1 / 15
プロローグ
01 失われし非モテ仲間
しおりを挟む
「実は先月入籍したんだ」
快晴の日曜日。
数箇月振りに会った親友・康美の口から、衝撃的な台詞が飛び出した。
「え……嘘でしょ!?」
驚きのあまり、わたしは思わず失礼な言葉を返してしまった。
「ほんとほんと、ほんとの話。大学時代から付き合ってて……まあ友達感覚に近かったんだけどさ、一緒に出掛けた東京デズニイランドのツンデレーナ城の前でプロポーズされて」
わたしはあんぐりと口を開いたまま固まった。
大学時代から付き合ってた……?
わたしと同じで昔から非モテだったはずでは? 非モテ仲間だったはずでは……!?
「先にトークアプリの方にメッセージ送っておいても良かったんだけど、今日、自分の口から直接言いたくて」
「……いやあビックリしたよ! 全然知らなかったからさ! おめでとう、康美!」
わたしは開きっぱなしだった口を何とか動かし、精一杯の笑顔で祝福した。
「有難う!」
……この裏切り者。
一瞬でもそう思ってしまった自分が何だか凄く嫌だった──康美の屈託のない笑顔を目にしてしまったら、尚更。
康美と会う一箇月前に、このわたし──桐島美十香は二八歳の誕生日を迎えた。
当日にお祝いの言葉を掛けてくれたのは、同居している両親だけ。二人からのプレゼントは、近所のケーキ屋のショートケーキが一ピース。
世の中にはプレゼントどころか、誰からも祝ってすらもらえない人たちだっているだろうから、贅沢言っちゃいけないって事はわかってる。
でも……でもね。
どうせだったら、愛する男性からもおめでとうって言われたいし、プレゼントだって貰いたいじゃない?
……要するに恋人が欲しいんじゃ! 男が欲しいんじゃ!
でもいねえ! マジでいねえ! 今まで全然いた事ねえ!
おかしいな! 何でだろ! 見事に非モテだこん畜生!!
康美だってそのはずだった。同じ学校に通っていた中高時代はしょっちゅう二人で遊んだ。大学はそれぞれ別だったけれど、たまに会って遊んだりSNSでやり取りして、そこに男の影なんて微塵も感じられなかったのに。
「何か……寂しいんですけどー?」
帰宅後、わたしは自室のカーペットの上に無気力に寝転がっていた。
康美の件は、両親にはしばらくの間黙っておくつもりだ。話そうものなら、間違いなく「あんたの結婚はいつなの」「いつになったら孫の顔が見られるんだか」なんて言われてしまうから。ああ、想像しただけでイラッとする。
〝大学時代から付き合ってて〟
何で教えてくれなかったんだろう。親友なのに。
あ、もしかして……抜け駆けしたと思われたくなかったのかな。
〝東京デズニイランドのツンデレーナ城の前でプロポーズされて〟
「あー……」
康美の結婚を全く祝福していないわけではない。親友が幸せになるのは本当に嬉しい事だ。
でも……でもね。
何だか虚しくなってきた。
わたしだってね、口ばっかりで何もしてこなかったわけじゃない。高校時代には一つ上の先輩に、大学時代には同じサークルの男子に勇気を出して告白したし、二五を過ぎてからは、婚活とはいかないまでもパートナー探しのイベントに参加するようになった。
でも、どれ一つとして実った試しはない。
何が悪いんだろう。顔? 性格? スタイル? 運?
あ、もしかして全部? ド畜生!!
「へっ、どうせわたしにはそんな縁なんて一生ないですよーだ」
……口に出したら、何だか余計に虚しくなってきた……。
康美と会った日から一週間後。
ああ、憂鬱。
非モテ仲間だったはずの康美の結婚は、やっぱり嬉しさよりもショックの方が大きい。
ごめんね康美、心の狭い人間で……。
仕事のストレスもあるし、気分転換にパアッと散財でもしようと思い、今日は横須賀市内の自宅から電車で東京・渋谷、それから徒歩で原宿まで来たけれど、服もバッグもキャラクターグッズも、これといって欲しい物はなかった。
わたしはカフェで簡単に昼食を取ると、特に目的地を定めずにフラフラと歩き出した。こちらの方角は恐らく南寄りだ。道なりに適当に歩いていれば、いずれは品川方面に着くだろうから、そうしたら京急線で帰ろう。
歩き出してから二、三〇分後、割と閑静な住宅街に差し掛かった。
うわ……ここ絶対高級住宅街だ。どの家も立派で綺麗だし、手入れされた花壇のある広い庭とか、高級車もちらほら。わたしのような庶民はお呼びじゃないって空気を感じるような気がするのは、流石に考え過ぎかな。
更に歩き続けて十数分後。
高級住宅街を抜け、まあまあ普通な感じの住宅街に差し掛かった時、わたしは右手側に小さな神社を発見した。
民家と民家の間に、あまり幅は広くない石畳が敷かれていて、その数十メートル先に白い鳥居、その奥に拝殿。
普段は大して興味ないのに、何故だろう、もの凄く興味が湧いてきた。
……ちょっと寄り道してみるか。
わたしは石畳の上を、一歩ずつ踏み締めるようにゆっくり進んだ。緊張しているわけでも、足元の感触を確かめたいわけでもないのに。
ひょっとすると、この時点で既に本能が感じ取っていたのかもしれない──この後、謎の老人との出会いをきっかけに、退屈でちょっと寂しかったわたしの人生が変化してゆくって事を。
快晴の日曜日。
数箇月振りに会った親友・康美の口から、衝撃的な台詞が飛び出した。
「え……嘘でしょ!?」
驚きのあまり、わたしは思わず失礼な言葉を返してしまった。
「ほんとほんと、ほんとの話。大学時代から付き合ってて……まあ友達感覚に近かったんだけどさ、一緒に出掛けた東京デズニイランドのツンデレーナ城の前でプロポーズされて」
わたしはあんぐりと口を開いたまま固まった。
大学時代から付き合ってた……?
