67 / 102
二章 再会は胸を締め付ける
No,58 噛み合わない会話
しおりを挟む(なぜ?どうしてここにアキ兄ちゃんが?)
「突然やって来たりして驚いただろ?やっと祐二を探し当てた」
(アキ兄ちゃん……!)
明彦から視線をそらし、窓の外に広がる青空を見詰めながら祐二は大きく目を見開いた。
急に心臓の鼓動が激しくなる。
「なぜ?どうして……?」
明彦から目をそらしたままの祐二の声は儚げにもか細く、そして微かに震えていた。
そして自分に言い聞かせる。
( 落ち着け!冷静によく考えて、上手にこの場をやり過ごすんだ……!)
「まさかこの町にいるとは思わなかった。祐二、ずっと探していたんだ、パリで出会った時から今日までずっと」
「アキ兄ちゃん……」
「この場所のことは佐伯さんが教えてくれた」
「あ……さっきの電話はそう言うことか。お客様が来るならそう言ってくれればいいのに」
祐二はいかにも平然とした様子で微笑みながら、額に当てられた明彦の手の平をそっと払い除け、上半身を起こした。
(どうしよう……今更アキ兄ちゃんに来られたって、どうすればいい? )
2年ぶりにやっとこうして向き合えた二人──しかしその空気は妙にぎこちなく、何かしっくりと来ない不自然なものを含んでいた。
「祐二、会いたかった。会ったら話したい事が山ほど有ったのに、俺はこうしておまえを目の前にして何をどう話せばいいのか……」
「こんな遠くまでわざわざ来なくても良かったのに。もう僕たちは、何も関係が無いんだから」
祐二はそっとまつ毛を伏せた。
(アキ兄ちゃんはいつかきっと来ると思っていた。だけどそれがまさか今日だったなんて……この日をずっと恐れていたのに)
「関係がないって、おまえがパリで寄こした手紙にもそんな風に書いてあったが、そんな物言いはおまえらしくない。それがおまえの本心である筈がない。あんな形で俺の前から姿を消されて、それで俺がはいそうですかとおまえの事を忘れられると思うか?」
「そうかな?僕は忘れていたけど……あれはパリの……そう、もう昔のことだから」
裕二の瞳は遠くを見ているかのようだ。
(どう言えばいい?どう話せば分かってくれる?アキ兄ちゃんは、僕なんかに関わっちゃいけないんだ)
「祐二、そんな空々しいこと、おまえが本気で言ってるんじゃないって分かっているんだ。おまえのそんな言葉に騙される俺じゃない」
「アキ兄ちゃん……」
「ロモランタン侯爵に預けた俺からの手紙、おまえには届かなかったか?」
「知らないよ……と言いたいところだけど、侯爵の名誉のため正直に言っておくよ。確かに手紙は受け取りました。だけど一度目を通してその後すぐに捨ててしまったから、ごめん、何が書いてあったか、もう何も覚えていない」
祐二は明彦からの真剣な眼差しを軽い笑みで受け流し、ひとつひとつの問い掛けにも白々しくはぐらかす。
噛み合わない虚しい会話に、明彦は苛立ちよりもやるせない悲しみを覚えた。
(こんなはずない!俺たちの絆はこんなに儚いものじゃないはずだ!)
明彦の脳裏に幼い頃からの数々の場面が、早送りのようによぎって行く。
──よちよち歩きの祐二。
少年の日の祐二。
そして2年前の、あの優夜と名乗った異形の姿──。
そして明彦は自分に言い聞かせる 。
(今俺の目の前にいる祐二は何も変わらない。俺の知ってる、あの頃のままの祐二だ)
10
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる