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第8章 ヅカ友タッチと長い夜
No,91 チケット取りに挑戦だ!
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【これは大学2年のお話】
僕が上京した翌年、波奈は無事大学を卒業し、帰郷して地元の企業に就職した。
全くの偶然だったけれど、その波奈の大学時代最後の東宝劇場公演が、ご贔屓の雪組だった。正に卒業とかぶる3月公演だった。
波奈はファン・クラブの一員として、まるでお別れをするがごとく散財して通いつめたけれど、別に観劇をこれで止めるつもりではない。
たとえ東京を離れても雪組公演だけは見に来るつもりだったし、そのチケットのためにファン・クラブは辞めない。
ただ東京に残される僕にしたら、帰郷した波奈の人脈をいつまでも頼る訳にも行かなかった。
取り敢えず4月の星組公演は3月雪組との流れでチケットを取ってもらえた。
しかし7月の花組、8月の月組と続くそれ以降のチエットは、自分で何とかしなければならない。
──そこから僕の、本当の意味でのファン活動が始まった。
※──────────※
ところで僕も東宝劇場に通い始めて約一年になる。
結構な頻度で通い詰めていたからだけど、ここで何度も顔を合わす、気になる男の子が存在した。
後に親しくなる、タッチこと
──入江達也だ。
おそらく彼も相当な回数、ここに通っているのだと思う。そうでなければここまで頻繁に顔を合わせない。
何が気になるって、彼はいつも例外なく一人なのだ。
この女性ばかりの劇場は、普通の男子ならかなり居心地が悪いのではないか?
(まあ、僕は普通の男子ではないから、この状況をフルに楽しんではいるけど)
それに彼は宝塚ファンと言うにはあまりにも地味で、正直パッとしない感じだったから尚さら気になる。
おそらく向こうも僕の存在を意識しているのかな?と思えないでもない。何となく良く目が合うような気もする。
でも、やはり中々声は掛けにくかった。
一人ぼっちで服装も地味なわりに、しっかり出待ちまでしている。
かなりな「通」だ。
僕は少しずつ、そしてどんどん彼が気になりだした。
──でも、声を掛けるのにはもうちょっとの切っ掛けが必要だった。
※──────────※
そして話は、僕が7月の花組公演のチケットを自力で取ろうとするところへ繋がって来る。
波奈も帰郷し、そのコネにも頼れないと言う一件だ。
因みに7月公演の前売り開始は5月中旬の頃だったと記憶している。が、ここで当時のチケット取りについての詳細を説明することは控えたい。
ただ当時は未だアナログで、とても面倒な「列び」があった事だけは伝えたい。
僕は土曜日午前10時配布の前売り整理券を取得するため、前日の夜21時過ぎに劇場正面に赴いた。当然、正面入口にはシャッターが下りている。
列どころか人だかりも出来ていない。でも、そのシステムについては良く知っていた。
僕は訳知り顔で、そのシャッター前に立つ数人の女性に声を掛けた。
「済みません。7月公演の列びなんですが」
「はい、私達が1番の○○会です。お名前とおおよその人数をお願いします」
「はい、歴野理久です。一人です」
「個人の方ですね?」
「はい、個人です」
「歴野さんは78番となります」
──と、こうなる。
ちなみに僕は「あまり無理してもしんどいし、だけどちょっとは頑張りたいし」と、その加減で前夜金曜日の21時過ぎから列び始めた順番が「78番」だった。
(え?それなら結構いいんじゃない?)
なんて思ったら大間違い!
なんせ1番の「○○会」だけで何百人いるか分からないのだ!
