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第四部
だれのこ
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今日は、ゆきから頼まれて、ノルンの部屋にアンジュを手渡しに行った。アンジュの入った小瓶を手渡すと、ノルンは「ーーありがとうございます」と事務的にお礼を言う。
ノルンの顔を見るなり、私は驚いた。ノルンの瞳は青色なのに、今日は瞳の色が違ったからである。
「……あれ? ノルン。瞳の色がいつもと違くない?」
「ああ、あれはカラコンです。今日、時間なくてつけていないんですよ」
「何でわざわざつけてるの? カラコンなんか。めんどくない?」
「ヴィクトリア様からの命令なので。仕方なく、ですね」
「……何で?」
「さあ? お揃いがいいらしいですよ」
私とノルンが話していると、ノルンの部屋の扉が開いた。扉の隙間からは小さな女の子がひょっこりと出て来る。控えめな仕草に人見知りをしているなと思った。青髪で可愛い女の子。だが、目元と鼻筋が何となくノルンに似ていて、私は目が点になる。
「ひより」
ノルンは、部屋から出て来た女の子を窘めるように無表情のまま睨む。
「ご、ごめんなさいっ……。知らない女の人の声がしたから……。だから、気になって……っ」
そう言うなり、また部屋へと引っ込んだ。まだ小学生に上がる手前位の年頃ではないだろうか? と思う。ノルンは、ひよりと呼ぶ少女に対して、冷たい態度を取る事に私は疑問に映った。
「見ない子だね」
「使用人宿舎で住んでいる子ですからね」
「え……? でも、誰の子? ノルンの子じゃないよね?」
「ーーは? 違うに決まってるでしょ」
「でも、目元と鼻筋がめっちゃノルンに似てるけど」
「たまたまでしょ?」
「……」
ノルンから適当にあしらわれている気がしてならないが、私は黙り込むしかなかった。ノルンは二十歳だし、その年であんな大きな子がいたら、いたらで相当若い時に子作りをしている事となる。でも、ゆきの屋敷にいる以上、ゆきに無理矢理、子供を作らされたとしても、不思議ではないのでは? と思った。
「ゆきの旧友のジャムという男の一人娘です」
「ーーえ? あ、そうなんだ。ジャムさんの子なのね」
「はい」
ノルンは、頷くと「ーーちょっと、お茶を取りに行って来るので部屋を見張ってて下さい」と言ってその場から去って行った。取り残された私は、ノルンの部屋へと入る。ベッドの上で小さな体を更に縮こませてびくりとするひよりは、怖々と私を見上げた。
「ーーこんにちは。ひよりちゃん」
少しでも安心させるように、私は作り笑顔を浮かべた。たどたどしくも、「ーーこん、にちは」と返事を返してくれるひよりは、今にも泣き出しそうだった。ノルンの威圧が相当怖かったらしい。
「今ね、ノルン。お茶を取りに行ったからちょっと待ってて。直ぐ戻って来ると思うから」
「う、うん……。あのね」
「ん? なあに?」
不安そうにもごもごと話すひよりに、幾分か優しい口調で話す私。ひよりは言葉を続けた。
「ひよね。ママがいないの。でも、ゆきがね。ママは、このお屋敷の何処かにいるって言うの。でも、私。滅多にこのお屋敷に来れないし。中々、ママを見付けられなくて……。それにね、それに、パパはママの事が大好きだったんだって。だから、ひよね。パパとママを会わせてあげたいの……」
「そうなんだ……」
母親がいないと言うひよりに少なからず、同情心が芽生えた私は、少なからず、複雑な心境に駆られた。ひよりはまだ言いたい事があるようで言葉を止めない。
「ひよ。ノルンの事、怖いの。いつも難しい顔してるから。ひよと遊んでくれないし、いつも、ひよの事、そっちのけでご本読んでるの。たまに此処に来るけど、ひよ、早くお家に帰りたい」
「そっかあ……。まあ、ノルンだからね。お父さんはどんな人ですか? ひよりちゃんはお父さんが好き?」
私は機転を利かして話題を変えるとひよりは、ぱっと花が開くように笑顔になった。
