春 かすか

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第四部

かえるいえ

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 ⚠︎閲覧自己責任・性的描写あり・胸糞表現注意

 ーーぼくは、えりかの事が好きだ。

 ーーえりかの笑顔が好き。

 ーーえりかの笑顔を見たいと思ってしまう。

 ーーつられて、ぼくも笑顔になってしまうくらい。

 ーーそのくらい、えりかの笑顔が好きだ。

   ♡

 えりかの前髪から、えりかの瞳が覗いている。その瞳は、情欲の色を孕んでいて、ぼくは無性に泣きたくなった。

 えりかが吐息を漏らして、腰をゆっくりと動かして来る。必死に耐えた。耐え続けた。

 だけど、ぼくの心臓は早鐘を打っていて、自分を俯瞰している、もう一人の自分が、ぼくに言う。

 ーー浅ましいと思わないんですか?

 違う。やめろ。ぼくは、こんな事、望んでいない。絶対に。

 ーーこんな形で、好きな人と結ばれて、気持ち良くなっているのは、誰ですか?

 違う。違う。違う違う違う……!!!

 ぼくは、ぼくは……っ!!!

   ♡

「……えりか? どうしたんだい?」

 驚愕して目を見開くえりかが、ぼくの上から退いた。えりかは、ゆきへと勢い良く振り返る。泣きながら、何かを訴えている様子だった。

 ぼくの唇から、血液がとめどもなく零れる。ーーぼくは、舌を歯に挟んで思い切り噛んだ。

「ーーかすか!?」

 ぼくを見るなり、ゆきも驚いた様子で顔色を変える。

 そこから、ぼくの意識は途切れた。

   ♡

 気が付くと、そこは自室だった。ぼくは、顔を横に動かして、全身鏡に映るぼくを見つめる。青白い顔をした顔色の悪い自分が映っていた。

 舌が痛くて、顔を顰める。

 ーー自分は、生きている。そう思った。

 扉のノック音と共に、使用人頭のちとせが入って来た。ぼくの顔を見るなり、にっこりと微笑む。

「気が付きましたか? ノルン様」

「……」

「もう少ししたら、主治医がいらっしゃいますので、お待ち下さいね」

 ぼくの頭を優しく撫でるちとせ。不意に、ぼくは、幼少期の頃の記憶を思い出した。母に頭を撫でられる記憶だ。ぼくの母は、ぼくと血は繋がっていないけれど、優しい人で、いつもぼくが風邪を引くと、側にいてくれたのだ。

 ーー……帰りたい。あの家に。

「……うっ……うっ……ううううぅっ……」

 気が付けば、嗚咽を漏らしていた。目からは、大粒の涙が零れる。

 ちとせの前なのに、耐えきれなかった。ぼくは、ベッドで横になりながら、顔を腕で隠して、声を押し殺して泣いた。泣き続けた。

 ちとせは、そんなぼくへ何も言わずに、ずっと側にいて、頭を撫でてくれていた。

 ーー本当に、誰でもいい。

 ーーぼくを助けて……っ。
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