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第五章 終わりにしよう
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──一週間って早いなあ。
百合子との会話から八日後、第三日曜日。
麗美は夕凪高校の第一校舎内に足を踏み入れた。休日だけあって、校舎の外では運動部員の姿がちらほらと見受けられたものの、中の方には人の気配がほとんどなく、静かだ。
──絵美子……。
目的地は第一図書室だ。
先週の日曜日には、事前に連絡を入れたうえで千鶴の元へ百合子も連れてゆき、現在及び二〇年前の夕凪高校の異変とその原因を、かいつまんで説明した。
「それはまた……いや、予想以上でした。はい」
千鶴は驚いていたが呑み込みは早く、麗美たちの話が終わると、先日自分が気付いてしまった事実を早速二人に教えたいと言った。
「気付いてしまったって……何に?」麗美は身を乗り出した。
「これを見てください」千鶴はテーブルの上に古びたスケッチブックを乗せた。「これはガラケー全盛期に、美術部員によって使用されていたものと思われます。美術準備室で見付けました」
麗美は表紙から順にめくってゆき、途中で手を止めた。
「三ページくらいしか使われてないんだね、勿体ない」
「千鶴ちゃんの言う通り、ガラケー時代の学生が描いたっぽいわね。私と同じ頃の子だったりして」
「実は中身はそこまで重要じゃありません。裏表紙です。裏表紙に書かれている、持ち主の名前です」
麗美はスケッチブックを閉じてひっくり返した。
「あれ!? この名前って──」
「麗美さんはこの人の存在を今は覚えているんですね」
「え?」
「へえ……なるほどね」百合子は溜め息を吐きながら苦笑した。
「えっと……え?」麗美は叔母と友人を交互に見やった。
「そこに書かれている名前は、私が夕凪高生時代に、同じく夕凪高生として実在していた人間のもの」百合子が答えた。「直接この目で見た事はないから、どんな姿だったかはわからないけど、麗美たちのクラスにも同じ名前、そして恐らくは同じ容姿をした人間がいる」
「……あ!」麗美はソファから立ち上がりかけた。「ま、まさかあの人の正体って!!」
「そう、〝あいつ〟だよ。麗美たち四組の生徒や担任だけでなく、学校中の人間の記憶を操って、実在していると思わせていた」
百合子が言い切ると、千鶴も頷いた。
「でも、その力が不完全だったか、あるいはわざとか……どちらなのかははっきりわからないけど、時々クラスから存在が消えてしまっていた。通常ならまず気付かないんだろうけど、あんたたち二人は度々違和感を覚えていた。
そしてとうとう千鶴ちゃんが、そのスケッチブックの裏に書かれた名前を目にした事で、完全に思い出した──その名前と同姓同名のクラスメートは、元々存在していなかったって事実に」
「うわあ……うわあマジか……うわあマジだ……!」麗美は頭を抱えた。
「大丈夫ですか麗美さん」
「うん、わたしも今完全に思い出したよ! この名前の人間は、二年四組にはいなかった! というかほぼ間違いなく、二年生にもいなかった!」
麗美は両手で持っていたスケッチブックを左手に持ち替え、右の人差し指で名前の部分を数回叩いた。
「現れたのはつい最近……そう、多分、わたしが絵美子と初めて出会って、千鶴ちゃんが耳鳴りと貧血で倒れたあの日から!」
千鶴には、引き続き〝あいつ〟の存在に気付いていないフリをし続けてもらっていた。気付いた事が〝あいつ〟に知られてしまったら、間違いなく危害を加えられてしまうからだ。
──この一週間のうちにも色々あったなあ。
三人で話し合った翌日から金曜日の間に、夕凪高校の至る所で様々な問題──事故に悪戯、怪奇現象──が多発していた。当然ながらその犯人は未だに判明しておらず、教師陣はピリピリしていて、生徒たちの間にも不穏な空気が流れている。
金曜日の朝には、緊急全校集会が体育館で行われた。三年生の学年主任が「このままでは警察に相談せざるを得なくなる」と語気を強めた直後、体育館内の電気が勝手に消え、あちこちからラップ音のようなものが聞こえると、その場は一時騒然となった。
── 今日で全てを終わらせないと。
図書室のドアには鍵が掛かっていた。日曜日なので当然といえば当然だ。それでも麗美は落ち着いていた。必ず絵美子に会えるという確信さえあった。
「絵美子、麗美だよ。来たよ」麗美はドアに向かって声を掛けた。「中にいるよね、絵美子? 開けて。〝あいつ〟にバレちゃマズいから、早く」
しかし、ドアが開く気配はない。
──あ、あれ? ……どうしよう!
