私小説「僕のこの恋は何色？」～ゲイとして生きる僕の道のり

第10章 偶然で幸運な巡り合せ

No,107 演奏会に行きませんか

【これは大学３年のお話】

　僕はゲイ雑誌を買い込んだ。
　実はこれも久しぶりだ。波奈と一緒の時は、やっぱり部屋にゲイ雑誌なんて持ち込みにくかったし、それに亮ちゃんとうまく行ってる期間は文通欄にも興味は無かった。

　今回はとにかく「出会い」目的の「文通欄」目当だったから、主要三誌をまとめ買いした。
　これは一般書店ではかなり恥ずかしい買い物なのだけれど、二丁目の書店ではむしろ普通に買いやすい。
　蛇じゃの道はヘビって言葉をやたらに乱用しているけど、本当にそう。僕もどんどん世慣れて来ている事は確かだった。


「文通欄」とにらめっこした。

「募集投稿」は日本全国に渡っているけれど、やはり都市部に集中するのは仕方がない。まして東京はかなりの数だ。
　現在の出会い系アプリをアナログで担っていた訳だから、そりゃ膨大な件数だ。
　一通り目を通してぴんとくる投稿が無ければ、自分が投稿するしかないと思っていたら……

（あれ？）

　と思う投稿がひとつあった。


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（載っていた投稿文）

　000番・東京○○区・一緒に演奏会に行きませんか？・19歳・大学生・クラシック音楽が好きです。周りに同好の人がいません。趣味が合うなら友達で構いません。


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　そりゃ色々なタイプの投稿があったけれど、これほど色気の無い投稿も珍しかった。
　でも僕が思ったのは「確かにクラシック音楽って、なかなか一緒に楽しめる人って難しいな」と言うこと。

　僕もピアノをやっていたからそれなりにピアノ曲は聴いていたけど「クラシック音楽」と言ってしまうと案外範囲は広い。
　吹奏楽部にクラシック好きは何人かいたけど「室内楽が好み」とか「マーラー全集を聴いている」とか言われると、もう別世界だ。
「バロックにハマっている」とか「オペラが全て」とか、本当に趣味が合うか？と問われると中々に難しい。

　この人は本当に、一緒に演奏会に行けるような相手が欲しいんだろうなと思えた。
　よくよく見ると年齢も近いし、何より同じ「区」だった。
　東京と言っても狭くはない。同じ区だったら便利じゃないか？

　僕はこの募集投稿に返信してみることにした。


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（僕からの返信文）

　はじめまして。
　君のこと、○○誌の文通欄で知りました。
　僕は20歳の大学３年。誕生日が来て21歳になります。
　僕もクラシック音楽が好きです。でもピアノから入ったので良く聴くのはピアノ曲が多いです。
　好きなのはショパンやリスト。管弦楽ならブラームや、ちょっと飛んじゃうけどチャイコフスキーが好きです。
　僕もクラシック音楽の話が出来る友達が欲しいと思っていました。

　同じ○○区ですね。○○駅の△△の前で待ち合わせしませんか？
　僕はブルーの、ギンガム・チェックのシャツを着て行きます。
　土日の昼間なら何日でもOKです。そちらで日時を指定して下さい。
　急ぎません。気長に返信を待っています。

──歴野れきの理久りく


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　さあ、結果がどう出るか？

　僕は思った以上にウキウキしていた。