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第二章 わたしと全然忍んでいない忍者
03 篝丸(かがりまる)
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わたしは抹茶を口にしつつ、忍者をチラチラと見やった。
頭全体と目元以外を覆っている頭巾、上衣に袴に手甲、それからえっと、名前わかんないけど脛当てみたいなやつ。それらは紺色で統一されている。履き物だけは黒色で、多分あれは草鞋だ。
うん、間違いなく忍び衣装だよね。それ以外に何があると? ビジネススーツや学生服には見えないよ?
あ、もしかして……コスプレ写真をSNSに上げるつもりなのかな。今時そんなの珍しくも何ともないもんね。それに、ここの竹林には合っている。
番号が呼ばれると、忍者は抹茶を取りに席を立った。係の女性は、さっきと同じで全然気にしていないみたいだ。観光地だから色んな人が来るだろうし、ひょっとしたら忍者のコスプレ客なんて珍しくも何ともないのかもしれない。
戻って来た忍者は、口元の頭巾をずらすと両手を合わせ、抹茶を取った。あれ、飲む前に写真を撮らなくて良かったのかな。落雁も、眺めたりする事なくあっさり口に入れた。そこまでの興味はないのかな?
うーん、何か色々と気になるけど、あんまり見過ぎるのも良くないから、この辺にしておこう。京ちゃんや大塚さんに、忍者とお茶を飲んだって言ったら、どんな反応が返ってくるかな。あはは。
数分後、忍者はわたしよりも先に飲み終わったらしく、器とお盆を戻しに行った。
「はい、どうも。いつも有難う」
今の係の女性の言葉からすると、常連なのかな。確かにあの格好で度々来てりゃ、慣れて何とも思わなくなるか。
静かに茶席を去る忍者。
あれ、何でだろう……ただのコスプレイヤーのはずなのに、無性に気になって仕方ないんだけど?
……よし、ちょっと追ってみるか。へへへっ。
残りの抹茶と落雁を胃に収め、片付けも終えると、わたしは茶席を後にした。
おっと、忍者ってば歩くの早い。いや、忍者だからこそかな? もたもたしていたら、あっという間に姿を見失いそうだから、いつもよりちょっとだけ歩速を上げる。途中、何人かの観光客とすれ違ったけど、やっぱり皆、忍び衣装は大して気にならないみたいだった。
山門を出て横断歩道の前まで来ると、忍者は右に曲がった。鎌倉駅とは逆方向で、観光地はあんまりなかったはず。何処に向かっているんだろう。
……いや、ちょっと待てよ。
いくら気になるからって、このまま尾行を続けるのはどうなんだろう。観光客の姿が少ないから、人混みに紛れつつこっそり……というのは難しく、多分途中でバレる。
ああ、こうやって考えている間にも、忍者はどんどん先へと進んでゆく。
さあ……どうする、わたし。このまま尾行を続ける? それともここまでにして、駅方面に戻る?
うーん、うーん、うーん……!
よし、続けよう。
だってその方が何か楽しそうだし! もしバレて怪しまれたら、コスプレに興味があるって言って、褒めたりすればいいよね! はい決定!!
というわけで、尾行を続けて、何だかんだで一〇分程が経過しただろうか。
気付くとわたしは、閑静で人気のない住宅街まで来ていた。
報国寺の竹林もだけれど、こういう喧騒から離れた場所っていいよねえ。駅周辺の賑やかさと混雑っぷりが嘘みたい。
こういう所に、自宅レストランや喫茶店、ギャラリーなんかがあったりするんだよね。抹茶飲んできたばかりだけれど、見付けたら入ってみようかな。
……え? 忍者はどうしたのかって?
途中の曲がり角で見失いましたっっ!
曲がった先は分かれ道になっていなかったし、二人の間の距離はそんなになかったはずなのに。もしかしたら、尾行に気付いて走って逃げちゃったのかもしれない。
とりあえず駅の方に戻ろう。本来の目的だった観光を楽しまなきゃ。
やれやれ、我ながら子供っぽかったな……なんて思いながら回れ右したわたしの目に入ってきたのは、ほんの五、六メートルしか離れていない位置に腕を組んで立っている、あの忍者だった!!
……驚き過ぎて、一瞬心臓が止まったかと思ったわよ! 一体何処に隠れていたわけ!?
「何の用だ」
忍者の声からは、怒りや警戒なんかは感じられなかった。単に気になるから質問した、みたいな。
「この篝丸に用があって、報国寺から尾けて来たのだろう」
あ、バレバレでしたかー!
ん? カガリマル? それがこの人の名前なのか。
いやまさか、本名じゃないよね。なり切っているんだわ、本物の忍者に。だとすると、ただのコスプレイヤーより、ちょっと面倒臭いかもしれないぞ。
「え、えーっと……」さっき考えた言い訳を使えばいいよね。「わたし、コスプレに興味があって! あなたのその忍者コスが素敵だから、つい。あはは、すみません~」
「コスプレ?」
忍者はきょとんとしている。え、だってどう見てもその格好は忍び衣装──……
「これは仕事着だが」
「へ?」
「本業が忍者だ」
「……おおうっ!?」
これがわたしと篝丸との出逢いだった。
まさか、変身能力者の探偵の次が忍者だなんて、誰が想像出来たかしら?
