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第18章 帰郷と運命の結末
No,231 抜き打ちの訪問者
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【これは35歳前のお話】
それは土曜日の夕方だった。
休日だから少し手の込んだ料理を作ろうと、牛筋をワインでコトコトと煮込んでいた。
ピンポーン♪──呼び鈴が鳴る。
(誰だ……?)
ドアを開けると、そこには森山が立っていた──約束はしていない。
「森山……どうした?」
「歴野さん……約束もせず抜き打ちで来ました。だって、言えば絶対に断わられるでしょ?」
「……そうだな、確かに……」
「どうしてオレがこんな事をするか、分かりますよね?」
「まあ、入れよ……」
俺は森山を招き入れ、コンロの火を止めた。
(……これは、簡単に済む話じゃないな)
でも俺は思っていた。
──退社して帰郷するにあたり、森山にはそれなりの筋を通しておかなければならない──機会を見て、森山とはしっかりと話し合っておかなければならないと──。
まがいなりにも俺の事を好きだと言ってくれた相手だ。その告白を受け入れる事は出来なかったけれど、でも、それ以降も同僚として良好な関係を保ってくれた。
退職するまでの数ヶ月──今後もそれを維持しなければならない。
俺は森山にイスを勧め、テーブルを挟んで向かい合った。
「聞きましたよ、9月末日付で退職するって……」
「うん、直ぐに知らせなくて済まなかった。森山には言いにくかったんだ、だって俺たち……」
俺は思わず口ごもる。
「俺たち……って言ってくれるんですね。オレ、歴野さんにとってちゃんと特別な存在でしたか?」
「もちろんだよ。仕事上でもだけど……ええっと……森山は俺の事を好きだって言ってくれた」
「今でもですよ?今でも好きだからこうして来たんです」
「小泉さんは?両思いで、もうしっかりと交際しているって嬉しそうに言っていたじゃないか」
「はい……どうやらオレは、同時に二人の人を愛せるようです」
「あ……なるほど……やっぱりバイ・セクシャルって愛情の許容範囲が広いのかな……おまえが言うと何故か自然に聞こえる」
(そうか、おまえは恋をふたつに
分けられるのか……俺とは違うな)
森山は畳み掛けるように話しだした。
「オレは歴野さんのお陰で変わる事が出来ました。内向的で人付き合いも苦手だったオレが変われたのは、歴野さんがオレの中まで踏み込んでくれて、全てを包み込んでくれたからなんです」
「そんなご大層なことを、俺はしたかな?」
「……はっきり言って、おしっこの世話です」
「またそれか?!」
「オレの根暗は筋金入りだったんですよ?普通に悪酔いを介抱されたくらじゃ何の影響も受けません」
「そう言うもんか?」
「やっぱあの時、抱かれて躊躇なくパンツ下ろされて、ち◯ち◯に手を添えられながら思いっ切りの放尿を間近で見られて、あの恥ずかしさ?そしてあの衝撃は強烈でした……あ……オレ……
今思い出しても何だか……」
「やっぱり、何か特殊なプレイの話に聞こえるな」
「そしてオレを布団の中に入れてくれたでしょう?それまで友達とか、誰かの部屋に泊めてもらった事さえなかったのに……いきなりひとつ布団の中に……。
温かくて、歴野さんの素肌が心地よくて……孤独で人との触れ合いなんて何も無かったオレの人生が、一挙に歴野さんの優しさに包み込まれて激変したんです」
「やっぱこれ、刷り込みだな」
「もう刷り込みでも何でもいいです。あの時のオレは殻を付けたヒナのように、歴野さんに全身をあずけたんです」
「しかし森山、おまえ飲んでもいないのに、随分ぺらぺらとしゃべるようになったな~」
「はい、全て歴野さんのお陰です。歴野さんと親しくなって、歴野さんに色々教えてもらって、オレ、何かと自信が持てるようになったんです」
「俺は何もしていないけど、でも確かに森山は明るくなったし男振りも上がった。
仕事も頑張ったし、人間関係に気配りもしたし、今の森山があるのは自分自身の努力の結果だよ」
「違います、オレなんて自分じゃどうしようも無かったんです。オレを幸せにしてくれたのは歴野さんなんです。
小泉さんと付き合えるようになったのも、全部歴野さんのお陰なんです」
「……森山、おまえ俺を教祖に祭り上げて宗教とか起こすなよ」
森山が席を立って俺の後ろへ回った。
(え?)
ためらいも無く後ろから俺を抱き締める。
「あ、森山、おまえ何を?!」
「歴野さん、今日はオレ、決意してここに来たんです」
森山の頬が俺の頬に重なる──抱きすくめられ、俺はイスから立ち上がる事も出来ない。
森山の唇が俺の耳たぶを捕らえた。そして俺の首筋にくちづける。
こんなの森山じゃない!!
(ああそうか……小泉さんと付き合って色々な事を憶えたんだな)
どうしよう、抱きすくめられて後ろから一方的に攻撃されるなんて、これは俺が最も弱くなるシチュエーションのひとつだ。
「歴野さん、オレ今まで、歴野さんに抱いてもらう事ばかりを望んでいました」
「え……だから、それはだめだって……」
「でしょ?でも気付いたんです。抱かれるのを待っていてもそんな日は永遠に来ない……だから、オレが歴野さんを抱きます」
「あ、まずい……今日はこれから……」
ピンポーン♪(来た!!)