「朝比奈さんじゃないか」
後ろから麗美を呼んだのは、絶対に会いたくなかった人物だった。
「どうしたの、今日は日曜日なのに」
「……もうわたしの記憶は弄れないよ、石田君」麗美はゆっくり振り返ると身構えた。「いえ、はた迷惑な森の化け物さん?」
千鶴が所持していたスケッチブックに書かれていた名前は、麗美の後ろの席の男子生徒と同姓同名だった。スケッチブックの持ち主であり、二〇年前、学校に魔物がいるとして不登校になった三年生の男子生徒の名前は──石田公彦。
「何だよ、つまんねえな」
とぼけるかと思いきや、〝あいつ〟は意外にもあっさりと本性を現した。
「で、図書室に何しに来たんだ? ん?」
〝あいつ〟が不気味な笑みを浮かべて、ジリジリと近付いて来る。
「答えろよ……答えろ朝比奈麗美ぃ!!」
「わたしに会いに来てくれたのよね」
その澄んだ声は、〝あいつ〟のすぐ後ろから聞こえた。
「なっ──」
〝あいつ〟は振り向くと、途端に両手で首を押さえてもがき苦しみ出した。
「わたしの親友に手を出すのは許せない」
望月絵美子が、右の掌を〝あいつ〟に突き出すようにして立っていた。
「絵美子!」
「麗美、大丈夫? とりあえず逃げるわよ!」
絵美子は苦しみ続ける〝あいつ〟の横をすり抜け、麗美の手を取った。
「絵美子、中庭に!」
何故かと目で問う絵美子に、麗美は続けた。
「百合子叔母さんと保さんが待ってるはずだから!」
「え──」絵美子の目が見開かれた。「ど……どうして!?」
「ま、て……」
〝あいつ〟が、よろめきながらも近付いて来ると、絵美子はもう一度掌を突き出して後方に吹っ飛ばした。
「麗美。今、百合子の事をおばさんって──」
「詳しい話は後。早く!」
二人は一番近い階段で一階まで走って下りると、中庭に面する出入口から外に出た。
「いた!」
麗美の視線の先には、針葉樹の前に立つ、リュックを背負った男女が二人。
「おーい、叔母さん! 保さん!」
百合子と保が振り向くと、麗美は二人の元へ走り寄った。
「叔母さん正門からじゃなくて抜け道使って入って来たのっ? あ、保さんはじめまして! やっぱり来てくれたんですねっ!」
「あ、ああ……」
百合子と保の意識は、麗美よりもその向こうにいる少女に向けられていた。
「絵美子」百合子が呟いた。「ああ……絵美子がいる……」
「ほら絵美子、こっちこっち!」
絵美子は石像にでもなってしまったかのように突っ立っていたが、麗美が手招きすると、感極まった表情で走り寄って来た。
「絵美子!」百合子は両手を広げ、勢い余ってつんのめった絵美子を受け止めた。「絵美子! 良かった、また会えた!」
「百合子……保……!」
「よう、久し振りだな」保はぎこちなく笑ってみせた。「ビックリしたか? 俺たち老けちまったもんな!」
「情報処理が全然追い付かない」絵美子は百合子に抱き付いたまま答えた。「凄く嬉しい。けれど、どうして二人がここに?」
「〝あいつ〟の復活は夢で知ったの。学校で起こってる異変や、あなたが図書室にいるって事は、麗美から聞いた」
「どうして麗美が? そういえばさっき、おばさんって」
「〝百合子ちゃん〟て呼んでって、昔から何度も言って聞かせてきたのに定着しなくてさ」百合子はわざと顔をしかめ、それから笑みを溢した。「私の姉の娘、つまり姪よ」
「そうだったの……」絵美子は百合子から離れると麗美を見やり、穏やかに微笑んだ。「そうか……だから初めて会った時、不思議な感じがしたんだわ」
「絵美子、自由に動き回れるのね」
「ええ、金曜日辺りだったかしら。何故か急に、一気に力が戻ってくるのを感じて。図書室から出て、何処まで歩き回れるか試したら、結構自由にね」
「急にどうしてだ?」