そして案内はこう続く。
「システムはご存知ですか?ここに実際に列ぶ必要はありません。近隣にご迷惑ですから。
ただし今後、一時間ごとに点呼を取ります。もし点呼に答えられなければ、その時点での最後尾に順番が落とされます。次の点呼は22時です。よろしいですか?」
──と説明される。
なるほど、波奈から教えられていた通りだ。
僕が上京した翌年、波奈は無事大学を卒業し、帰郷して地元の企業に就職した。
全くの偶然だったけれど、その波奈の大学時代最後の東宝劇場公演が、ご贔屓の雪組だった。正に卒業とかぶる3月公演だった。
波奈はファン・クラブの一員として、まるでお別れをするがごとく散財して通いつめたけれど、別に観劇をこれで止めるつもりではない。
たとえ東京を離れても雪組公演だけは見に来るつもりだったし、そのチケットのためにファン・クラブは辞めない。
ただ東京に残される僕にしたら、帰郷した波奈の人脈をいつまでも頼る訳にも行かなかった。
取り敢えず4月の星組公演は3月雪組との流れでチケットを取ってもらえた。
しかし7月の花組、8月の月組と続くそれ以降のチエットは、自分で何とかしなければならない。
──そこから僕の、本当の意味でのファン活動が始まった。
※──────────※
ところで僕も東宝劇場に通い始めて約一年になる。
結構な頻度で通い詰めていたからだけど、ここで何度も顔を合わす、気になる男の子が存在した。
後に親しくなる、タッチこと
──入江達也だ。
おそらく彼も相当な回数、ここに通っているのだと思う。そうでなければここまで頻繁に顔を合わせない。
何が気になるって、彼はいつも例外なく一人なのだ。
この女性ばかりの劇場は、普通の男子ならかなり居心地が悪いのではないか?
(まあ、僕は普通の男子ではないから、この状況をフルに楽しんではいるけど)
それに彼は宝塚ファンと言うにはあまりにも地味で、正直パッとしない感じだったから尚さら気になる。
おそらく向こうも僕の存在を意識しているのかな?と思えないでもない。何となく良く目が合うような気もする。
でも、やはり中々声は掛けにくかった。
一人ぼっちで服装も地味なわりに、しっかり出待ちまでしている。
かなりな「通」だ。
僕は少しずつ、そしてどんどん彼が気になりだした。
──でも、声を掛けるのにはもうちょっとの切っ掛けが必要だった。
※──────────※
そして話は、僕が7月の花組公演のチケットを自力で取ろうとするところへ繋がって来る。
波奈も帰郷し、そのコネにも頼れないと言う一件だ。
因みに7月公演の前売り開始は5月中旬の頃だったと記憶している。が、ここで当時のチケット取りについての詳細を説明することは控えたい。
ただ当時は未だアナログで、とても面倒な「列び」があった事だけは伝えたい。
僕は土曜日午前10時配布の前売り整理券を取得するため、前日の夜21時過ぎに劇場正面に赴いた。当然、正面入口にはシャッターが下りている。
列どころか人だかりも出来ていない。でも、そのシステムについては良く知っていた。
僕は訳知り顔で、そのシャッター前に立つ数人の女性に声を掛けた。
「済みません。7月公演の列びなんですが」
「はい、私達が1番の○○会です。お名前とおおよその人数をお願いします」
「はい、歴野理久です。一人です」
「個人の方ですね?」
「はい、個人です」
「歴野さんは78番となります」
──と、こうなる。
ちなみに僕は「あまり無理してもしんどいし、だけどちょっとは頑張りたいし」と、その加減で前夜金曜日の21時過ぎから列び始めた順番が「78番」だった。
(え?それなら結構いいんじゃない?)
なんて思ったら大間違い!
なんせ1番の「○○会」だけで何百人いるか分からないのだ!
そして案内はこう続く。
「システムはご存知ですか?ここに実際に列ぶ必要はありません。近隣にご迷惑ですから。
ただし今後、一時間ごとに点呼を取ります。もし点呼に答えられなければ、その時点での最後尾に順番が落とされます。次の点呼は22時です。よろしいですか?」
──と説明される。
なるほど、波奈から教えられていた通りだ。
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