2 / 11
それは「ありがとう」の意味
しおりを挟む
いくら猫ブームでも
黒猫を嫌う人はいまだに多い。
そんなぼくに振り向いてくれる人なんてひとりもいなかった。
パパとママに出会うまでは。
初めて会ったとき、2人はなぜかぼくを見て微笑んでくれて、すぐに抱っこしてくれた。
子猫とはいえ、とても小さく、手のひらに乗るぐらいの大きさだったぼくを、
ママはやさしく包み込んでくれた。
「大丈夫?もっと柔らかく持ってあげないと折れちゃいそうだよ」
パパもぼくのことを想って、やさしい言葉をかけてくれた。
「ずっと黒猫を飼いたいと思ってたんです」
「僕も妻も黒猫との暮らしに憧れていたんですよ」
こんなに快く迎えてくれる人がいたんだ。ぼくを見て、喜んでくれる人がいたんだ。生きてて、よかったんだ。
心の底から、そう思った。
今まで辛いことしかなかったから。
その頃のぼくは、心を閉ざしていたこともあって、食欲もなく、なかなか大きくなれなかったんだけど、パパとママと暮らし始めてから変わっていった。
パパとママがぼくにくれた名前は
キートス。フィンランド語で「ありがとう」の意味。
「なんとなく語感がいいでしょ?」
というママの独断で決まった。
パパは笑っていた。
最初はそんな2人の前で遠慮がちだったぼくだけど2人のやさしさに甘えて、
いかにも猫らしい自由気ままな振る舞いをするようになっていった。
ママが言うには「とにかくやんちゃ」だったらしい。
元気すぎるほど元気に成長し、
時にはテレビの上に乗って倒してしまったり、カーテンを引きちぎったり、家の端から端まで走り回ってめちゃくちゃにしてしまったり。パパとママにはたくさん迷惑をかけたことも。
それだけじゃない。
甘えん坊で泣き虫だったから、パパとママのどちらかが外出するだけで、家中を鳴きながら歩き回った。寝るときは、パパとママのどちらかの体に触れていないと寝られない、そんな子供だった。
でも、ぼく的にはとにかく毎日が嬉しくて楽しくて2人のそばにいるだけでハッピーだった。
数年前、こんなこともあった。
なんとなく、外の空気を味わいたくなり、ベランダから思い切りジャンプして、外に出てしまった。
ぼくはただお散歩したかっただけなのに、知らない外の世界を歩いているうちに帰り道がわからなくなってしまった。
そのまま一週間、
雨でびしょびしょになったり、ご飯もあまり食べられない日が続き、このまま一生お家に帰れないのかな?とも思った。
そんなぼくを心配して、パパとママはぼくの好きなおやつを片手に、家の近所や公園などをまわりながら、何度も名前を呼びかけた。ぼくの写真が入った手作りチラシを配り、インターネットにも掲載して必死に探してくれた。
3日たっても見つからなかったため、近所に住んでいるパパのお父さんやお母さんまで一緒になって探してくれた。
そして一週間後。
ぼくはなんとか家の玄関までたどり着き、パパが帰ってくるのを待っていた。何日も食べてなかったからお腹はペコペコ。ニャーと鳴く声もいつもより遠くへ届かない。
夕方からほとんど動かず、というより疲れて動けないまま香箱座りの体勢でドアの前にいた。
そして、
夜11時ぐらいになった頃だった。
「キートス!」
深夜なのにパパが大きな声で叫んだ。
寝ていたぼくはビックリして飛び起き、とっさに「シャー!」と言ってしまった
。パパの声には家にいたママも驚き、ドタドタという足音とともに玄関まで飛んできた。
「いたー!キートス!おかえり!」
ママはパパよりも大きな声で叫んだ。
近所の人も何事かと思ったのか、ママの叫び声で数軒の家の電気が点いた。
これだけ心配をかけたから、パパとママにはたくさん怒られるかなと思っていたけど、2人は涙を流しながらぼくを抱きしめてくれた。
なんで怒らないんだろう?
