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2章 魔の大陸攻略編

4地区の支配者が恐れる者

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 アスラに虹色の酒を根こそぎ取られて意気消沈してから数日経った頃、数か月ぶりに騒がしいアイツが帰って来た。

「ただいまなのだッ!!ガクよ、私は風呂に入りたいッ!!風呂の準備をするのだッ!!」

「ここは俺の家なんだから、お邪魔します。だろうが。ちょッ!!待て待て・・・なんでそんなに泥だらけなんだよ・・汚いから外で汚れ落としてこいよ。」

「むっ?!乙女に対して言う言葉とは思えないが・・・私は寛容だからな。その位の事は許してやろうッ!!聞きたいか?聞きたいだろう?実はな、私の好物が森の中に居たから追いかけていたんだが・・・」

 別に聞きたくはないけど・・・あー・・・虫を追いかけてたからそんな泥まみれになったのか。

「途中で気付かずに【糞害鳥ふんがいどり】の巣に入ってしまってな。怒り狂った奴らに追いかけ回されてこのザマなのだ。」

「それってもしかして・・・泥じゃなくて鳥の糞・・・?」

「その通りだッ!!だから早く風呂に入れろッ!!」

「馬鹿ッ!!汚いからこっち来るなッ!!」

 なんとか糞だらけの身体で家の中に上がるのを阻止できたが、朝から騒がしくされてガクの体力ゲージがゴリゴリ削られていった。


 なんとか無事に?風呂に入れる事が出来たが、その頃にはガクはぐったりとしていた。

 そんなガクの様子にも気付かず、風呂に入って身体も綺麗になった事でご機嫌になったスーは、リビングでスー専用冷蔵庫から特性ジュースを取り出して寛いでいた。


「風呂上りはやっぱりこれに限るッ!!くぅーッ!たまらんッ!」

 どこのオッサンだよ・・・しかし、あの冷蔵庫には何が入ってるんだ?皆が間違えないようにスー専用の冷蔵庫を作ったけど、興味はあるけど俺にはあの中を見る勇気はないな・・・。

「ところで、皆は元気そうだったか?」

「皆、元気にやっていたぞ。ミノス様は氷の大陸のダンジョンを攻略したみたいで、一旦町に戻ってきていたぞ?」


 スーが言うには、ミノスは1か月位前に町に戻ってきたみたいだ。ミノスは氷に覆われてる大陸、北の大陸の事だな。そのダンジョンを攻略したみたいなんだけど、その階層は驚きの120階層だったらしい。

 それを1人で攻略するとは流石ミノスだと思ったけど、氷の大陸の”原種の魔物”と一緒にダンジョンアタックしてたみたいだ。

 後数か月はダンジョンコアの魔力を減らす作業をしてから次の大陸に向かうそうだ。

「本当にミノスが居てくれて助かったわ・・・俺だったらまずこんな早くは無理だからな。」

「ガクだってあと少しで攻略できるんじゃないのか?」

「まぁそうなんだけどさ。俺が行ってるダンジョンはアスラが酒を取る為にちょくちょく魔物を狩ってたから、70階層で終わり見たいだけどな。そう言えば・・・」

 ガクは明日からダンジョンの攻略を始める為、事前にアスラと約束していた事をスーに話した。「それは楽しみだッ!!」と良い笑顔を見せるスーを見て、アスラに心の中で手を合わせるのであった。


「じゃあアスラに会ったら俺の家に来てもらうように伝えておくから、それまでの間に絶対に勝手に何処かに行ったり変な事したりするなよ?」

「しつこいぞッ!!ガクは私の親ではないのだぞ?全く・・・私の方がお姉さんだと言うのに、少し見ないうちに背伸びでもしたくなったのだな・・・。」

 確かにオカンみたいだな、と苦笑いしながらスーに行ってくると言い、ガクはダンジョンのある中心部に向かって行った。


 ガクは特に急ぐわけでもなく、自分の庭である魔の大陸の中を歩いて行く。本来、魔物達は自分が生き残る為に他者を喰らい、争いあっているがガクの周りは驚く程静かであった。