「わからないの」絵美子はかぶりを振った。「そもそもわたし、気付いたら図書室にいたんだけれど、〝あいつ〟を封印してから二〇年も経っていると知った時は本当に驚いたわ。その間は多分、魂は眠っていたんだろうけれど、どうして目覚めたのか。それに〝あいつ〟の復活も。しっかり封印したはずなのに何故?」
「誰かが意図的にやった……とか?」
百合子が言うと、絵美子と保は息を呑んだ。
「ね、ねえ、その話も大切かもしれないけど」麗美が申し訳なさそうに口を挟んだ。「そろそろ〝あいつ〟が来るかも。わたしと絵美子はさっき、図書室の前で遭遇しちゃったの!」
「何だって!?」
「そうなのよ、二人共。〝あいつ〟は、もうとっくにわたしたちの動きに気付いている」
四人は自然と背中合わせになり、身構えた。
「危険。危険」
何処からか──場所は近いようだ──少女のような甲高い声が聞こえてきた。
「な、何?」麗美は後ずさりした。
「怖い。怖い」
最初のものとは似て異なる声もした。
「逃げる。逃げる」
再び最初の声がしたが、それっきり聞こえなくなった。
「え、何、今の誰?」
「大丈夫、彼らは──」
絵美子は新しい友人に説明してあげたかったが、言葉を続けられなかった。視界がぐにゃりと歪んだかと思うと、ぐるぐると回り始めたからだ。そしてそれは、他の三人も同じだった。
「〝あいつ〟だ!」保は舌打ちした。
「またご招待されるみたいね、あの森に」絵美子は冷静だ。
「いいじゃん、こっちから探す手間が省けて!」百合子は無理に笑ってみせた。
「え、ちょ、嘘ぉ!?」
足元が浮くような感覚にフラついた麗美を、絵美子が支えた。何かを言っているが、耳鳴りが酷くて聞き取れない──……
百合子との会話から八日後、第三日曜日。
麗美は夕凪高校の第一校舎内に足を踏み入れた。休日だけあって、校舎の外では運動部員の姿がちらほらと見受けられたものの、中の方には人の気配がほとんどなく、静かだ。
──絵美子……。
目的地は第一図書室だ。
先週の日曜日には、事前に連絡を入れたうえで千鶴の元へ百合子も連れてゆき、現在及び二〇年前の夕凪高校の異変とその原因を、かいつまんで説明した。
「それはまた……いや、予想以上でした。はい」
千鶴は驚いていたが呑み込みは早く、麗美たちの話が終わると、先日自分が気付いてしまった事実を早速二人に教えたいと言った。
「気付いてしまったって……何に?」麗美は身を乗り出した。
「これを見てください」千鶴はテーブルの上に古びたスケッチブックを乗せた。「これはガラケー全盛期に、美術部員によって使用されていたものと思われます。美術準備室で見付けました」
麗美は表紙から順にめくってゆき、途中で手を止めた。
「三ページくらいしか使われてないんだね、勿体ない」
「千鶴ちゃんの言う通り、ガラケー時代の学生が描いたっぽいわね。私と同じ頃の子だったりして」
「実は中身はそこまで重要じゃありません。裏表紙です。裏表紙に書かれている、持ち主の名前です」
麗美はスケッチブックを閉じてひっくり返した。
「あれ!? この名前って──」
「麗美さんはこの人の存在を今は覚えているんですね」
「え?」
「へえ……なるほどね」百合子は溜め息を吐きながら苦笑した。
「えっと……え?」麗美は叔母と友人を交互に見やった。
「そこに書かれている名前は、私が夕凪高生時代に、同じく夕凪高生として実在していた人間のもの」百合子が答えた。「直接この目で見た事はないから、どんな姿だったかはわからないけど、麗美たちのクラスにも同じ名前、そして恐らくは同じ容姿をした人間がいる」
「……あ!」麗美はソファから立ち上がりかけた。「ま、まさかあの人の正体って!!」
「そう、〝あいつ〟だよ。麗美たち四組の生徒や担任だけでなく、学校中の人間の記憶を操って、実在していると思わせていた」
百合子が言い切ると、千鶴も頷いた。
