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第17章 恋愛不毛症候群

No,202 ナッキーのお説教③

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「え?俺がろくに好きだと言ってないって、なんで知ってる?」

「そりゃ理久だもん。理久のそう言うところだよな~。
好きだなんてあえて言葉にしなくても分かるだろう?って、意外と一昔前のオヤジみたいな事を言うんだよね~これが」
「あれれ」

──そう言われてみりゃそうかも知れない。俺、マモルにちゃんと「好きだ」って言ってなかった。

(てか俺、マモルのこと好きだったのか?)

 俺を見てるマモルに気付いて、俺はスケベ心で誘惑を楽しんだ。
──そんな俺の遊び心にマモルは気付いていたのか……?
 
 ナッキーのマモル物語はさらに続く。
「で、ある日電話したら突然いきなり怒られた。終わりにしよう!って。それまでそんな怒っている素振りなんて全然なかったから、あまりの理久の豹変にショックは大きい」
「何だかナッキーに演出されると、俺が傲慢な悪者みたいだ」

「だよね」
「うん」

「理久……オレ達だって二十歳やそこらの頃どうだった?
年上の人に甘えてなかった?
ひと回りも年上だったら、多少の我儘は通ると思っていなかった?
今じゃオレたち立場逆転だね。
もう30も半ばだ、これからは若者の我儘を聞いてあげる年代だよ」
「それは、その……」

「マモル君が住所も電話も教えてくれなかったって言うけど、付き合い始めてどのくらいで?」
「……一ヶ月……くらい?」

「あのさ~、半年も付き合っていて教えてくれない、って言うなら分からないでもないけど、たった一ヶ月やそこらで?短気だな~。そんなでプライバシーを全て教えろって、性急過ぎやしない?
相手はまだ世慣れない若者だよ?もう少し長~い目で見てあげられなかった?」
「ナッキー……マモルと俺の行き違いって、そう言うこと?」

「てか理久、ちゃんと付き合おうって申し込んだの?何だか怪しいな~、理久のやる事だからな~」
「あ、その、あの、そう言われてみれば……俺と付き合って欲しいとか……ちゃんと申し込んでないかも知れない……」

「はい、アウトだね!
これはひと回りも年上の、しかも経験豊富なはずの理久が悪い!
可哀そうなのは断然マモル君の方で決まり!
……理久、考えてみろよ。ちゃんとオレたち付き合おうって意思表示してあげなくちゃ、マモル君にしたら自分が何者から何をされているのか不安になるのは当然じゃないか」
「そうなのか?あ、でも確かに、マモルにしてみればちゃんと付き合っているかどうかも分からない相手にプライバシーは教えられないよな」

「て言うか、好きだともちゃんと言ってくれない、付き合っているのかどうかも良く分からない年上のオジさんに遊ばれて捨てられたって、いたく心が傷付いているんじゃないかな~?」
「えっ?!謝りたい!すごく謝りたいんだけど!でも連絡先が分からない!」

「ふん、理久が年下の子と付き合ってるって聞いたからどんなだろう?って思ったけど、やっぱり難しいね」
「え?」

「この話って、客観的に聞いたら百戦錬磨のオジさんが訳も分からない若者を喰い散らかして飽きたからポイ!って話だよね」
「ええっ?!ナッキー、それは言い過ぎだよ~!」

「亮さんにしても隼人にしても、理久にとことん甘い年上だったから上手く行くんだって納得してたけど、やっぱ理久の場合、年下とはそう簡単には行かないな」
「……俺には、年上としての包容力なんて無い?」

「無いね」
「うん」

「てか、そのマモル君……今までどんなだったのかなぁ?」
「え?」

「ほら、この業界って冷ややかな事も多くて、やるだけが目的の人も多いし、一回こっきりって事も有りがちじゃない?」
「うん……」

「マモル君、やっぱり何か辛い事が有ったんだと思う。そんなに用心深くなるなんて、虐待を受けた保護犬みたいだ」
「あ、さっきナッキーが言ってたトラウマってか、ゲイ不信ってか?……マモル、もしかして俺のことが恐かった?」

「そうかも知れないな~、今までマモル君、もしかしてろくな出会いをして来なかったんじゃないかな?理久みたいに、仲好く恋人として付き合いたい、なんて考える人の方が珍しいかも知れない業界だから……」
「確かに一回こっきりの遊びと割り切ってる人は多いかも知れない。今回、俺のやり方はいかにもそんな感じだったかと反省すれば、もっと手厚いフォローは必要だったのかな……」

「そうだよ。オレなんかも東京に来たての頃はそのへんの見極めが分からなくて疑心暗鬼になっていた。だとしたらやっぱりマモル君、可哀そうだよ……」
「マモルにしたらそう簡単に心を開いたりが出来なかった。
だから俺が気長に待って上げなければならなかった?」

「その通りだね、マモル君は理久との付き合い方が分からなかったんだよ、きっと。
ああ、オレが理久の取扱説明書を渡して上げれば良かった」
「そんなの有るなら俺も欲しい」

「そんなの無いから、だからそこは理久がとことん優しくしてあげて、安心させて上げるしかなかったんだと思う、時間をたっぷりと掛けて……」
「ナッキーすごい思いやり……俺、とてもそこまで至らない。
てか俺……マモルのそのトラウマに上書きしてしまったのかも知れないし……」

「大体、初めは10日も空けたのに一度連絡した途端にせきを切ったように頻回って、そこにマモル君の心情が現れてるな」
「え、どう言うこと?」

「つまりね……ああ、あんな更衣室でち○ち○見せびらかすような変態と関わっちゃだめだ!あんな遊んでる風の大人と関わったら、またもて遊ばれて捨てられる~」
「俺、そんなに警戒されてた?」

「ああ、でもまた会いたい!
10日も我慢したけどやっぱりあの人が好き!もういい、どうなってもいいから連絡しちゃえ!」
「えっ?だからその後は頻回?」

「一度ボーダー・ラインを越えてしまえば後は暴走するのも分かるだろ?男同士だ、やりたい年頃だって言うのも理解できる」
「まあ、そうだよな」

「やっぱり僕、あの人の事が好きだよ~!好きだとも言ってくれないし、付き合おうとも言ってくれないけど、でもそれでもいい!
今夜も会いに行っちゃお!」
「何だよ、そんなに俺の事が好きなら、ちゃんと好きだって言葉で言ってくれたらいいのに♡」

「ええ~っ?!言葉で言えって、おまえがそれを言うか?!」
「ああっ!ナッキーが俺をおまえ呼ばわりした~!」
「反応するのそっちかい!!」
「ふがふがっ」

「やっぱり理久の相手なんて普通の年下じゃ務まらないのさ。オレくらいにその生態をつぶさに理解していなと神経がもたないよ。
国宝級の鈍感無神経なんだから」
「鈍感って俺、ゴリラ並?」

「あのねぇ、ゴリラって凄く繊細なの!無神経な理久と一緒にしたらゴリラに失礼!!」
「はい、済みません……」

「……てか、ゴリラの前にオレに失礼だろうが、理久なんてオレのこと※.:*:・☆って、結局いつも※.:*:・☆だよな。
って……おい聞いてる?」
「ふあっ?なんか言った?」
 俺はちよっと考え込んでた。
(ナッキー、やっぱり俺が一番俺らしくいられるのは、ナッキーと一緒の時なのかな…………)

 その夜のお説教はまだまだ続いた。


※──────────※


 そして結局──その後マモルからの連絡は一切無かった。
 俺にとっては後悔しか無いエピソードのひとつだ。


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