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「この世界では生まれた瞬間に嫌われてしまうこともあるのよ」
しおりを挟む「あんこちゃん、こんなにお客さんがいっぱい来てくれてるんだからもっとアピールしないと」
「そうだよ、新人さんにとってはこんなチャンスないよね」
「お客さんに好かれて人気者になりたいなら、そんなとこにいないでこっちに来なよ」
トイレ前のマットの上で石像のように固まったままのわたしに、ホンモノの猫たちが声をかけてきた。
声をかけるというより、遠目に独り言をいっている感じ。イヤな言い方。
言葉だけを切り取れば後輩思いのやさしい先輩だけど、しっぽをムチのように大きく振っている。
みんな、完全にイライラしているのがわかった。
わたしが全然動かず、お客さんの相手をせず、ずっと座ったままの態度が気に食わないんだと思う。
「あんこがツマラナさそうにしてるだけでお客さんのテンションが下がってこっちまで迷惑するんだよねーーー。見た目が黒いのにさらに暗い雰囲気を出さないでくれる?」
ほらね。
ハッキリ言うヤツも、いる。
たぶん、他の猫の言葉の裏にもそんな気持ちが隠されているんだろう。
わたしは何も言えないまま、石像のわたしをより固くした。
何を言われてもまったくリアクションをしないわたしを見て「この子、やっぱツマンナイわ」とでも思ったのか「ふんっ!」と鼻を鳴らして、猫たちは去って行った。
少しだけホッとする。誰にも興味を示されないと、それはそれで気持ちがラクになる。
若干、勝った気分。
わたしはふと、昔、ママが言っていた言葉を思い出した。
「この世界では生まれた瞬間に嫌われてしまうこともあるのよ」
ヘぇ~。
小さかったから詳しいことは覚えていないけど、世の中には差別ってものがあって、見た目やしゃべり方や持っているモノの違いだけで、意味も無く嫌われたりするってことをママが教えてくれた。
「それがね、人間だけじゃないの。黒猫ちゃんもそうなんだって。外国では昔から魔女の使いとか不幸の象徴と言われて嫌われてたんだって。かわいそうだよね」
そうママは言っていた。
そのときはただの雑学として聞いていただけだったけど、最近ママの言葉の意味が少しずつわかってきたような気がする。
なんとなく、みんな平等じゃない。いろんな差がついている。
けどそれに触れないように気を遣いながら生きている。
わかっているけど言ってはイケナイ。
なんか違うけど、指摘しちゃイケナイ。
イケナイばかりの人生。
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