「大好きっ! ひよね、パパの事、大好きなのっ! 優しくていっつも一緒に遊んでくれるし、お仕事で忙しいのに、ひよにね、会いに来てくれるのっ」
「そうですか。いいお父さんですね」
「うんっ」
私は、ひよりの目元と鼻筋を見た。やっぱり、ノルンに良く似ていると思う。
「あのね。ひよね。お顔がノルンに似てるって言われるの」
その言葉に私はぎくりとした。あからさまに反応してしまう。
「だけどね、全然違う」
またその言葉にほっと安堵する。何故、安堵したのかは分からないが、聞いてはいけない事を聞かされる気がして、気が気じゃなかった。
「私はママ似だから。お姉ちゃん。ママの事知らない? ママの名前はね、チェルシーって言うの」
「さあ……。初めて聞く名前ですね」
「そっかあ……」
私が首を傾げて不思議そうに返答すると、ひよりはしょんぼりと残念そうに俯いてしまう。本当に落ち込んでいるようで、私は戸惑ってしまった。
「ーー何してるんですか」
振り返ると、そこにはいつの間にやって来たのか、ノルンがティーセットを片手に突っ立っていた。ひよりはびくりとする。明らかにノルンに怯えていた。
「ノルン。ーーねえ」
「はい?」
「このお屋敷にチェルシーっていう名前の女の人、知らない?」
「知りませんよ」
「そっかあ。ひよりちゃんのママなんだって、その人」
「へえ……そうなんですか」
ノルンは無表情のまま、淡々と返答する。相変わらず、何を考えているのかが読めなかった。そうして、私ははっとある事を思い出す。
「あ、私、ちとせさんに用事あるんだった!」
「ああ、もう用は済んだので退室していいですよ」
「う、うん! またね。ひよりちゃんもまた今度遊ぼうね!」
私とひよりは手を振り合う。そうして、私はノルンの部屋を退室して、使用人宿舎へ足を運んだ。あのジャムに子供がいた事に関して、滅茶苦茶、半信半疑だったが。それに、目元と鼻筋がノルンに似ているひより。
私は、漠然的に、思ったが、それを口に出す事はしなかった。ーーあの場では。
ーーノルン。ひよりちゃんは、貴方の子じゃないの?
今日は、ゆきから頼まれて、ノルンの部屋にアンジュを手渡しに行った。アンジュの入った小瓶を手渡すと、ノルンは「ーーありがとうございます」と事務的にお礼を言う。
ノルンの顔を見るなり、私は驚いた。ノルンの瞳は青色なのに、今日は瞳の色が違ったからである。
「……あれ? ノルン。瞳の色がいつもと違くない?」
「ああ、あれはカラコンです。今日、時間なくてつけていないんですよ」
「何でわざわざつけてるの? カラコンなんか。めんどくない?」
「ヴィクトリア様からの命令なので。仕方なく、ですね」
「……何で?」
「さあ? お揃いがいいらしいですよ」
私とノルンが話していると、ノルンの部屋の扉が開いた。扉の隙間からは小さな女の子がひょっこりと出て来る。控えめな仕草に人見知りをしているなと思った。青髪で可愛い女の子。だが、目元と鼻筋が何となくノルンに似ていて、私は目が点になる。
「ひより」
ノルンは、部屋から出て来た女の子を窘めるように無表情のまま睨む。
「ご、ごめんなさいっ……。知らない女の人の声がしたから……。だから、気になって……っ」
そう言うなり、また部屋へと引っ込んだ。まだ小学生に上がる手前位の年頃ではないだろうか? と思う。ノルンは、ひよりと呼ぶ少女に対して、冷たい態度を取る事に私は疑問に映った。
「見ない子だね」
「使用人宿舎で住んでいる子ですからね」
「え……? でも、誰の子? ノルンの子じゃないよね?」
「ーーは? 違うに決まってるでしょ」
「でも、目元と鼻筋がめっちゃノルンに似てるけど」
「たまたまでしょ?」
「……」
ノルンから適当にあしらわれている気がしてならないが、私は黙り込むしかなかった。ノルンは二十歳だし、その年であんな大きな子がいたら、いたらで相当若い時に子作りをしている事となる。でも、ゆきの屋敷にいる以上、ゆきに無理矢理、子供を作らされたとしても、不思議ではないのでは? と思った。
