上 下
8 / 21

なぜ猫はモテるのか?

しおりを挟む
 教室に入ってきた黒い大人、いや、先生が自ら号令をかけ、教室内の生徒を華麗にあやつった。

 
「えーと、今のあいさつ、今日はわたくしが言いましたが、次からは、、、佐藤さん、あなたが担当してください。ちゃんと先生が入ってきたら今みたいに声を出して、みんなで礼をしてください。よろしいですか?」


「……」

 
「佐藤さん、よろしいですか?」


「は、はい。わかりました」

 
 教壇の目の前に座っていた小柄な女の子佐藤さんは、上からふりそそぐ先生の言葉に押しつぶされそうになりながら小声で答えた。

 

「では、早速始めましょうか、みなさんが猫になるための授業を」

 猫になるための授業。
 一体なにをするのか?ぜんぜん想像がつかない。

 頭の中が?マークでいっぱいになっていると、先生のアシスタント?というか秘書みたいな黒スーツの女性が、テキストとノートを配り始めた。


「後ろの人に回してください」


 その言い方も冷たく、ちょっと怖い。でも仕事ができそうな感じ。
 教室内がテキストを回す音で充満していると、わたしの手元にもそれは届いた。
 一部だけ取って後ろに回す。

 

 ヤバい。


 パっと見、ヤバい。


 表紙が、ヤバい。

 

 黒をベースにピンクや赤、ゴールドの文字が飛び出すような派手なフォントで描かれている。
 
 10秒ぐらい見ると目が痛くなりそう。
 
 テキストの周りにはサンタさんのヒゲのようなフワフワの白い毛がついていて、全体的に金色のラメが付いている。少し揺らすだけでラメが飛び散って、宙を舞う。ウザい。


 わたしは、お父さんが夜のお姉さんがいる飲み屋からもらってくる派手な名刺を思い出した。それぐらい派手だ(※わからない皆んなはおとうさんおかあさんに聞いてみてね♪)

 もはや学校で配るような教科書じゃない、ということ。

 

 

 でも、、、

 

 パラパラパラ、、、

 
 テキストをめくってみると、




「え?なに?カワイイ!」

 

 もはや猫の写真集だ。



 ところどころに猫の習性や猫の雑学が書かれているけど、可愛い猫がいっぱい載っているだけのテキスト。
 教科書じゃない。
 こんな教科書だったら学校も楽しいだろうな、そう思った。

 

 コレで何を学ぶの?

 


「今日は初日ですが、これから毎回授業の最後に皆さんに課題を出します。なので授業は最後までちゃんと聞いて下さい。そしてその課題を次の授業までに実行することがこの“猫の学校”を卒業するために必要な条件となります。できなかった人は……




………その場で『退学』となります」

 

 退学?それだけで?

 でも、さっさと退学しちゃった方が、いいんじゃないのかな?

 だってこの学校あやしいし、教室の雰囲気もヘンだし、先生もこわいし、普通の学校の勉強もしなきゃならないし、、、

 あっ!わたし今日、塾だった!まずい、こんなところでこんなことをしてたらママに怒られる!猫の学校の先生よりもママは絶対にこわいから、早く帰りたいよ!どうしよ~???

 

「大丈夫です。みなさんがここにいることはみなさんのご家族はもちろん、学校の先生や友達も誰も知りません。しかも、ここにいる時間、みなさんの世界の時間は止まっています」

 

 ヨまれてる、わたしのココロ。

 

「みなさんがここで1時間、2時間、たとえ1ヶ月過ごしても、猫の学校を出たらさっきまで過ごしていたいつもの日常に戻ることができます。つまり、ここにきたときと同じ時間からスタートできるということです」

 

 え?ということは、わたしが学校の図書館でヘンな扉を押して、ここにやってきたのがおそらく放課後になった3時すぎ。だからこの猫の学校で何時間授業を受けても、ここを出てふたたび図書館に戻ったら、放課後の3時過ぎに戻れるってこと?

 

「未玖さん、その通りです」

 あいかわらず先生は、わたしの頭の中をのぞいてくる。もうなれたけど、正直ウザい。

 

 

「なので、お父さんお母さんに怒られるとか、塾や部活を休まなければならないとか、友達と遊ぶ約束に遅刻するとか、心配することなくここで猫の勉強をしてください」

 理解できない。
 できないけど、理解できた。

 なんていうのかな、なんでそんな不思議なことができるのかは分からないけど、なんでそんな不思議なことができちゃうってことが分かった。

 


「まずは、最初なのでこんなテーマで授業を始めましょう」


バーーーーンン!!!


『なぜ猫はもてるのか?』」

 

 

 ここから先生は長々と色んなことを話してくれた。

 ここではあえて書かないけど猫がカワイイ理由や猫が素敵な存在ということをひたすら、散々話してくれた。楽しかったけどちょっと長い。

 

「えーーー、では齋藤さん、ここまで色々お話ししましたが、そもそも猫がなぜモテるのか?わかりますか?」

「え?わ、わたしですか、、、え~~~、なんでだろ、う~ん、、、わかんないです」

「なるほど。わかんないという意思を見せてもらえただけで、こちらとしては幸いです。ありがとうございます」



 丁寧な言葉の裏にいろんな感情が見え隠れしている。一見やさしいけどその裏に見える、刃。意味がわかると怖い話みたいな感じで、先生は話す。

 

「今回はわかりやすくいくつかのテーマで紹介しましょうか。猫がモテるワケですが、、、まずはコレです!『丸』!」

 ホワイトボードに「丸」というシンプルなキーワードがペタっと貼られた。

「猫の目は丸くて大きい、そのうえとってもパッチリしていますよね。しかも、猫の顔自体も大きく丸い形をしています。第一印象の『丸』こそ、すべてのかわいいの始まりなのです」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

愛を知ってしまった君は

梅雨の人
恋愛
愛妻家で有名な夫ノアが、夫婦の寝室で妻の親友カミラと交わっているのを目の当たりにした妻ルビー。 実家に戻ったルビーはノアに離縁を迫る。 離縁をどうにか回避したいノアは、ある誓約書にサインすることに。 妻を誰よりも愛している夫ノアと愛を教えてほしいという妻ルビー。 二人の行きつく先はーーーー。

処理中です...