68 / 102
二章 再会は胸を締め付ける
No,59 宿命の行為
しおりを挟む(今俺の目の前にいる祐二は何も変わらない。俺の知ってる、あの頃のままの祐二だ)
祐二の両手をそっと握りしめ、明彦は静かに語りかけた。
「祐二、慌てているんだろ?
俺が突然目の前に現れたりしたから」
「え、そんな事ない。僕は何も慌ててなんかいない」
「おまえの考えている事ぐらい俺には容易に察しがつく。おまえの気持ちは、あのパリでくれた手紙のまま何も変わってはいない。
俺に迷惑の掛かる事を恐れるのか、それとも自分の過去が俺との再会を邪魔するのか……」
何気なさそうに明彦の手を振りほどく祐二──。
「何を言っているのか分からないよ。ただ僕はもう、昔の事は全て忘れた……」
微笑みを浮かべながらそう答える祐二だったが、その唇は怯えたように引きつり、そっと伏せたまつ毛は微かに震えていた。
「自分と関わっちゃいけないって、おまえは俺にそう書き残して姿を消した。だけどそれは全くの思い違いだ祐二!
覚えているか?二人の家を買うために俺は頑張るんだって 、祐二のためだからこそ俺は頑張るんだって!あの時、おまえにそう約束したじゃないか」
「そんな事、有ったっけ…」
祐二は無表情に、抑揚の薄い声でそっと答えた。
「白い椿の花が咲く俺たち二人の家だよ。そのために俺は郷田の家に入った。だけど、結果はそのせいでおまえに辛い思いをさせてしまった。許してくれ、本当に俺のせいでおまえは……」
祐二は言葉に詰まった。
何か言えば途端に涙がこぼれそうだ。
(アキ兄ちゃん言わないで!それ以上は、もう何にも言わないで!)
懸命に耐える祐二に向かい、明彦はさらに言葉を繋げる。
「俺に必要なのは祐二、おまえだけだ!家を買っても、そこに椿を植えても、おまえがいなければ何の意味も無いんだ」
「…………」
「家なんていらない!祐二、おまえと一緒にいたい!そのためなら俺は豪田の跡取りの立場も、物産での仕事も、何もかも全部捨ててしまったって構わないんだ!」
裕二の唇がピクリと動いた──小さく肩をすぼめる。
(アキ兄ちゃん!だめだ、もう僕は耐えられない !)
──瞬間、裕二の身体から力が抜けた。
必死に表情をつくろい、平静を保とうと張り詰めていた緊張がふわりと飛んだ。
遠くを見詰める虚ろな瞳。
独り言のように呟いた。
「今……何時?さっき三時の時計が鳴った……
お茶を、お茶を入れなきゃ」
まるで自分自身に言い聞かせるようにそう呟くと、祐二は突然階下に向かい、不自然なほど大きな声でタキの名前を呼び始める。
「タキさん!タキさん!!」
「祐二どうした?!」
「お茶を!三時のお茶を入れなくちゃ!」
突然ベッドから飛び起きると、祐二は明彦を振り払いドアへ向かう。
「祐二!!」
明彦は慌てて後ろから祐二を抱き止めた。
しかし祐二は力ずくでそれに歯向かい、なおさらにドアをどんどん叩いた。
「タキさん!タキさん!」
ただ事ではない裕二の様子に明彦も戸惑う。
「落ち着け祐二!タキさんは今さっき帰った。とにかく落ち着くんだ!」
音を立てて絡み合う二人。
抱き締めようとする明彦に対し、祐二は力まかせに必死の抵抗を見せた。
「嫌だ!離せ!もうこんなの沢山だ!」
「祐二なぜだ!どうしたんだ祐二!」
一度に押し寄せた止めどない涙に、祐二は顔をぐしゃぐしゃにゆがめて嗚咽した。
「離せ!もう、何も話すことはないんだから!」
「祐二!!」
明彦が強引に祐二のあごを掴んだ──自分の方へと向き直らせる。
驚きに顔をそむけようとする祐二──その頬を両手で抱えると突然、明彦は思いの全てをぶつけるがごとく、激しく祐二の唇を奪った。
(祐二!!)
(あ!)
幼馴染み?
幼少の頃から兄弟のように育った二人。
──明彦と祐二の初めての
くちづけ
それは、これからの二人の新しい関係を決定付ける宿命の行為だった。
10
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる