上 下
288 / 302
第21章 スピンオフ・家政婦は見ない──歴野家の諸事情!

No,287 どなたのおパンツ?

しおりを挟む

 恐れ入ります。
 家政婦の皆井みないでございます。

 これまで色々なお宅に勤務致しましたが、このお宅ほどお洗濯が簡単な職場はございません。
 とにかく、デリケートな女物がございません。さらにワイシャツやスラックスなど、アイロン掛けの必要な衣類が皆無なのでございます。

 旦那様は普段からポロシャツやらネルシャツやら、アイロン不要のカジュアルな物しかお召しになられませんし、理久様に至りましては上下共に着た切り雀のジャージだけ。それも2~3日は取り替えずに、そのまま寝たり起きたり。
 毎日洗濯カゴに入るのは下着にしているTシャツとパンツだけ。
 たまに現場だとおっしゃって外出しても、精々作業衣程度のものですから、それはそれは簡単なお洗濯で済むのです。

 が、ところが……。
 この頃、また余計な事に気が付いてしまったのです、私……。

(何だかパンツが多いわね……)

 はい、旦那様のパンツと理久様のパンツは容易に区別が付きます。
 旦那様のものは、いわゆる昔なからの前開きのブリーフ。
 そして理久様のものは、今どき主流になっておりますボクサーパンツが多いのでございますが──どうにも理久様のパンツが多いのです。旦那様と比べて2倍の量と言っても過言ではございません。

 私、ついつい聞いてしまいました。

「理久様?」
「はい?」

「理久様は……もしかして一日に何度もパンツをお取り替えでごさいましたか?」
「いやいや、俺、まだ尿もれとか大丈夫だし」

「いえ、それにしてはお洗濯カゴに入るパンツの数が……」
 理久様は瞬時でニコリとなさいました。

「ああ!なんだそのこと?それはね、夏生が履いたやつだよ♪」
「え?!な、夏生様が、この家でパンツを脱いで行かれるのでございますか?」
「そうだよ?夏生、ほとんど毎晩うちの風呂に入って行くからね。
ああそうか、ちゃんと話しておかなくちゃだね。実は夏生、晩めし食ってから風呂に入って行くことも多いんだ。そん時に脱いでポイして行ったパンツだよ?だから、パンツと比例してシャツや靴下の洗濯物も増えてると思うよ?」

 なるほどそうか。
 そう言われてみればそうかも知れない。
 私ともあろうものが他の下着に
は気が付かず、パンツにばかり目
がいっていたとは、あな恥ずかしや。

(だって理久様って外側はあんななのに、パンツばかりは妙におしゃれだったり可愛かったりするのですもの)

「あら、それならどこかに夏生様のタンスがございますのね?
気付きませんでしたわ?」

 歴野家のやり方では、私はタンスには触りません。
 畳んだお洗濯ものをお返しすれば、旦那様も理久様もご自分でそれをタンスに仕舞われます。

「夏生のタンスは、取り立てて用意していないよ?」
「え?それでは風呂上がりに履く、替えのパンツは……」

「それは、俺のを履いて帰るから」
「ええ~っ?!パ、パ、パンツを貸し借りなさっていらっしゃるんでごさいますか~?!」
 私は、驚きのあまりはしたない声を上げてしまったのでございます。

「あれ?何かおかしいですか?」
「い、いえ、あの……その……」

「う~ん、貸し借りって言うより、共用ですかね?」
「……はあ?」

 私はびっくり仰天してしまったのでございます。
 私は一男一女の子供を育て上げましたが、もちろん性別が違いますから「下着の共用」なんて考えもしませんでした。

 男兄弟同士なら、普通にパンツの共用は有るのでしょうか?

 ちなみに私は女だけの三人姉妹で育ちましたが、下着の共用どころか、貸し借りさえ考えられません。


しおりを挟む

処理中です...