています ※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。

かつてダンジョン配信者として成功することを夢見たダンジョン配信者マネージャー、S級ダンジョンで休暇中に人気配信者に凸られた結果バズる

竜頭蛇
ファンタジー
伊藤淳は都内の某所にあるダンジョン配信者事務所のマネージャーをしており、かつて人気配信者を目指していた時の憧憬を抱えつつも、忙しない日々を送っていた。 ある時、ワーカーホリックになりかねていた淳を心配した社長から休暇を取らせられることになり、特に休日に何もすることがなく、暇になった淳は半年先にあるS級ダンジョン『破滅の扉』の配信プロジェクトの下見をすることで時間を潰すことにする. モンスターの攻撃を利用していたウォータースライダーを息抜きで満喫していると、日本発のS級ダンジョン配信という箔に目が眩んだ事務所のNO.1配信者最上ヒカリとそのマネージャーの大口大火と鉢合わせする. その配信で姿を晒すことになった淳は、さまざまな実力者から一目を置かれる様になり、世界に名を轟かす配信者となる.

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

世界樹の下で

瀬織董李
ファンタジー
神様のうっかりで死んでしまったお詫びに異世界転生した主人公。 念願だった農民生活を満喫していたある日、聖女の代わりに世界樹を救う旅に行けと言われる。 面倒臭いんで、行きたくないです。え?ダメ?……もう、しょうがないなあ……その代わり自重しないでやっちゃうよ? あれ?もしかしてここ……乙女ゲームの世界なの? プロット無し、設定行き当たりばったりの上に全てスマホで書いてるので、不定期更新です

【宮廷魔法士のやり直し!】~王宮を追放された天才魔法士は山奥の村の変な野菜娘に拾われたので新たな人生を『なんでも屋』で謳歌したい!~

夕姫
ファンタジー
【私。この『なんでも屋』で高級ラディッシュになります(?)】 「今日であなたはクビです。今までフローレンス王宮の宮廷魔法士としてお勤めご苦労様でした。」 アイリーン=アドネスは宮廷魔法士を束ねている筆頭魔法士のシャーロット=マリーゴールド女史にそう言われる。 理由は国の禁書庫の古代文献を持ち出したという。そんな嘘をエレイナとアストンという2人の貴族出身の宮廷魔法士に告げ口される。この2人は平民出身で王立学院を首席で卒業、そしてフローレンス王国の第一王女クリスティーナの親友という存在のアイリーンのことをよく思っていなかった。 もちろん周りの同僚の魔法士たちも平民出身の魔法士などいても邪魔にしかならない、誰もアイリーンを助けてくれない。 自分は何もしてない、しかも突然辞めろと言われ、挙句の果てにはエレイナに平手で殴られる始末。 王国を追放され、すべてを失ったアイリーンは途方に暮れあてもなく歩いていると森の中へ。そこで悔しさから下を向き泣いていると 「どうしたのお姉さん?そんな収穫3日後のラディッシュみたいな顔しちゃって?」 オレンジ色の髪のおさげの少女エイミーと出会う。彼女は自分の仕事にアイリーンを雇ってあげるといい、山奥の農村ピースフルに連れていく。そのエイミーの仕事とは「なんでも屋」だと言うのだが…… アイリーンは新規一転、自分の魔法能力を使い、エイミーや仲間と共にこの山奥の農村ピースフルの「なんでも屋」で働くことになる。 そして今日も大きなあの声が聞こえる。 「いらっしゃいませ!なんでも屋へようこそ!」 と

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...