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第四部
ほんとうのきもち
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⚠︎閲覧自己責任
今日で、私の使用人の雇用期間は、最終日となった。
これでやっとお給金が貰えるという、嬉しい気持ちとは裏腹に、私の気持ちはどんよりと曇り空だった。
ーーノルン様に、会えるのは、今日で最後なのだ。
♡
「ーー今日で、最終日でしたっけ?」
「は、はい。ノルン様。短期間でしたが、色々良くしてくれてありがとうございました」
朝、ノルン様を起こしに行って、朝のお茶の準備をする私。ノルン様の自室で深々と挨拶をする。ノルン様のパジャマ姿を見るだけでも、いつもと違う彼の姿が見れて、かっこいいと思ってしまうのは、本当に重症だと思う。
「……いえ、お礼を言うのは、此方の方です。ありがとうございます」
微笑するノルン様に私は俯く。赤面しないように耐えた。
ーー本当にノルン様が微笑んでくれるだけで、凄く凄く、凄く嬉しい……っ!
♡
今日の仕事を終わらせ、使用人宿舎の自室を片付ける。ひるこさんとちとせさんからは、お土産を貰った。帰りの新幹線の中で食べるようにすすめられたのだ。
私は、私服姿で、屋敷にいる全ての人達にお礼と最後のご挨拶をしに行く。そして、最後、ノルン様に挨拶を、と思ったが、自室にはノルン様はいなかった。
「……あれ? どうしたの?」
「ーーあ、ゆき様。ノルン様を見掛けませんでしたか?」
廊下でゆき様とばったり出会した。私が最後のご挨拶がしたい旨を伝えると、ゆき様は微笑んで、「ーーノルンなら、バルコニーで煙草を吸っていたよ」と答えてくれた。私は、会釈すると、バルコニーへと向かった。
♡
「……あ」
バルコニーの扉を開けると、バルコニーに立っているノルン様が煙草を吸いながら私に振り返る。ノルン様がいた……と思ってしまう私。
ーー言わなくちゃ。最後のご挨拶……。……お別れしなくちゃっ。
「……どうしました?」
「あ、あの、ノルン様っ……。短い間でしたが、ありがとうございました。私、もう新幹線に乗って実家に帰るようでして……。最後にご挨拶がしたくて……。お、お忙しいのに、すみませんっ……」
何故か、謝ってしまう私。たどたどしい物言いの挨拶。ーー最悪だ。緊張している事が丸分かりだ。
ノルン様は、携帯灰皿に吸い終わった吸殻を仕舞う。そして、私に向き直った。
「ーーいえ、此方こそ。大変だとは思いますが、これからもお仕事、頑張って下さいね」
「は、はいっ……!」
淡々と答えるノルン様に、私は精一杯頷く。ノルン様は、暫く考え込むと、また口を開いた。その次の言葉に、私は動揺する事となる。
「ーー家の事で、大変だと聞きました」
「ーーっ!!?」
「……」
「ーーだ、誰から……?」
「ちとせが話している所を、ぼくが偶然、聞いてしまった感じです。ーーすみません。立ち聞きするつもりはなかったのですが……」
「……」
私は俯く。気まずい空気が流れる。数秒後、ノルン様は、また私を気遣うような目で言葉を続けた。
「ーー自分が帰る、本当の家がないのは、身を引き裂かれるくらいに辛いと思います」
「……」
「……だから」
「……」
「これからも無理せずに。休める時は休んで。それから頑張って下さいね」
「……あ」
か細い声をぽつりと漏らしてしまう。私の中で、込み上げて来るものが芽生えた。私の視界は涙で滲む。ーー私の家族も親戚も、私にそんな事を言ってくれる人は誰もいなかった。
気が付けば。反射的に口から言葉が漏れていた。
「ーー……っき」
「……はい? ーー何て?」
「……好きっ……ですっ……!」
「……へ?」
「ノルン様の事が……ッ。ーー好きですっ!」
ノルン様は、呆気に取られた顔をして、真っ赤な顔をした私を見返した。
今日で、私の使用人の雇用期間は、最終日となった。
これでやっとお給金が貰えるという、嬉しい気持ちとは裏腹に、私の気持ちはどんよりと曇り空だった。
ーーノルン様に、会えるのは、今日で最後なのだ。
♡
「ーー今日で、最終日でしたっけ?」
「は、はい。ノルン様。短期間でしたが、色々良くしてくれてありがとうございました」
朝、ノルン様を起こしに行って、朝のお茶の準備をする私。ノルン様の自室で深々と挨拶をする。ノルン様のパジャマ姿を見るだけでも、いつもと違う彼の姿が見れて、かっこいいと思ってしまうのは、本当に重症だと思う。
「……いえ、お礼を言うのは、此方の方です。ありがとうございます」
微笑するノルン様に私は俯く。赤面しないように耐えた。
ーー本当にノルン様が微笑んでくれるだけで、凄く凄く、凄く嬉しい……っ!