「でも、その力が不完全だったか、あるいはわざとか……どちらなのかははっきりわからないけど、時々クラスから存在が消えてしまっていた。通常ならまず気付かないんだろうけど、あんたたち二人は度々違和感を覚えていた。
そしてとうとう千鶴ちゃんが、そのスケッチブックの裏に書かれた名前を目にした事で、完全に思い出した──その名前と同姓同名のクラスメートは、元々存在していなかったって事実に」
「うわあ……うわあマジか……うわあマジだ……!」麗美は頭を抱えた。
「大丈夫ですか麗美さん」
「うん、わたしも今完全に思い出したよ! この名前の人間は、二年四組にはいなかった! というかほぼ間違いなく、二年生にもいなかった!」
麗美は両手で持っていたスケッチブックを左手に持ち替え、右の人差し指で名前の部分を数回叩いた。
「現れたのはつい最近……そう、多分、わたしが絵美子と初めて出会って、千鶴ちゃんが耳鳴りと貧血で倒れたあの日から!」
千鶴には、引き続き〝あいつ〟の存在に気付いていないフリをし続けてもらっていた。気付いた事が〝あいつ〟に知られてしまったら、間違いなく危害を加えられてしまうからだ。
──この一週間のうちにも色々あったなあ。
三人で話し合った翌日から金曜日の間に、夕凪高校の至る所で様々な問題──事故に悪戯、怪奇現象──が多発していた。当然ながらその犯人は未だに判明しておらず、教師陣はピリピリしていて、生徒たちの間にも不穏な空気が流れている。
金曜日の朝には、緊急全校集会が体育館で行われた。三年生の学年主任が「このままでは警察に相談せざるを得なくなる」と語気を強めた直後、体育館内の電気が勝手に消え、あちこちからラップ音のようなものが聞こえると、その場は一時騒然となった。
── 今日で全てを終わらせないと。
図書室のドアには鍵が掛かっていた。日曜日なので当然といえば当然だ。それでも麗美は落ち着いていた。必ず絵美子に会えるという確信さえあった。
「絵美子、麗美だよ。来たよ」麗美はドアに向かって声を掛けた。「中にいるよね、絵美子? 開けて。〝あいつ〟にバレちゃマズいから、早く」
しかし、ドアが開く気配はない。
──あ、あれ? ……どうしよう!
「朝比奈さんじゃないか」
後ろから麗美を呼んだのは、絶対に会いたくなかった人物だった。
「どうしたの、今日は日曜日なのに」
「……もうわたしの記憶は弄れないよ、石田君」麗美はゆっくり振り返ると身構えた。「いえ、はた迷惑な森の化け物さん?」
千鶴が所持していたスケッチブックに書かれていた名前は、麗美の後ろの席の男子生徒と同姓同名だった。スケッチブックの持ち主であり、二〇年前、学校に魔物がいるとして不登校になった三年生の男子生徒の名前は──石田公彦。
「何だよ、つまんねえな」
とぼけるかと思いきや、〝あいつ〟は意外にもあっさりと本性を現した。
「で、図書室に何しに来たんだ? ん?」
〝あいつ〟が不気味な笑みを浮かべて、ジリジリと近付いて来る。
「答えろよ……答えろ朝比奈麗美ぃ!!」
「わたしに会いに来てくれたのよね」
その澄んだ声は、〝あいつ〟のすぐ後ろから聞こえた。
「なっ──」
〝あいつ〟は振り向くと、途端に両手で首を押さえてもがき苦しみ出した。
「わたしの親友に手を出すのは許せない」
望月絵美子が、右の掌を〝あいつ〟に突き出すようにして立っていた。
「絵美子!」
「麗美、大丈夫? とりあえず逃げるわよ!」
絵美子は苦しみ続ける〝あいつ〟の横をすり抜け、麗美の手を取った。
「絵美子、中庭に!」
何故かと目で問う絵美子に、麗美は続けた。
「百合子叔母さんと保さんが待ってるはずだから!」
「え──」絵美子の目が見開かれた。「ど……どうして!?」
「ま、て……」
〝あいつ〟が、よろめきながらも近付いて来ると、絵美子はもう一度掌を突き出して後方に吹っ飛ばした。
「麗美。今、百合子の事をおばさんって──」
「詳しい話は後。早く!」