わたしと同じで昔から非モテだったはずでは? 非モテ仲間だったはずでは……!?
「先にトークアプリの方にメッセージ送っておいても良かったんだけど、今日、自分の口から直接言いたくて」
「……いやあビックリしたよ! 全然知らなかったからさ! おめでとう、康美!」
わたしは開きっぱなしだった口を何とか動かし、精一杯の笑顔で祝福した。
「有難う!」
……この裏切り者。
一瞬でもそう思ってしまった自分が何だか凄く嫌だった──康美の屈託のない笑顔を目にしてしまったら、尚更。
康美と会う一箇月前に、このわたし──桐島美十香は二八歳の誕生日を迎えた。
当日にお祝いの言葉を掛けてくれたのは、同居している両親だけ。二人からのプレゼントは、近所のケーキ屋のショートケーキが一ピース。
世の中にはプレゼントどころか、誰からも祝ってすらもらえない人たちだっているだろうから、贅沢言っちゃいけないって事はわかってる。
でも……でもね。
どうせだったら、愛する男性からもおめでとうって言われたいし、プレゼントだって貰いたいじゃない?
……要するに恋人が欲しいんじゃ! 男が欲しいんじゃ!
でもいねえ! マジでいねえ! 今まで全然いた事ねえ!
おかしいな! 何でだろ! 見事に非モテだこん畜生!!
康美だってそのはずだった。同じ学校に通っていた中高時代はしょっちゅう二人で遊んだ。大学はそれぞれ別だったけれど、たまに会って遊んだりSNSでやり取りして、そこに男の影なんて微塵も感じられなかったのに。
「何か……寂しいんですけどー?」
帰宅後、わたしは自室のカーペットの上に無気力に寝転がっていた。
康美の件は、両親にはしばらくの間黙っておくつもりだ。話そうものなら、間違いなく「あんたの結婚はいつなの」「いつになったら孫の顔が見られるんだか」なんて言われてしまうから。ああ、想像しただけでイラッとする。
〝大学時代から付き合ってて〟
何で教えてくれなかったんだろう。親友なのに。
あ、もしかして……抜け駆けしたと思われたくなかったのかな。
〝東京デズニイランドのツンデレーナ城の前でプロポーズされて〟
「あー……」
康美の結婚を全く祝福していないわけではない。親友が幸せになるのは本当に嬉しい事だ。
でも……でもね。
何だか虚しくなってきた。
わたしだってね、口ばっかりで何もしてこなかったわけじゃない。高校時代には一つ上の先輩に、大学時代には同じサークルの男子に勇気を出して告白したし、二五を過ぎてからは、婚活とはいかないまでもパートナー探しのイベントに参加するようになった。
でも、どれ一つとして実った試しはない。
何が悪いんだろう。顔? 性格? スタイル? 運?
あ、もしかして全部? ド畜生!!
「へっ、どうせわたしにはそんな縁なんて一生ないですよーだ」
……口に出したら、何だか余計に虚しくなってきた……。
康美と会った日から一週間後。
ああ、憂鬱。
非モテ仲間だったはずの康美の結婚は、やっぱり嬉しさよりもショックの方が大きい。
ごめんね康美、心の狭い人間で……。
仕事のストレスもあるし、気分転換にパアッと散財でもしようと思い、今日は横須賀市内の自宅から電車で東京・渋谷、それから徒歩で原宿まで来たけれど、服もバッグもキャラクターグッズも、これといって欲しい物はなかった。
わたしはカフェで簡単に昼食を取ると、特に目的地を定めずにフラフラと歩き出した。こちらの方角は恐らく南寄りだ。道なりに適当に歩いていれば、いずれは品川方面に着くだろうから、そうしたら京急線で帰ろう。
歩き出してから二、三〇分後、割と閑静な住宅街に差し掛かった。
うわ……ここ絶対高級住宅街だ。どの家も立派で綺麗だし、手入れされた花壇のある広い庭とか、高級車もちらほら。わたしのような庶民はお呼びじゃないって空気を感じるような気がするのは、流石に考え過ぎかな。
更に歩き続けて十数分後。
高級住宅街を抜け、まあまあ普通な感じの住宅街に差し掛かった時、わたしは右手側に小さな神社を発見した。
民家と民家の間に、あまり幅は広くない石畳が敷かれていて、その数十メートル先に白い鳥居、その奥に拝殿。
普段は大して興味ないのに、何故だろう、もの凄く興味が湧いてきた。
……ちょっと寄り道してみるか。
わたしは石畳の上を、一歩ずつ踏み締めるようにゆっくり進んだ。緊張しているわけでも、足元の感触を確かめたいわけでもないのに。
ひょっとすると、この時点で既に本能が感じ取っていたのかもしれない──この後、謎の老人との出会いをきっかけに、退屈でちょっと寂しかったわたしの人生が変化してゆくって事を。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる