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二章 再会は胸を締め付ける

No,44 祐二の父、現る

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 1977年──13歳になった祐二の元に突然父親だと名乗る男が現れた。
 幼少より片時も離れずに育った明彦と離れ離れになって既に2年──悲痛とも言える淋しさに心を閉ざしていた祐二にとって、それは衝撃的な出来事だった。

 明彦には何度も手紙を書いた。それだけが二人を繋ぐ方法だった。
 が、それなのに明彦からの返信は一度だって届いた事がない。

(きっと、手紙を書く時間も無いくらい忙しいのに違いない)

 そう自分に言い聞かせ、明彦の気持ちを信じ続けようとする祐二だったが、しかし全く音沙汰の無い2年間はさすがの祐二の心さえも疑心暗鬼に陥れた。

(アキ兄ちゃんにとっては、僕の存在なんて迷惑なだけなのかも知れない……)

 あまりに冷たい明彦に対し、祐二の思いは激しい憎しみへと変化したかのような時期もあったが、しかしそれはつまるところ明彦に対する愛情の裏返しでしかなかった。

(アキ兄ちゃん、やっぱり僕はアキ兄ちゃんが好きだ。アキ兄ちゃんの事しか考えられない。
なのに……どうして……)

 次第に祐二も手紙を書く回数が減り、明彦を恨む気力さえ徐々に失って行った。
 それでも祐二は明彦の事を片時も忘れる事はなかった。いつもいつでも明彦の事だけを思い、人知れず切なさに涙していた。

(アキ兄ちゃん、どうして連絡をくれないの?会いたいよ、せめて遠くからでも……)

 父親だと名乗る男が現れたのは、そんな風に祐二がすっかり滅入っていた頃の事である。
 秋本と名乗るその男が本当に祐二の父親であるかどうか、調査は細部にわたり検討された。
 捨てられた当時の服装、時間、そしてその他の状況証拠。何よりも医学的な鑑定が二人の親子関係を決定付けた。

(今になってお父さんが現れるなんて、アキ兄ちゃん、僕は一体どうすればいいの?)

 明彦の事で心塞いでいた祐二は、その激しい驚きと衝撃に只々翻弄され、流れのまま黙って秋本に引き取られて行く事となった。

(アキ兄ちゃんは、僕の事なんて忘れてしまったのかな……)

 幼い頃からずっと育ってきた養護施設──懐かしき潮騒の町から離れる事になった時、祐二は同時に、明彦との思い出とも決別する覚悟だった。


(さようならアキ兄ちゃん……
僕はお父さんに連れられて知らない町へ引っ越します。もう、きっと会うこともないんだね……)


 それ以降、祐二は明彦に手紙を書くのをきっぱりとやめた。
 やめた、と言うより──諦めるしかなかった。


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