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第13章 むっつり好青年は必死
No,138 彼の名は隼人
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【これは大学4年のお話】
第二部のショーの開演5分前で席に戻った。
彼は既に座っている。僕はあえて無言で席に着いた。
「あのね……ホントは今日、彼女と観るはずだったんだ」
彼のつぶやきは隣同士なのだから良く聞こえる。
「ああ、そうだったんですね」
と答えながら、僕は(そう来たか……)と思った。
いきなりの会話に「彼女」を出してくるなんてとても不自然。
僕には彼の発言が「自分はゲイじゃないよ」と牽制しているように聞こえた。
そんな回りくどい会話に辟易とした僕は隣の彼に一瞥もくれず、何の興味もない様子を誇示した。
すると彼は、またもや突拍子もなく畳み掛けてきた。
「こんな風に一緒に観るのも何かの縁だから、終わってからお茶でもどう?」
って、さも頭の中で台詞を反芻していたかのような誘い文句。
(そこまではっきり言ったか)
僕はうんざりとして、彼の方へゆっくりと顔を向けた。彼は強張った表情で正面を見詰めている。
(ここではっきり断っても気まずいだけだな。第二部のレビューが楽しめなくなってしまう……)
「そうですね」
僕は曖昧な返事をして、顔をゆっくりと正面に戻した。
※──────────※
第二部のレビューは素晴らしかった。とにかく天覧席の眺めは最高だった。
──人の気持ちは変わりやすい。
素晴らしいショーの興奮も醒めやらず、こんな良い席で観れたのも彼のお陰だと思うと、つい(お茶ぐらい付き合ってもいいのかな?)と思えてしまう。
──終演後、僕は黙って彼に従った。
※──────────※
「僕、こう言う者です」
喫茶店で向き合った途端、彼が名刺を差し出した。
(え?名刺を出す人は初めてだ!)
と、僕は内心驚いたけれど、表面上は平静を保った。
不思議なことに、名刺を出されただけで一気に目の前の青年が「信頼に足る人物」のように思えてしまう。正に名刺マジックだ。
(これはそれを狙っているのか?それとも邪気の無い自然な行為なのか?)
もしかして僕が余計な勘繰りをしているだけで、彼にしたら本当に、言葉通りお茶をしたかっただけかも知れない。
──その時の僕には分からなかった。
名刺には勤め先の会社名と、
「戸田隼人」と言う氏名が明記されていた。
「すみません。僕は学生なので名刺なんて持っていなくて……」
「もちろんだよ。そんなこと気にしないで」
と、隼人は爽やかな笑顔を見せた。
「僕は歴野と言います。みんなからは理久って呼ばれてます」
と、僕も素直にフルネームを明かした。
「僕、大学4年で来月22歳になります。隼人さんの方が年上ですよね?」
僕がいきなり下の名前を呼んだせいか、彼はハッとした顔で僕を見つめた。
「年上って言ったってそれ程じゃないよ、君より三つ上だ」
「あ、そうなんですか?姉と一緒です。今日はお休みなんですね」
「うん、名刺を見てお分かりの通り、土日は休めない仕事だから」
──なんて、当たり障り無い世間話がしばし続いた。
(この人、何を目的に僕を誘ったんだろう?)
僕が思うに、男同士なのにも拘わらずこうして初対面でお茶に誘うなんて以下のふたつだ。
①宝塚と言う共通の趣味の会話を楽しみたい。
②同性愛がらみのナンパ。
──以上の理由しか思い浮かばない。
第一部の観劇中、隼人が幾度と無く、ちらりちらりと僕の横顔を覗いている事には気が付いてはいた。
だから幕間の休憩時間は意識して彼を避けた。
──案の定、こうして誘われてお茶をしている。
第二部のショーの開演5分前で席に戻った。
彼は既に座っている。僕はあえて無言で席に着いた。
「あのね……ホントは今日、彼女と観るはずだったんだ」
彼のつぶやきは隣同士なのだから良く聞こえる。
「ああ、そうだったんですね」
と答えながら、僕は(そう来たか……)と思った。
いきなりの会話に「彼女」を出してくるなんてとても不自然。
僕には彼の発言が「自分はゲイじゃないよ」と牽制しているように聞こえた。
そんな回りくどい会話に辟易とした僕は隣の彼に一瞥もくれず、何の興味もない様子を誇示した。
すると彼は、またもや突拍子もなく畳み掛けてきた。
「こんな風に一緒に観るのも何かの縁だから、終わってからお茶でもどう?」
って、さも頭の中で台詞を反芻していたかのような誘い文句。
(そこまではっきり言ったか)
僕はうんざりとして、彼の方へゆっくりと顔を向けた。彼は強張った表情で正面を見詰めている。
(ここではっきり断っても気まずいだけだな。第二部のレビューが楽しめなくなってしまう……)
「そうですね」
僕は曖昧な返事をして、顔をゆっくりと正面に戻した。
※──────────※
第二部のレビューは素晴らしかった。とにかく天覧席の眺めは最高だった。
──人の気持ちは変わりやすい。
素晴らしいショーの興奮も醒めやらず、こんな良い席で観れたのも彼のお陰だと思うと、つい(お茶ぐらい付き合ってもいいのかな?)と思えてしまう。
──終演後、僕は黙って彼に従った。
※──────────※
「僕、こう言う者です」
喫茶店で向き合った途端、彼が名刺を差し出した。
(え?名刺を出す人は初めてだ!)
と、僕は内心驚いたけれど、表面上は平静を保った。
不思議なことに、名刺を出されただけで一気に目の前の青年が「信頼に足る人物」のように思えてしまう。正に名刺マジックだ。
(これはそれを狙っているのか?それとも邪気の無い自然な行為なのか?)
もしかして僕が余計な勘繰りをしているだけで、彼にしたら本当に、言葉通りお茶をしたかっただけかも知れない。
──その時の僕には分からなかった。
名刺には勤め先の会社名と、
「戸田隼人」と言う氏名が明記されていた。
「すみません。僕は学生なので名刺なんて持っていなくて……」
「もちろんだよ。そんなこと気にしないで」
と、隼人は爽やかな笑顔を見せた。
「僕は歴野と言います。みんなからは理久って呼ばれてます」
と、僕も素直にフルネームを明かした。
「僕、大学4年で来月22歳になります。隼人さんの方が年上ですよね?」
僕がいきなり下の名前を呼んだせいか、彼はハッとした顔で僕を見つめた。
「年上って言ったってそれ程じゃないよ、君より三つ上だ」
「あ、そうなんですか?姉と一緒です。今日はお休みなんですね」
「うん、名刺を見てお分かりの通り、土日は休めない仕事だから」
──なんて、当たり障り無い世間話がしばし続いた。
(この人、何を目的に僕を誘ったんだろう?)
僕が思うに、男同士なのにも拘わらずこうして初対面でお茶に誘うなんて以下のふたつだ。
①宝塚と言う共通の趣味の会話を楽しみたい。
②同性愛がらみのナンパ。
──以上の理由しか思い浮かばない。
第一部の観劇中、隼人が幾度と無く、ちらりちらりと僕の横顔を覗いている事には気が付いてはいた。
だから幕間の休憩時間は意識して彼を避けた。
──案の定、こうして誘われてお茶をしている。
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