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第10章 偶然で幸運な巡り合せ

No,106 出会系のアナログ版

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【これは大学3年のお話】

 亮ちゃんと別れてあれやこれや、僕も大学3年に進級した。

 亮ちゃんへの当て付けの為に急いで新しい彼氏を作るだなんて、やっぱり相手にも失礼な事だと気付いて止めたけど、何となく寂しい。

 二丁目に blue night と言う行き付けの店は出来たけれど、どうやら僕は、そう言う店で色っぽい出会いをするのが得意ではないと気付き始めた。
 結局おとなしくしている事が出来ず、ケンちゃんやルカとふざけて騒いでばかりいる。そんな僕には色恋沙汰なんて舞い込んで来ない。

 ケンちゃんは人当たりが良くて楽しい会話が出来るけど、所詮はカウンターの向こうの人。
 何となくいつも側にいるルカも、仲が好いのか悪いのかよく分からない。元々大人好みのルカに僕がちょっかい出したのがいけなかった。
 第一印象を悪くした。
 ルカはつんけんしていて、いつも不機嫌。その割りに、いつも近くにいるのもよく分からない。

──そんな日々を淡々と過ごしていたある日、僕はとにかく何か新しい手段を試そうと思い立った。
 亮ちゃんと別れてからもずいぶん経った。さすがに寂しくなっていた。
 新しい出会いが欲しい。


※──────────※


 僕達の出会いの方法は色々ある。
 僕はゲイ雑誌の「文通欄」を試そうと思った。
「文通」と言うと何やら真面目でまどろっこしい印象だけど、ようするに今で言う「出会い系アプリ」のアナログ版だ。
 まだ携帯の無い時代には、これも貴重な方法だった

① 雑誌に募集投稿する側

② 募集投稿に応募する側

 以上の二つの立場があり、それぞれに長所、短所がある。


① 雑誌に募集投稿する側
=これは規定の文字数で所在地、ペンネーム、年齢などを明記し、簡単なコメントを載せる。
長所→匿名性が保たれる
短所→不特定多数の郵便が届く


② 募集投稿に応募する側
=多くの投稿文を熟読し、気に入った特定の相手にのみ返信をする。
長所→特定の返信だけが届く
短所→個人情報を先に知らせる

(詳しい手順は割愛する)


 この「文通欄」と言うシステムには興味があった。でも波奈はなと一緒に暮らしていた時に利用するのは無理だった。
 例えば募集投稿した場合。それこそ日本全国から何十通の返信郵便が届くか分からない。そんな事になったら波奈が驚いてしまう。
 かと言って特定の相手にのみ返信したとしても、こちらが先に個人情報を明らかにする以上、もし相手が非常識な人だった場合、迷惑電話をされたり、住所を頼りに直接やって来られたりしたら大トラブルだ。
──ケイタイもメールも無い時代、郵便を頼りとしたこのシステムは「どちらか一方が住所も本名も先にさらさなければならない」と言うリスクがあった。

「募集」と「応募」──どちらにしてもトラブルになれば波奈を巻き込む事になるし、迷惑を掛ける訳には絶対に行かない。
 以前タッチとも話したことがあるけれど、親と同居でも文通欄の使用は難しいと言っていた。

 でも今は違う。独り暮らしになって一年になる。今ならどんなトラブルがあっても何とかできる。

 亮ちゃんと別れて随分経とうとしている。
 僕もあれやこれやで3年生。
 学生のうちに友達は沢山作っておきたいし、叶うなら彼氏も欲しい。


 僕は、文通欄を試す気満々になっていた。


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