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第3章 最初で最後の国体
第161話 異常な環境
しおりを挟む涼真「あれ?慎太郎は?」
国体開幕まで2週間半程のある日、昼休みも終わり近く
教室に戻っても慎太郎の姿がない。
武蔵「さっき一般クラスの方に行ったけど」
涼真「なんで?」
武蔵「さあ?」
と、そこへ慎太郎が戻ってくる。
心なしかニヤついてる慎太郎。
涼真「!?」
-そしてその日の放課後、部活の練習時間-
いつもより体育館に人が多い。
髙木「…なんだこれ…」
中澤「うちのバスケ部はいつからこんな人気になったってんだ?」
体育館の2階ギャラリーを埋め尽くす在校生。
昨年の冬に続いて2大会連続で全国へ進み、インターハイでは全国ベスト4、更に国体でも上位進出が望めるとあってバスケ部の練習を1目見ようと大勢の在校生が体育館に来ているのだ。
唐沢「やれやれ」
新城「集中できんな…」
(冬に向けて変な影響がなきゃいいが…)
心なしか女子の比率が多い。
そして在校生だけではなかった。
ギャラリーには在校生に混じり、地元のラジオやテレビの取材陣、そして新聞記者の姿もちらほら。
春香「人がガヤガヤ言っててコートの会話が聞こえないよ…」
臼井「こんなんじゃ指示も届かないんやないの?」
美保「…」
そしてこの場には、涼真と慎太郎がいない。
練習に行こうとした2人は、体育科の教員室でインタビューされていた。
無論、事前のアポイントメントはなかった。
唐沢「そろそろ練習開始です、記者の人にもう終わりですと伝えてきてください」
平井「はい」
いそいそと体育科教員室に走る3年マネージャーの平井。
間もなく、ゲンナリした顔の涼真とニコニコした慎太郎が戻ってくる。
武蔵「…おつかれ」
涼真「…おう」
涼真の目が死んでいる。
慎太郎「いやー俺ってもしかして有名人?」
対称的に嬉しそうな慎太郎。
新城「よし、始めるか。今日は周りにお客さんが沢山いるがやる事は変わんねえ。いつも通りいくぞ!」
星垓メンバー「「「おう!!!」」」
まずは地味なフットワークの練習。
体幹や足腰を鍛えたりすることで動きのキレを研ぎ澄まさせ、怪我を防ぐ目的もある。
地味な上にかなりキツい。
故に多くの選手が普段手を抜きがちなメニューでもある。
だがこの日は、大勢の人に見られてることもあり手を抜く選手は1人もいない。
真田「はぁ…誰よりもキレのあるサイドステップだったぜ…」←普段手抜いてる人
慎太郎「っし…次!」←普段(こっそり)手抜いてる人その2
新城「…」
(案外メリットもあったもんだな)
そして徐々に試合形式の練習になっていく。
退屈なメニューからバスケットボールらしいメニューになり、観客の食いつきもいい。
今は1対1のメニュー。
オフェンスは涼真、ディフェンスは宗平。
トリプルスレッド(パス、ドリブル、シュート全てに円滑に移れるボールポジション)にボールを構える涼真。
宗平(涼真こいつ…なんか急に背伸びてないか?)
前は同じくらいの身長だった、涼真と宗平。
だが宗平の目には、涼真の目の位置が前よりも断然高く見えた。
→国体の測定では涼真は190㎝(以前は187)、宗平は現在186㎝。
ダム!!!
宗平「!!!」
宗平、涼真に全くついていけない。
ドガァッ!!!!
振り返った時には、涼真がダンクを叩き込む瞬間だった。
宗平(霧谷、堂林、高松と超高校級のプレイヤーと戦って更にスケールアップした感じだ…)
元々実力差はあったが、更に差を引き離された、そんな気がしている宗平。
そして別の1対1では…
ガシィッ!!!
大樹「ぐっ…」
須川「もらったぁ!!」
バス!!!