♡
今日の仕事を終わらせ、使用人宿舎の自室を片付ける。ひるこさんとちとせさんからは、お土産を貰った。帰りの新幹線の中で食べるようにすすめられたのだ。
私は、私服姿で、屋敷にいる全ての人達にお礼と最後のご挨拶をしに行く。そして、最後、ノルン様に挨拶を、と思ったが、自室にはノルン様はいなかった。
「……あれ? どうしたの?」
「ーーあ、ゆき様。ノルン様を見掛けませんでしたか?」
廊下でゆき様とばったり出会した。私が最後のご挨拶がしたい旨を伝えると、ゆき様は微笑んで、「ーーノルンなら、バルコニーで煙草を吸っていたよ」と答えてくれた。私は、会釈すると、バルコニーへと向かった。
♡
「……あ」
バルコニーの扉を開けると、バルコニーに立っているノルン様が煙草を吸いながら私に振り返る。ノルン様がいた……と思ってしまう私。
ーー言わなくちゃ。最後のご挨拶……。……お別れしなくちゃっ。
「……どうしました?」
「あ、あの、ノルン様っ……。短い間でしたが、ありがとうございました。私、もう新幹線に乗って実家に帰るようでして……。最後にご挨拶がしたくて……。お、お忙しいのに、すみませんっ……」
何故か、謝ってしまう私。たどたどしい物言いの挨拶。ーー最悪だ。緊張している事が丸分かりだ。
ノルン様は、携帯灰皿に吸い終わった吸殻を仕舞う。そして、私に向き直った。
「ーーいえ、此方こそ。大変だとは思いますが、これからもお仕事、頑張って下さいね」
「は、はいっ……!」
淡々と答えるノルン様に、私は精一杯頷く。ノルン様は、暫く考え込むと、また口を開いた。その次の言葉に、私は動揺する事となる。
「ーー家の事で、大変だと聞きました」
「ーーっ!!?」
「……」
「ーーだ、誰から……?」
「ちとせが話している所を、ぼくが偶然、聞いてしまった感じです。ーーすみません。立ち聞きするつもりはなかったのですが……」
「……」
私は俯く。気まずい空気が流れる。数秒後、ノルン様は、また私を気遣うような目で言葉を続けた。
「ーー自分が帰る、本当の家がないのは、身を引き裂かれるくらいに辛いと思います」
「……」
「……だから」
「……」
「これからも無理せずに。休める時は休んで。それから頑張って下さいね」
「……あ」
か細い声をぽつりと漏らしてしまう。私の中で、込み上げて来るものが芽生えた。私の視界は涙で滲む。ーー私の家族も親戚も、私にそんな事を言ってくれる人は誰もいなかった。
気が付けば。反射的に口から言葉が漏れていた。
「ーー……っき」
「……はい? ーー何て?」
「……好きっ……ですっ……!」
「……へ?」
「ノルン様の事が……ッ。ーー好きですっ!」
ノルン様は、呆気に取られた顔をして、真っ赤な顔をした私を見返した。
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