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第9章 別れと出逢いの遁走曲

No,101 二丁目にデビューした

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【これは大学2年のお話】

 亮ちゃんと別れた。
 破局した。
結果──僕の新宿二丁目デビューは、思ったよりもずっとず~っと早かった。


※──────────※


 新宿駅東口から大通りを真っ直ぐ東に向かう。紀伊国屋を通り越して伊勢丹を通り越して、交差点を渡って──。
 案外そこは(え?ここ?)と思うほど、僕には普通の街に思えた。

「理久~。あのね、二丁目の店を案内するって言ったってね、実は僕も一軒だけしか知らないんだ」
 同行してくれたのはタッチだった。
「その一軒で十分だよ。タッチはそこで彼氏と出会ったんだろ?とにかく一刻も早くパ~ッと見映えのする彼氏を作って、亮ちゃんにズド~ンと後悔させてやるんだ!」

「え?理久は面食いじゃないって言ってなかった?」
「だからね!カッコいいかどうかなんて僕には全然関係ないんだ。問題は亮ちゃんにどう見えるか?が肝心なんだ。亮ちゃんに振られたのに、亮ちゃんよりブーと付き合えないじゃん!」
「り、理久……」
「てか、亮ちゃんよりブーっているか?ああ、そっちをさがす方がムズいかも」

「そんなに亮ちゃんが好きなの?」
「うん!!……え?あ、そうじゃなくて、亮ちゃんのくせにこの理久様を振るなんて一万年早いわ!この際うんとカッコいい彼氏を作って、これでもかって見せ付けてやるんだ!」
「理久~。そこまで思ってるならむしろ、やっぱり亮ちゃんが好きだ~って、素直に戻ったが良くない?」
「むむむむむ!」
──なんて、やり取りしながらタッチの知ってる店の前に到着した。

「ところで、理久のこと何て呼ぼうか?」
「え?理久じゃだめなの?」
「いやそれでもいいんだけど、普通は愛称ってか、ニックネームってか……そうだね、あんまり本名は名乗らないかもね」
「そうなんだね。で、タッチは?」
「僕は元々タッチが愛称だから、このままどこ行ってもタッチだよ?」
「ああそうか。タッチはどこ行ってもタッチか。便利だね」
「理久は名字が歴野れきのだから、キノちゃんってのは?渡辺だとみんなナベちゃんって言うじゃない?」
「あ、それいいね♪それでいこ!」


 僕達は、金文字で
「Blue night」と飾られた扉を開けた。


※──────────※


 結論から話そう。その店は
「年配者の好きな若者」と「若者が好きな年配者」が集う店だった。

 ここで二丁目について一言。
 言わずと知れた、日本一のゲイ・バー街だ。

 ゲイ・バーと言うと、一般的には女装したゲイ・ボーイが華やかに歌ったり踊ったりしている店を想像する人も多いかも知れない。
 しかしそれはショー・パブであって、僕達はそれを観光バーなどと呼んだりもする。そう言う店の顧客は殆どが一般男性であり女性だ。僕達が出会いを求めて行く店ではない。

 二丁目に集まるゲイ・バーとは、文字通り僕達ゲイの集うバーの事だ。そしてその内容は多岐にわたり、多種多様だ。
「出会いを求める店」にも色々ある。年齢で分ける店もあればタイプで分ける店もある。
 また出会いなんて全く意識せずただ楽しく飲むだけの店や、ひたすらカラオケを唄う店、また特定の地方を看板にした県人会のような店やら、特定の趣味で集う店など、本当にあらゆるニーズに対応できる品揃えだ。
 僕は行った事がないけれど、宝塚ファンの集まる店と言うのもあると聞いた。
(なぜ僕がそこに行かなかったのかと言えば、宝塚については色々とこだわりも有ったからなのだけれど、それはこの際どうでも良いお話だから省略)

 が、それらはみんな後から知った情報だ。その時の僕は何も知らなかった。


※──────────※


 さて、もう一度確認しよう。
 タッチに案内されて僕らが入った店は「年配者の好きな若者」と「若者が好きな年配者」が集う店だった。



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