こんなに悪いことばかりしてるのに。
みんなが心配することばかりしてるのに。
なんとなく懐かしい香りのする家に入って、そんなふうに思っていると、
ママがパパの方に向かって言った。
黒猫を嫌う人はいまだに多い。
そんなぼくに振り向いてくれる人なんてひとりもいなかった。
パパとママに出会うまでは。
初めて会ったとき、2人はなぜかぼくを見て微笑んでくれて、すぐに抱っこしてくれた。
子猫とはいえ、とても小さく、手のひらに乗るぐらいの大きさだったぼくを、
ママはやさしく包み込んでくれた。
「大丈夫?もっと柔らかく持ってあげないと折れちゃいそうだよ」
パパもぼくのことを想って、やさしい言葉をかけてくれた。
「ずっと黒猫を飼いたいと思ってたんです」
「僕も妻も黒猫との暮らしに憧れていたんですよ」
こんなに快く迎えてくれる人がいたんだ。ぼくを見て、喜んでくれる人がいたんだ。生きてて、よかったんだ。
心の底から、そう思った。
今まで辛いことしかなかったから。
その頃のぼくは、心を閉ざしていたこともあって、食欲もなく、なかなか大きくなれなかったんだけど、パパとママと暮らし始めてから変わっていった。
パパとママがぼくにくれた名前は
キートス。フィンランド語で「ありがとう」の意味。
「なんとなく語感がいいでしょ?」
というママの独断で決まった。
パパは笑っていた。
最初はそんな2人の前で遠慮がちだったぼくだけど2人のやさしさに甘えて、
いかにも猫らしい自由気ままな振る舞いをするようになっていった。
ママが言うには「とにかくやんちゃ」だったらしい。
元気すぎるほど元気に成長し、
時にはテレビの上に乗って倒してしまったり、カーテンを引きちぎったり、家の端から端まで走り回ってめちゃくちゃにしてしまったり。パパとママにはたくさん迷惑をかけたことも。
それだけじゃない。
甘えん坊で泣き虫だったから、パパとママのどちらかが外出するだけで、家中を鳴きながら歩き回った。寝るときは、パパとママのどちらかの体に触れていないと寝られない、そんな子供だった。
でも、ぼく的にはとにかく毎日が嬉しくて楽しくて2人のそばにいるだけでハッピーだった。
数年前、こんなこともあった。
なんとなく、外の空気を味わいたくなり、ベランダから思い切りジャンプして、外に出てしまった。
ぼくはただお散歩したかっただけなのに、知らない外の世界を歩いているうちに帰り道がわからなくなってしまった。
そのまま一週間、
雨でびしょびしょになったり、ご飯もあまり食べられない日が続き、このまま一生お家に帰れないのかな?とも思った。
そんなぼくを心配して、パパとママはぼくの好きなおやつを片手に、家の近所や公園などをまわりながら、何度も名前を呼びかけた。ぼくの写真が入った手作りチラシを配り、インターネットにも掲載して必死に探してくれた。
3日たっても見つからなかったため、近所に住んでいるパパのお父さんやお母さんまで一緒になって探してくれた。
そして一週間後。
ぼくはなんとか家の玄関までたどり着き、パパが帰ってくるのを待っていた。何日も食べてなかったからお腹はペコペコ。ニャーと鳴く声もいつもより遠くへ届かない。
夕方からほとんど動かず、というより疲れて動けないまま香箱座りの体勢でドアの前にいた。
そして、
夜11時ぐらいになった頃だった。
「キートス!」
深夜なのにパパが大きな声で叫んだ。
寝ていたぼくはビックリして飛び起き、とっさに「シャー!」と言ってしまった
。パパの声には家にいたママも驚き、ドタドタという足音とともに玄関まで飛んできた。
「いたー!キートス!おかえり!」
ママはパパよりも大きな声で叫んだ。
近所の人も何事かと思ったのか、ママの叫び声で数軒の家の電気が点いた。
これだけ心配をかけたから、パパとママにはたくさん怒られるかなと思っていたけど、2人は涙を流しながらぼくを抱きしめてくれた。
なんで怒らないんだろう?
こんなに悪いことばかりしてるのに。
みんなが心配することばかりしてるのに。
なんとなく懐かしい香りのする家に入って、そんなふうに思っていると、
ママがパパの方に向かって言った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!
青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。
すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。
「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」
「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」
なぜ、お姉様の名前がでてくるの?
なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。
※タグの追加や変更あるかもしれません。
※因果応報的ざまぁのはず。
※作者独自の世界のゆるふわ設定。
※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。
※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる