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第9章 別れと出逢いの遁走曲

No,104 ごめんねルカ

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【これは大学2年のお話】

 グラスを拭きながらケンちゃんがつぶやいた。

「そうか、よくある痴話喧嘩の話なのかと思えば、そりゃ深刻な話だね。
僕達は大きく二つに分けられる。自分がゲイだと受け入れて生きて行ける人と、そうでない人。キノちゃんとその彼は平行線だね」
 しんみりとタッチも言った。
「うちも代々商売をやっていて、僕も跡継ぎの一人っ子だから重いよ……」
 会話はしばらく、そのリアル路線で粛々と続いた。

(ああ、これじゃいけない。こんな暗い話題は僕がけりを着けなきゃ!)

「だから僕が悪かった。亮ちゃんに当て付けて急いで彼氏を作ろうだなんて、本当にバカで軽率だった。
ごめんねルカ?もうしないから」
「え?あ、そうだね。ええっと……つまり、さっきのあれは、本気じゃなかったってこと?」
 ルカがこくりと首を傾げた。

「あ、それは、ルカが綺麗で魅力的だと思ったのは本当だよ。
でも、やっぱり僕はまだ亮ちゃんの事が吹っ切れないでいるみたい、だから……」
 ワンテンポおいて、ルカがゆっくりと、言葉を選ぶように話し始めた。
「さっきキノちゃんが立ち去ろうとした時、とっさに僕は引き留めた。
あのまま別れたら、きっとそれっきりなのかな……と思ったから」
「え?」
「同年代の人にあんな風に大接近されたの初めてだったから、ちょっとドキドキした」
 と言いながら、ルカは顔を赤くしてまたそっぽ向く。

(ああ、本当に嫌だったんだな……)

「それは、本当にごめん!
的外れな同年代から言い寄られて、不愉快な思いをしたよね。迷惑かけてごめん」
「え?そうじゃなくて……」
 はたと僕の方を向いて、ルカは困ったような顔を見せた。

「でも、ルカは年上の大人の人が好きなんだよね?さっきはフケ専なんて極端な事を言っちゃったけど、どんなタイプが好きなの?
頭に入れといて何かの時には協力するから」
「それは……」

 ルカは饒舌じょうぜつには話してくれなかったけど、ようするに初めて好きになったのが小学生の時の先生で……って、あれ?なんだこの話し、何だかあっちこっちで良く聞くぞ?
 小学校の男性教諭のみなさん!ゲイの少年達からモテてますから自覚して下さ~い!

 それでルカの話によると、同年代には全く興味がなくて、その初恋からずっと大人の人ばかりを好きになるとのこと。
 例えば有名人だったら?と聞いたら、当時40歳くらいだったダンディーな俳優の名前が出てきた。確かにそのくらいならフケ専とは言わない。
 僕はルカに対して失礼なことを言ってしまった。

「僕は本来、年配の方が好きだろうが何だろうが、他人の好みをとやかく言う気はさらさら無いんだけど、さっきはルカにはずみで失礼なことを言っちゃった。本当にごめん」
「それは、別に……」
 とルカは基本、伏せ目がち。

「そうだよキノちゃん!これは完全にキノちゃんが悪い。ルカちゃん、僕からも謝るよ。ごめん、キノちゃん失恋のせいで頭がおかしくなっているんだ。許してやって?」
 と、タッチも僕をフォローしてくれた。

「だから、もういいよ……」
 何だか最早もはやあきらめ顔のルカは、やっぱり不愉快そう。

(あ~あ、完全に嫌われちゃったな)

 僕の二丁目ライフは前途多難だ。
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