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第1章 入学〜インターハイ予選
第79話 怪物、目覚める
しおりを挟む梅村のセカンドブレイクからのボースハンドダンクで相模がリードを広げる。
第4Q 残り8:28
東裁大相模 72
星垓 67
唐沢「……タイムアウトお願いします」
ピピーッ!
星垓、タイムアウト。
僅か1分半で7点も、それも連続で失点しては仕方がない。
完全に『追い詰められて取らされた』タイムアウトだった。
ベンチに座った星垓メンバーはしばらくの間、誰も声を発する者はいなかった。
唐沢(無理もない…リードされ続けてようやく逆転した矢先の連続失点…)
新城「とりあえず点差と時間はまだ大丈夫だ。落ち着いて立て直そう」
髙木「相手の動きが梅村のプレーからみるみるよくなってきてるからな。ここは我慢してついていこう」
神崎「聞いてるのか?涼真?」
涼真「え…」
涼真は焦っていた。
普段とは違う、慣れないポイントガード。
パスの正確さなどは持ち前の技術で本職顔負けのプレーもできる涼真。
だが。
唐沢も新城も1つ、重要な欠点を見逃してしまっていた。
ポイントガードはパスの他にゲームコントロールも務めることになる。
流れが目まぐるしく変わるバスケットボールの試合においてポイントガードはいち早く試合の流れを読み、ゲームをコントロールすること、そのためのその場その場での適切な判断をすることが求められる。
涼真は一見、ポイントガードとして問題ないように思えるが
実際の試合でポイントガードをするのはこれが初めてである。
ミニバスや中学の部活でなら、能力や勢いだけで突き進むこともある程度できただろう。
だが、身体もできてくる高校以降のバスケではそうもいかない。
つまり涼真には、実戦で試合の流れを読むための『経験』が絶対的に不足していたのである。
これは一朝一夕に身に付くものではない。
才能は確かにあるかもしれない。
だが、彼はまだルーキーなのである。
涼真「すみません…」
神崎「頼むぜ」
新城「とりあえず…涼真。俺とポジション交代だ」
涼真「…はい」
ミニバス、中学での全国制覇と順風満帆なキャリアを送ってきた涼真にとって数少ない挫折ともいうべき出来事であった。
ピピーッ!
タイムアウトがあける。
第4Q 残り8:28
東裁大相模
G #14 椿 卓馬 1年 182㎝
G # 5 北田 剛毅 3年 180㎝
F # 4 阿部 理人 3年 185㎝
F # 8 村越 悠聖 3年 188㎝
C #15 梅村 聡紀 1年 196㎝
星垓
G # 4 新城 敦史 3年 184㎝
G/F # 9 真田 直斗 2年 183㎝
F #11 北条 涼真 1年 187㎝
C/F # 8 神崎 健太 2年 190㎝
C # 7 髙木 悠介 3年 198㎝
新城「よし!1本いくぞ!」
村上「ん?星垓は新城をPGに戻したか」
山下「なんかいつもの星垓って感じに戻った感じがしますね
彼がコントロールすると締まるというか」
ビッ!
新城のパスから髙木がゴール下を決める。
第4Q 残り8:12
東裁大相模 72
星垓 69
涼真「……」
点が入ったにも関わらず、どこか悔しげな涼真。
慎太郎「そりゃ普段やってないポジションだもんな…」
(まあ、あの人一倍負けず嫌いな奴がこのまま終わるわけねえさ…)
だが。
新城がポイントガードに戻った事で安定感が増し、点も取れるようになってきた。
しかし…
バスッ!