頭全体と目元以外を覆っている頭巾、上衣に袴に手甲、それからえっと、名前わかんないけど脛当てみたいなやつ。それらは紺色で統一されている。履き物だけは黒色で、多分あれは草鞋だ。
うん、間違いなく忍び衣装だよね。それ以外に何があると? ビジネススーツや学生服には見えないよ?
あ、もしかして……コスプレ写真をSNSに上げるつもりなのかな。今時そんなの珍しくも何ともないもんね。それに、ここの竹林には合っている。
番号が呼ばれると、忍者は抹茶を取りに席を立った。係の女性は、さっきと同じで全然気にしていないみたいだ。観光地だから色んな人が来るだろうし、ひょっとしたら忍者のコスプレ客なんて珍しくも何ともないのかもしれない。
戻って来た忍者は、口元の頭巾をずらすと両手を合わせ、抹茶を取った。あれ、飲む前に写真を撮らなくて良かったのかな。落雁も、眺めたりする事なくあっさり口に入れた。そこまでの興味はないのかな?
うーん、何か色々と気になるけど、あんまり見過ぎるのも良くないから、この辺にしておこう。京ちゃんや大塚さんに、忍者とお茶を飲んだって言ったら、どんな反応が返ってくるかな。あはは。
数分後、忍者はわたしよりも先に飲み終わったらしく、器とお盆を戻しに行った。
「はい、どうも。いつも有難う」
今の係の女性の言葉からすると、常連なのかな。確かにあの格好で度々来てりゃ、慣れて何とも思わなくなるか。
静かに茶席を去る忍者。
あれ、何でだろう……ただのコスプレイヤーのはずなのに、無性に気になって仕方ないんだけど?
……よし、ちょっと追ってみるか。へへへっ。
残りの抹茶と落雁を胃に収め、片付けも終えると、わたしは茶席を後にした。
おっと、忍者ってば歩くの早い。いや、忍者だからこそかな? もたもたしていたら、あっという間に姿を見失いそうだから、いつもよりちょっとだけ歩速を上げる。途中、何人かの観光客とすれ違ったけど、やっぱり皆、忍び衣装は大して気にならないみたいだった。
山門を出て横断歩道の前まで来ると、忍者は右に曲がった。鎌倉駅とは逆方向で、観光地はあんまりなかったはず。何処に向かっているんだろう。
……いや、ちょっと待てよ。
いくら気になるからって、このまま尾行を続けるのはどうなんだろう。観光客の姿が少ないから、人混みに紛れつつこっそり……というのは難しく、多分途中でバレる。
ああ、こうやって考えている間にも、忍者はどんどん先へと進んでゆく。
さあ……どうする、わたし。このまま尾行を続ける? それともここまでにして、駅方面に戻る?
うーん、うーん、うーん……!
よし、続けよう。
だってその方が何か楽しそうだし! もしバレて怪しまれたら、コスプレに興味があるって言って、褒めたりすればいいよね! はい決定!!
というわけで、尾行を続けて、何だかんだで一〇分程が経過しただろうか。
気付くとわたしは、閑静で人気のない住宅街まで来ていた。
報国寺の竹林もだけれど、こういう喧騒から離れた場所っていいよねえ。駅周辺の賑やかさと混雑っぷりが嘘みたい。
こういう所に、自宅レストランや喫茶店、ギャラリーなんかがあったりするんだよね。抹茶飲んできたばかりだけれど、見付けたら入ってみようかな。
……え? 忍者はどうしたのかって?
途中の曲がり角で見失いましたっっ!
曲がった先は分かれ道になっていなかったし、二人の間の距離はそんなになかったはずなのに。もしかしたら、尾行に気付いて走って逃げちゃったのかもしれない。
とりあえず駅の方に戻ろう。本来の目的だった観光を楽しまなきゃ。
やれやれ、我ながら子供っぽかったな……なんて思いながら回れ右したわたしの目に入ってきたのは、ほんの五、六メートルしか離れていない位置に腕を組んで立っている、あの忍者だった!!
……驚き過ぎて、一瞬心臓が止まったかと思ったわよ! 一体何処に隠れていたわけ!?
「何の用だ」
忍者の声からは、怒りや警戒なんかは感じられなかった。単に気になるから質問した、みたいな。
「この篝丸に用があって、報国寺から尾けて来たのだろう」
あ、バレバレでしたかー!
ん? カガリマル? それがこの人の名前なのか。
いやまさか、本名じゃないよね。なり切っているんだわ、本物の忍者に。だとすると、ただのコスプレイヤーより、ちょっと面倒臭いかもしれないぞ。
「え、えーっと……」さっき考えた言い訳を使えばいいよね。「わたし、コスプレに興味があって! あなたのその忍者コスが素敵だから、つい。あはは、すみません~」
「コスプレ?」
忍者はきょとんとしている。え、だってどう見てもその格好は忍び衣装──……
「これは仕事着だが」
「へ?」
「本業が忍者だ」
「……おおうっ!?」
これがわたしと篝丸との出逢いだった。
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