「ゆきの旧友のジャムという男の一人娘です」
「ーーえ? あ、そうなんだ。ジャムさんの子なのね」
「はい」
ノルンは、頷くと「ーーちょっと、お茶を取りに行って来るので部屋を見張ってて下さい」と言ってその場から去って行った。取り残された私は、ノルンの部屋へと入る。ベッドの上で小さな体を更に縮こませてびくりとするひよりは、怖々と私を見上げた。
「ーーこんにちは。ひよりちゃん」
少しでも安心させるように、私は作り笑顔を浮かべた。たどたどしくも、「ーーこん、にちは」と返事を返してくれるひよりは、今にも泣き出しそうだった。ノルンの威圧が相当怖かったらしい。
「今ね、ノルン。お茶を取りに行ったからちょっと待ってて。直ぐ戻って来ると思うから」
「う、うん……。あのね」
「ん? なあに?」
不安そうにもごもごと話すひよりに、幾分か優しい口調で話す私。ひよりは言葉を続けた。
「ひよね。ママがいないの。でも、ゆきがね。ママは、このお屋敷の何処かにいるって言うの。でも、私。滅多にこのお屋敷に来れないし。中々、ママを見付けられなくて……。それにね、それに、パパはママの事が大好きだったんだって。だから、ひよね。パパとママを会わせてあげたいの……」
「そうなんだ……」
母親がいないと言うひよりに少なからず、同情心が芽生えた私は、少なからず、複雑な心境に駆られた。ひよりはまだ言いたい事があるようで言葉を止めない。
「ひよ。ノルンの事、怖いの。いつも難しい顔してるから。ひよと遊んでくれないし、いつも、ひよの事、そっちのけでご本読んでるの。たまに此処に来るけど、ひよ、早くお家に帰りたい」
「そっかあ……。まあ、ノルンだからね。お父さんはどんな人ですか? ひよりちゃんはお父さんが好き?」
私は機転を利かして話題を変えるとひよりは、ぱっと花が開くように笑顔になった。
「大好きっ! ひよね、パパの事、大好きなのっ! 優しくていっつも一緒に遊んでくれるし、お仕事で忙しいのに、ひよにね、会いに来てくれるのっ」
「そうですか。いいお父さんですね」
「うんっ」
私は、ひよりの目元と鼻筋を見た。やっぱり、ノルンに良く似ていると思う。
「あのね。ひよね。お顔がノルンに似てるって言われるの」
その言葉に私はぎくりとした。あからさまに反応してしまう。
「だけどね、全然違う」
またその言葉にほっと安堵する。何故、安堵したのかは分からないが、聞いてはいけない事を聞かされる気がして、気が気じゃなかった。
「私はママ似だから。お姉ちゃん。ママの事知らない? ママの名前はね、チェルシーって言うの」
「さあ……。初めて聞く名前ですね」
「そっかあ……」
私が首を傾げて不思議そうに返答すると、ひよりはしょんぼりと残念そうに俯いてしまう。本当に落ち込んでいるようで、私は戸惑ってしまった。
「ーー何してるんですか」
振り返ると、そこにはいつの間にやって来たのか、ノルンがティーセットを片手に突っ立っていた。ひよりはびくりとする。明らかにノルンに怯えていた。
「ノルン。ーーねえ」
「はい?」
「このお屋敷にチェルシーっていう名前の女の人、知らない?」
「知りませんよ」
「そっかあ。ひよりちゃんのママなんだって、その人」
「へえ……そうなんですか」
ノルンは無表情のまま、淡々と返答する。相変わらず、何を考えているのかが読めなかった。そうして、私ははっとある事を思い出す。
「あ、私、ちとせさんに用事あるんだった!」
「ああ、もう用は済んだので退室していいですよ」
「う、うん! またね。ひよりちゃんもまた今度遊ぼうね!」
私とひよりは手を振り合う。そうして、私はノルンの部屋を退室して、使用人宿舎へ足を運んだ。あのジャムに子供がいた事に関して、滅茶苦茶、半信半疑だったが。それに、目元と鼻筋がノルンに似ているひより。
私は、漠然的に、思ったが、それを口に出す事はしなかった。ーーあの場では。
ーーノルン。ひよりちゃんは、貴方の子じゃないの?
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