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第16章 迷走の果てのため息

No,176 愛の難破船

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【これは現在のお話】

 こんにちは、現在の理久りくです。
 前回、隼人との別れについて総括しました。

 確かに隼人の事は好きでした。でも、その別れには覚悟も伴っていたのです。
 隼人は出会った初めから、いずれ彼女と結婚すると言っていました。僕はそんな先の見えた不毛な恋を、この機会に終わらせたくもあったのです。

(今はとても辛いけど、でも僕は直ぐに新しい恋をする……!)
 と、当時の僕はそれを信じて疑わなかった。
──が、それなのに……そこから先が大変でした。

「恋」なんて自分の予定通りには発生しない──そんな当たり前の事を知らない、20代の僕でした。
 宝塚の芝居じゃないけれど、僕は愛を求め、愛を探して彷徨さまよいました。が、そこから先は泥沼でした。

 僕は愛の巡礼──

 愛の難破船──

 隼人と別離した27歳から、進路を展開させて帰郷した35歳までの8年間は、まさに愛に流浪るろうの日々でした。

 それまで、隼人とはすんなり5年も交際は続いたのです。
 そりゃ、彼女の存在に怯え、いつ別れを切り出されるのかと薄氷を踏むような恋だったけれど、愛し合っていればこれくらいの長きに渡って交際は続くものなのだと、僕は信じて疑わなかったのです。

 だから隼人との別れは辛かったけれど、「これでようやく不安定な恋に終止符が打てる」「今は悲しいけれど、今度こそ同じ生き方が出来る人を見付けよう」
──と、僕は前向きにとらえていた節もありました。
 もう、雲を踏むように隼人の後を歩く事は無いんだ……と、そう思うだけでも未来が開けたように感じられたものです。

 が、しかし……恋人なんてそう簡単に出来るものではないのだと、ずど~ん!と思い知らされる日々が始まったのです。
 とにかく「婚活(なのか?)」に励みました。ありとあらゆる方法で出会いを求めました。
 いやいや、ある意味付き合う相手には事欠かなかった。27歳から35歳。まだまだ若く美しかった(誰が?)

 ところが皆さん、僕の傾向は既にご存知だろうけれど、そうなのです──愛されて乞われて付き合い始めても、僕の場合ろくな事にはならないのです。

 思えば隼人と付き合っていた期間中も、その満たされない思いと不安を解消するため少なからず別の相手を探し求めていた、と言う裏事情がありました。
 そしてそれを正直に書く事には躊躇ちゅうちょもあった。なぜならその行為を示す日本語としては、「浮気」と言う単語くらいしか思い付かないから──。

 けれど僕にとっては、決してそんなふわふわとした楽しい行為ではありませんでした。もっと切実な心境でした。
 不安定な愛に心穏やかでない時、ついつい他の人、つまり安定した愛を得られそうな相手を探してしまう傾向が、その当時の僕にはありました。

 あの、隼人と別離してからの8年もの期間──本当の事を言うと、自分がどんな人と、どんな付き合いをしたのか?
 或いはどんな切っ掛けで、どんな人と関係を持ったのか?
 そしてその数──あまり記憶していません(と言うか、思い出せない)→これを「乱脈」と言います。

 今回この期間を振り返るに当たり、ズバリ!ナッキーに聞いてみました。

「あの時期、俺ってどんな人と付き合っていたっけ?」
「ああ、あの頃の理久ね……?
ほら、司法書士の〇〇さんとか、インストラクターの◎◎君とか、覚えてる?」

「ええ~っ?覚えてない~。
でも、言われてみれば何となく……」
「そうそう!飲み仲間のゴンちゃんとも何かのはずみで一回やっちゃったって笑ってたっけ♪」

「ええ~っ?!俺ってそんなだった?」
「そんなだったよ~?あの頃の理久って言ったら、まるでテパ地下の試食回りのように二丁目を回って喰い散らかしていたよ~?」
「分かった!もういい!」
──って、そんな感じです。ひどい乱脈です。

(つまりナッキーは、あの頃の僕の乱脈な恋愛遍歴を別の角度から覚えている)

 社会人として仕事を一生懸命、きちんとこなしていた時期でした。
 二丁目の店も「フラッシュ」「Blue night」の他に色々と開拓して、飲み友達と一緒に遊び回っていた時期でした。
 ナッキーとも益々仲好くなって、タッチとも変わらず宝塚公演を楽しんでいました。
 一見とても楽しく華やかな時代だったけれど、こと「恋愛」に関してはず~っと不遇な時期が続いていたのが実情でした。


 そんな中でも、特に印象の強かった3人について書こうと思います。

藤吉ふじよしと言う変わり者
・会社の後輩、広橋ひろはし
・シンガポール人のレオン

 あと、その後の亮ちゃんの事もちょっとだけ──。


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