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一章 黄昏のパリは雪に沈む

………あさき夢みし

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──────
────
──

「祐ちゃん、祐ちゃん大丈夫?」
「ハァ……ハァ……
うん、大丈夫……僕、もう平気だよ。アキ兄ちゃんが来てくれたからもう安心」

「……ダメだよ祐ちゃん、みんなと一緒に走ったりしちゃ。
祐ちゃんの心臓はみんなとちょっと違うんだ。だから静かに歩かなくっちゃ」
「アキ兄ちゃん……」

「ほら、あっちの木陰で少し休も?みんなよりはだいぶ遅れてしまうけど、でも俺が一緒だから全然平気さ」
「ごめんねアキ兄ちゃん。
僕がどうしても一緒に来たいなんて言ったから」

「バカ言うな、みんなと一緒の遠足じゃないか。大丈夫、俺がいつだって祐ちゃんの側にいるから」
「うん、アキ兄ちゃんがいれば安心。僕、心臓がバクバクしないようにゆっくり歩くよ」

「そうだな。それがいい」
「もう少し待っていて?もう少しここで休めば、直ぐに歩けるようになるから」

「いいんだ、気にすることない。ゆっくり休も?おいで、俺の身体にもたれて休みな。ここの木陰は涼しいよ」
「……こうしてアキ兄ちゃんの胸にもたれていると、アキ兄ちゃんの心臓の音が聞こえる」

「え、そうか?」
「うん、アキ兄ちゃんの心臓の音が好き。聞いていると、ボクの心臓も落ち着いてくるよ?」

「あ、トンボが飛んでる。
祐ちゃん、トンボのお唄って知っている?」
「え、どんなお唄?」


♪トンボのメガネは
     水色メガネ
 青いお空を飛んだから
      飛んだから♪


──────
────(アキ兄ちゃん)
──(アキ兄ちゃんと)
(一緒なら……)



 いまだ醒めやらぬ呆然とした明彦の脳裏に、つい今し方まで見ていた夢の中の少年が今なお語り掛けて来るようだ──



────(アキ兄ちゃん)
───(いつもの)
──(トンボのお唄)
(歌おうよ……)



 しかし感情など持たぬ電子時計は、いまだ夢の続きに執着を持つ明彦の心情になど構うこと無く、乾いたアラームで起床時間を告げ始める。



(ああ、また祐二の夢か……)



 重い身体を一気に起こし、嫌でも現実を知らせる眩しい朝日に目をこする。



(祐二……)



 引きずる想いを無理矢理に払い除け、明彦は懐かしき夢の世界に決別すべく、シャワー・ルームへと向って行った──


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