火花が散るかと思われる程の激しい肉弾戦から須川がゴール下を沈める。
須川も練習に復帰し、選手層に厚みが出ていた。
大樹「スガっさんとてもブランクのある動きじゃないっすよ…パワーもスピードも半端ねえ…」
須川「休んでる間にゴリゴリに筋トレしたからな。まだ足腰は前みたいにはいかねえけどお前にゃまだ負けねえよ」
須川も怪我で休んでいた期間に身長が190まで伸びていた。
それだけでなく、激しい筋トレによりかなりビルドアップ。
190㎝、91㎏と以前にも増して肉体派に。
それだけでなく、アウトサイドのシュートも得意な為、バリエーションは大樹よりも多い。
大樹「ぐぬぬ…先輩とはいえユニフォーム争いで負けたくねえ」
そしてスタメンである神崎も…
神崎「こりゃ…うかうかしてられねえ」
(ディフェンスや泥臭いプレイで貢献するのもいいけど…冬までに新しいバリエーション完成させねえと)
矢島「復帰したてで相変わらず豪快なプレイぶりだな須川は」
中澤「なあ髙木、お前須川と勝負したらパワーで勝てると思う?」
髙木「さあな」
(まあ、負けるつもりはねえけど)
お次は、武蔵と真田の1対1。
真田がオフェンス。
真田「行くぜ武蔵!俺の新必殺技を見せてやる」
武蔵「?」
ダム!
武蔵(よし、止めれる)
真田の1歩目に容易についていく武蔵。
だが
キュキュッ!!
真田、バックステップでスリーポイントラインの外へ。
涼真「!」
三石「あれは…」
(北陵の堂林がやってた…)
ビッ!!
真田、片足跳びでスリーポイント。
ガッ!!
だが、距離が圧倒的に短くリングの手前を弾いた。
真田「うげっ…」
(まだ練習不足…)
神崎「あのバカ…ギャラリーに舞い上がって目立とうとするから…」
(プレイ自体はいいプレイだったけど)
真田「く~…ムズいぜ」
(堂林はあんな簡単そうに打ってたのに)
ダム!!
バスッ!!
慎太郎が新城を抜き去り、レイアップを決める。
新城「くっ…」
(慎太郎…高校で全国を経験して自信もつけたせいかいよいよスピードでは捕らえられなくなってきやがった…)
「あのちっちゃい人、かっこいー!」
「あれ中山くんって言うんだって!中学の時も全国制覇したらしいよ?」
「小さくても凄いんだねえ…」
そして、黄色い声援もギャラリーから飛ぶ。
1年の一般クラスの女子が多いだろうか。
慎太郎、心なしか動きが弾んで見える。
涼真「…」
(ったくあの目立ちたがり屋は…完全に浮き足立ってやがる…プレイ自体はハイレベルだがメンタルはまだ甘いな)
こうして、終始異様な雰囲気での練習が終わる。
ロッカールームにて着替える星垓メンバー。
翔太「慎太郎今日すげー調子良かったじゃん?」
政史「確かに…また速く上手くなったか?」
慎太郎「え?そう思う?」
完全に浮かれてる慎太郎。
慎太郎「いやー実はさ…今日の休み時間と昼にさ…」
聞けば慎太郎は、2人の女子からデートの誘いを受けたのだとか。
賢「マジかよ!?」
大樹「いいなぁ…」
(俺にはこねーのかな…)
宗平「で?受けたん?」
慎太郎「いやまだ返事してないけど…」
翔太「やっぱりスタメン起用もされてU-16にも入って、国体選手にもなったんだもんな」
政史「まったく…羨ましいぜ」
大樹「ギャラリーからも黄色い声援聞こえてたしね」
涼真「あのギャラリーで1つだけ良かったとすれば、普段フットワークで手抜いてる慎太郎が張り切って手抜かなかった事だけだろ」
慎太郎「あ?」
慎太郎、いい気分の所に水を差され不機嫌そうに涼真を見る。
慎太郎「何涼真、僻んでんの?」
涼真「アホか」
涼真、さっさと荷物をまとめ慎太郎に向き直る。
涼真「あの程度で浮き足立ったり調子に乗ったり…お前そんな軟弱なメンタルしてたっけ」
慎太郎「おい、誰が浮かれてるって?」
涼真「心当たりがあったらそれで合ってるよ」
慎太郎「んの野郎…」
翔太「おい落ち着けって…」
大樹「そうそう、きっと羨ましいんだってば」
涼真「はぁ…ホントにアホかお前らは」
慎太郎「違うってのかよ」
涼真「違う」
涼真、キッパリ。
涼真「そもそも国体まで2週間、ウィンター予選も1ヶ月ちょいなんだ。恋愛だのデートだのするのは反対しないけど、それで浮ついた気分でいられちゃチームの士気に関わる。それに…」
宗平「それに…?」
涼真「デートの誘いやら告白なんてちょいちょいされてるから今に始まった事じゃない」
バタン!!
捨て台詞を残し、涼真は部室を後にする。
取り残された1年の部員達は、全員唖然とする。
慎太郎「あの野郎…!!」
さて、どうなることやら。
……To be continued
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