二人は一番近い階段で一階まで走って下りると、中庭に面する出入口から外に出た。
「いた!」
麗美の視線の先には、針葉樹の前に立つ、リュックを背負った男女が二人。
「おーい、叔母さん! 保さん!」
百合子と保が振り向くと、麗美は二人の元へ走り寄った。
「叔母さん正門からじゃなくて抜け道使って入って来たのっ? あ、保さんはじめまして! やっぱり来てくれたんですねっ!」
「あ、ああ……」
百合子と保の意識は、麗美よりもその向こうにいる少女に向けられていた。
「絵美子」百合子が呟いた。「ああ……絵美子がいる……」
「ほら絵美子、こっちこっち!」
絵美子は石像にでもなってしまったかのように突っ立っていたが、麗美が手招きすると、感極まった表情で走り寄って来た。
「絵美子!」百合子は両手を広げ、勢い余ってつんのめった絵美子を受け止めた。「絵美子! 良かった、また会えた!」
「百合子……保……!」
「よう、久し振りだな」保はぎこちなく笑ってみせた。「ビックリしたか? 俺たち老けちまったもんな!」
「情報処理が全然追い付かない」絵美子は百合子に抱き付いたまま答えた。「凄く嬉しい。けれど、どうして二人がここに?」
「〝あいつ〟の復活は夢で知ったの。学校で起こってる異変や、あなたが図書室にいるって事は、麗美から聞いた」
「どうして麗美が? そういえばさっき、おばさんって」
「〝百合子ちゃん〟て呼んでって、昔から何度も言って聞かせてきたのに定着しなくてさ」百合子はわざと顔をしかめ、それから笑みを溢した。「私の姉の娘、つまり姪よ」
「そうだったの……」絵美子は百合子から離れると麗美を見やり、穏やかに微笑んだ。「そうか……だから初めて会った時、不思議な感じがしたんだわ」
「絵美子、自由に動き回れるのね」
「ええ、金曜日辺りだったかしら。何故か急に、一気に力が戻ってくるのを感じて。図書室から出て、何処まで歩き回れるか試したら、結構自由にね」
「急にどうしてだ?」
「わからないの」絵美子はかぶりを振った。「そもそもわたし、気付いたら図書室にいたんだけれど、〝あいつ〟を封印してから二〇年も経っていると知った時は本当に驚いたわ。その間は多分、魂は眠っていたんだろうけれど、どうして目覚めたのか。それに〝あいつ〟の復活も。しっかり封印したはずなのに何故?」
「誰かが意図的にやった……とか?」
百合子が言うと、絵美子と保は息を呑んだ。
「ね、ねえ、その話も大切かもしれないけど」麗美が申し訳なさそうに口を挟んだ。「そろそろ〝あいつ〟が来るかも。わたしと絵美子はさっき、図書室の前で遭遇しちゃったの!」
「何だって!?」
「そうなのよ、二人共。〝あいつ〟は、もうとっくにわたしたちの動きに気付いている」
四人は自然と背中合わせになり、身構えた。
「危険。危険」
何処からか──場所は近いようだ──少女のような甲高い声が聞こえてきた。
「な、何?」麗美は後ずさりした。
「怖い。怖い」
最初のものとは似て異なる声もした。
「逃げる。逃げる」
再び最初の声がしたが、それっきり聞こえなくなった。
「え、何、今の誰?」
「大丈夫、彼らは──」
絵美子は新しい友人に説明してあげたかったが、言葉を続けられなかった。視界がぐにゃりと歪んだかと思うと、ぐるぐると回り始めたからだ。そしてそれは、他の三人も同じだった。
「〝あいつ〟だ!」保は舌打ちした。
「またご招待されるみたいね、あの森に」絵美子は冷静だ。
「いいじゃん、こっちから探す手間が省けて!」百合子は無理に笑ってみせた。
「え、ちょ、嘘ぉ!?」
足元が浮くような感覚にフラついた麗美を、絵美子が支えた。何かを言っているが、耳鳴りが酷くて聞き取れない──……
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