相模メンバー「きたぁ!」
「いいぞ阿部!」
梅村がポストプレーからパスをさばき、阿部がレイアップを決める。
マークマンの涼真は村越のスクリーンで振り切られていた。
試合はここから、点差が固まり始める。
どちらかが決めれば決め返し、どちらかが防げば防ぎ返す。
星垓は、新城がゲームコントロールをすることでオフェンス効率は上がったが、肝心の得点源の1人、涼真が立ち直れず攻撃面で空回りし始める。
東裁大相模は個々の力では劣るもゴール下に陣取る怪物ルーキー、梅村が裏方に徹することも厭わずプレーし、チームのムードを生き返らせ、自らは動きの質を少しずつ上げてきている。
試合はあっという間に進み
第4Q 残り2:05
東裁大相模 81
星垓 79
現在、東裁大相模最後のタイムアウト。
山下「ここまでこのQ、相模が16点、星垓が12点…かなりロースコアになりましたね」
村上「星垓は結局、3Qの最後に一時逆転した時以外は1度もリードできてないな」
山下「そういえばそうですね…いつもはリードしてリードを守りきるイメージがあるだけに違和感がありますね」
村上「これはおそらく、1度でも取りこぼした方が負ける…」
(そしてその決め手となるのは…)
そしてタイムアウトがあける。
東裁大相模のスローインからゲーム再開。
スクリーンからローポストで涼真を背負う形でボールを受けた梅村。
梅村「なあ涼真、お前…『負ける』ってどういうことか、ホントにわかってるか?」
涼真「…は?」
瞬間、梅村はパワードリブルを開始。
涼真をゴール下に押し込みにかかる。
涼真(こいつ…余計なこと言って惑わすなんつーこすい真似を…!)
梅村、涼真を押し込みシュートの体勢に。
すかさず髙木がヘルプにやってくる。
ビッ!
梅村、空中でシュートを止め、逆のゴール下にパス。
バスッ!
走り込んでいた阿部がゴール下を決める。
第4Q 残り1:50
東裁大相模 83
星垓 79
髙木「くっ…」
(1対1でもきつい相手なのに…!)
髙木がスローインし、新城がボールを運ぶ。
涼真「新城さん」
新城「なんだ?涼真」
涼真「次、ボールください」
涼真の目は、船栄の霧谷とマッチアップした時のような鋭い目つき。
新城「わかった、任したぜ」
涼真、得意の右コーナーでボールを構え、阿部と向かい合う。
ダムッ!!
涼真、今日最速のスピードでエンドライン沿いにドライブ。
阿部「くっ…!」
(早すぎる…!)
そのままゴール下をくぐり抜け、リバースレイアップ。
涼真(もらった!)
ドゴォッ!!
涼真「!?」
何者かによってボールがバックボードに叩き付けられる。
涼真が振り向くとそこには背番号15。
梅村「……」
涼真「!?」
(なんだこいつ…?俺の知ってる梅村じゃねえ…!)
ルーズボールを村越と神崎が争ってボールは宙に弾かれる。
バシッ!
髙木が逆のゴール下でルーズボールを掴んだ。
新城「決めろ!髙木!」
ドゴォッ!!!
梅村がまたしてもブロックショット。
髙木「なっ?」
涼真「高ぇ…!」
だが、弾かれたボールはハイポストで神崎が抑える。
神崎、ハイポストからミドルシュート。
瞬間、涼真は信じられない物を見た。
何せ、自分の肩と同じ高さに、誰かの膝があるのだから。
ドゴォッッッツ!!!!
梅村、1、2メートル離れた位置からブロックショット。
山下「高すぎる…頭がリングより高い位置まで跳ぶ高校生なんて初めて見た…」
村上「なんと…」
相模メンバー「っしゃああああ!」
「3連続!!」
ボールはラインを割りアウト・オブ・バウンズ。
椿「ナイスだ!梅村!」
梅村「はあっ…はあっ…」
北田「こいつ…目が…」
椿「目がイッちゃってるよ…」
村越「大丈夫か?意識あんのか?」
阿部「ほっといて大丈夫だろ」
北田、椿、村越「「「????」」」
梅村「はあっ…」
(勝つ…!絶対勝つんだ…!)
阿部「ありゃ多分『ゾーン』ってやつだ」
(とんでもねえ怪物が目覚めちまったぜ…)
……To be continued
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