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第5章 微笑みの影の危うい性

No,60 めくるめく快楽の日々

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【これは高校1年のお話】

 SEXって、 こんなにも夢中になるもの? 
 射精して受精して種の存続のためなら、男同士のそれって何だ?
──と懐疑的に思ったりもしたけど、射精なんてずっと後の最後でいい。 
「特殊な挿入」なんて、男女の真似事も俺には要らない。

 キスから始めてあんな事やこんな事。昨日はああだったのに今日はこう。 
 ジュンはあたかも絵本のページをめくるように、次から次へと新しい事を教えてくれる。 

 ある時は 
「えっ?そんな事までしてくれるの?え?それは……ちょっと……」 
「どう?すごいよね。僕もこれされたとき驚いた。まるで奴隷にかしずかれているような気分になるよね」 
「う、うん……あ、あん……」 
「これしてくれた人、結婚している人だったけれど、奥さんは絶対にこんな事してくれないって言ってた。要求したら離婚ものだってさ」 
 クスッと笑う。

(何なんだ?その話し……)

「だからきっと、ああ、自分もして欲しいんだろうな~って思って同じようにしてあげた。ふふっ、泣いて喜んでたよ」 

(んんん………?)

 ジュンは時々、こう言う気になる事をさらりと言う。 

(結婚してる人?それ大人だよね?その人がジュンの元カレ?)

 でも俺は、 そこをあえて追及はしない。 
 だって今、とてもいいから。 

(あ!確かに凄いかも……)


※──────────※


 もちろんピアノの練習は欠かせないけど、部活とジュンで忙しい。 毎日はとても無理だけど、時々は祖母の家にピアノを弾きに通ってる。 

 例によって、 女性週刊紙の相談コーナー。 
──「夫との行為がマンネリで嫌悪と不満が募ります。自分本位に挿入するだけで10分もかからずに終ってしまいます」だって。 

(ふ~ん、こりゃ大変だ~)
 って、 煎餅かじりながら読んでると祖母が玉露を入れてくれる。
「理久ちゃんこの頃何だか色っぽいわねぇ、海老さまみたいな流し目しちゃって。彼女でも出来たんじゃないの?」
 なんて、いつまでも可愛い孫息子だと信じて疑わない祖母が可哀相。 
 俺なんてジュンとあんな事してこんな事して、あまつさえそんな事までしてるのに。 

(10分か……。挿入だけなら、そんなもんだろうなぁ)
 と、SEX相談を読んでも以前とはまるで反応が違う。
(それにしても10分?考えられない)
 ジュンとしてると一時間があっという間。しかも何回……?

 確かにジュンは、 自分史上最もSEXの相性の良い相手だったのかも知れない。 
 でも俺は──後にそのSEXよりも大切なものを選ぶ事になるのを、まだ知らない。 


※──────────※


 学校では平静を保つように心掛けてた。 
 かつては休み時間の度に俺の元へ来ていたジュンが、パッタリ知らんぷりを決め込むようになった。 

 その理由は理解している。 
 でも淋しい……。 

 クラスの中ではイチャイチャしない!って決めていても、俺はついついジュンを目で追ってしまう。 
 ジュンの笑顔はポーカーフェイスだ。付き合うようになって露骨に感じる。
 あの満面の笑みはみんなに公平に振りまかれるもの。決して俺だけのものではない。
 だんだんそれが悲しくなった。


 同時に圭が遠ざかってく……。 


 冬休みから三学期。 
 そして春休み──。

 ジュンとのとろけるようなSEXに溺れる俺。 
 平田への報われない想いに 胸ふるわせる切ない俺。 

 どちらが本当の俺? 
 どちらも本当の俺。 

 高校1年が終業した。 

──春休みを終えて、俺は2年生に進級した。


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