予定通りの時間だった。
それは土曜日の夕方だった。
休日だから少し手の込んだ料理を作ろうと、牛筋をワインでコトコトと煮込んでいた。
ピンポーン♪──呼び鈴が鳴る。
(誰だ……?)
ドアを開けると、そこには森山が立っていた──約束はしていない。
「森山……どうした?」
「歴野さん……約束もせず抜き打ちで来ました。だって、言えば絶対に断わられるでしょ?」
「……そうだな、確かに……」
「どうしてオレがこんな事をするか、分かりますよね?」
「まあ、入れよ……」
俺は森山を招き入れ、コンロの火を止めた。
(……これは、簡単に済む話じゃないな)
でも俺は思っていた。
──退社して帰郷するにあたり、森山にはそれなりの筋を通しておかなければならない──機会を見て、森山とはしっかりと話し合っておかなければならないと──。
まがいなりにも俺の事を好きだと言ってくれた相手だ。その告白を受け入れる事は出来なかったけれど、でも、それ以降も同僚として良好な関係を保ってくれた。
退職するまでの数ヶ月──今後もそれを維持しなければならない。
俺は森山にイスを勧め、テーブルを挟んで向かい合った。
「聞きましたよ、9月末日付で退職するって……」
「うん、直ぐに知らせなくて済まなかった。森山には言いにくかったんだ、だって俺たち……」
俺は思わず口ごもる。
「俺たち……って言ってくれるんですね。オレ、歴野さんにとってちゃんと特別な存在でしたか?」
「もちろんだよ。仕事上でもだけど……ええっと……森山は俺の事を好きだって言ってくれた」
「今でもですよ?今でも好きだからこうして来たんです」
「小泉さんは?両思いで、もうしっかりと交際しているって嬉しそうに言っていたじゃないか」
「はい……どうやらオレは、同時に二人の人を愛せるようです」
「あ……なるほど……やっぱりバイ・セクシャルって愛情の許容範囲が広いのかな……おまえが言うと何故か自然に聞こえる」
(そうか、おまえは恋をふたつに
分けられるのか……俺とは違うな)
森山は畳み掛けるように話しだした。
「オレは歴野さんのお陰で変わる事が出来ました。内向的で人付き合いも苦手だったオレが変われたのは、歴野さんがオレの中まで踏み込んでくれて、全てを包み込んでくれたからなんです」
「そんなご大層なことを、俺はしたかな?」
「……はっきり言って、おしっこの世話です」
「またそれか?!」
「オレの根暗は筋金入りだったんですよ?普通に悪酔いを介抱されたくらじゃ何の影響も受けません」
「そう言うもんか?」
「やっぱあの時、抱かれて躊躇なくパンツ下ろされて、ち◯ち◯に手を添えられながら思いっ切りの放尿を間近で見られて、あの恥ずかしさ?そしてあの衝撃は強烈でした……あ……オレ……
今思い出しても何だか……」
「やっぱり、何か特殊なプレイの話に聞こえるな」
「そしてオレを布団の中に入れてくれたでしょう?それまで友達とか、誰かの部屋に泊めてもらった事さえなかったのに……いきなりひとつ布団の中に……。
温かくて、歴野さんの素肌が心地よくて……孤独で人との触れ合いなんて何も無かったオレの人生が、一挙に歴野さんの優しさに包み込まれて激変したんです」
「やっぱこれ、刷り込みだな」
「もう刷り込みでも何でもいいです。あの時のオレは殻を付けたヒナのように、歴野さんに全身をあずけたんです」
「しかし森山、おまえ飲んでもいないのに、随分ぺらぺらとしゃべるようになったな~」
「はい、全て歴野さんのお陰です。歴野さんと親しくなって、歴野さんに色々教えてもらって、オレ、何かと自信が持てるようになったんです」
「俺は何もしていないけど、でも確かに森山は明るくなったし男振りも上がった。
仕事も頑張ったし、人間関係に気配りもしたし、今の森山があるのは自分自身の努力の結果だよ」
「違います、オレなんて自分じゃどうしようも無かったんです。オレを幸せにしてくれたのは歴野さんなんです。
小泉さんと付き合えるようになったのも、全部歴野さんのお陰なんです」
「……森山、おまえ俺を教祖に祭り上げて宗教とか起こすなよ」
森山が席を立って俺の後ろへ回った。
(え?)
ためらいも無く後ろから俺を抱き締める。
「あ、森山、おまえ何を?!」
「歴野さん、今日はオレ、決意してここに来たんです」
森山の頬が俺の頬に重なる──抱きすくめられ、俺はイスから立ち上がる事も出来ない。
森山の唇が俺の耳たぶを捕らえた。そして俺の首筋にくちづける。
こんなの森山じゃない!!
(ああそうか……小泉さんと付き合って色々な事を憶えたんだな)
どうしよう、抱きすくめられて後ろから一方的に攻撃されるなんて、これは俺が最も弱くなるシチュエーションのひとつだ。
「歴野さん、オレ今まで、歴野さんに抱いてもらう事ばかりを望んでいました」
「え……だから、それはだめだって……」
「でしょ?でも気付いたんです。抱かれるのを待っていてもそんな日は永遠に来ない……だから、オレが歴野さんを抱きます」
「あ、まずい……今日はこれから……」
ピンポーン♪(来た!!)
予定通りの時間だった。
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