 長い歴史の中で、弱者は淘汰されていったこの森の中の魔物は、どれも似通ったランクの魔物が多く、多少自分より相手が強くても下剋上を狙い襲いかかって来るような魔物達だが、ガクに襲い掛かってくる魔物は1匹たりとも居ない。

 4年もガクはこの魔の大陸に住んでいるのだ。ガクの匂いや気配を魔物達は知っている。そして、この人間が恐ろしく強い事も知っている。

 それは何もガクの拠点としている魔の大陸の外周部だけの話ではない。

 中心部付近で争いあっている4組の魔物達も同じ事だ。ガクには決して手出しをしない・・・手を出してはいけない。

 ガクが通る時はただ嵐が過ぎ去るのを待ちジッとしている。なぜあんなに強い魔物が?それは以前ガクに手も足も出ずに完膚なきまでやられた事が原因だった。


 2年程前、ガクはようやく拠点となる家を作り終え、外周部で歯向かって来る魔物を全て蹴散らした頃、ようやくダンジョンの攻略に手を出せる余裕が出来始めた。

 そこで中心部に向かうと、当然この4組の縄張りに足を踏み入れてしまう。自分の縄張りに無断で入ってくるよそ者をそのままにしておく程、4組の魔物は甘くはない。当然の如く、魔物達はガクに襲い掛かって来た。

 最初の可哀そうな犠牲者となったのは東の暴君【トロルキング S 】である。

 襲い掛かってくる亜人系の魔物をガクは切り捨て、時には魔法を使いながら葬っていく。

 いくら経っても侵入者を倒せない事に苛立ったトロルキングはガクの元に向かった。それがトロルキングにとって地獄の始まりだった。

 体長10メートルを超えるトロルキングは自分の強さ、そして何より無限に再生出来る回復力に自信があった。勿論トロルキングも痛みを感じるが、どんな攻撃も瞬時に回復してしまう。他のライバルの中でも自分が最強と自負していた。

 そんな自分の自慢の再生力がガクの前では最大の弱点になってしまう。

 ガクが何度切っても傷はすぐに再生し、この小さき者も大した事がない。とトロルキングがニヤついている頃、ガクはある事を考えていた。


 こいつ潰したら再生すんのかな?


 以前、ガクがスーの事を助ける為に毒地竜ポイズンドラゴンを潰した時に使った、空気の拳エアハンマー。それを使ったのだ。

 ガクが魔力を込めた魔法によって、10メートルを超えるトロルキングが一瞬で潰れる。そして少しすると再生し始める。そして潰す・・・。

 勿論ガクも魔石を壊さないように手加減をしていたが、このトロルキングは魔石を破壊されない限り永遠に再生をし続ける。

 最初はとてつもない痛みに怒り狂い咆哮をあげていたトロルキングだが、何度も繰り返されるうちに今度は精神的に狂い叫び散らかしていた。


 他の3組の魔物も東地区の異変に気付いていた。何者かが東で暴れている。今ならば東地区を落とす絶好の機会と、3地区の魔物達が東地区に集結した。そして目の前の光景を見てしまったのだ。

 小さき者=弱者である。何事にも例外がある・・・そんな事は中心部に君臨するアスラで身をもって知っていたというのに、そのような者は他には存在しないとトロルキング、いや、4地区の支配者全員が油断していた。



 彼らに出来る事は全員で力を合わせてガクを倒す事ではなく、逃走する事だった。ガクの圧倒的なまでの気配と中心部に君臨する我らの絶対的支配者の気配が似ていたからだ。

 あれに手を出してはいけない。逆らってはいけない。

 潔く逃走していった魔物達に気付いたガクは考えた。ここでトロルキングを倒してしまうとこの地区が支配者の居ない空白地帯になってしまう。それはそれで暫く争いが絶えず面倒な事になる。かと言ってガクがここを支配するわけにもいかない。

 ガクの拠点は魔の大陸の外周部に作ったばかりであり、この地区に拠点を作り直すのは正直面倒だったのだ。

 だったらトロルキングは倒さない方が良い。その程度のガクの気分でトロルキングは生かされたのだ。それ以降、ガクがここを通り、帰るまでの間は停戦するという暗黙のルールが出来たのであった。


 そのような事をガクは勿論知らない。せいぜい、最近森が静かでいいな。位にしか思っていなかった。
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