上 下
14 / 17

番外編 第3夜 蝋燭の火

しおりを挟む
「ちーはるッ!!」

「ッ!!暑苦しいから離れろよ‥‥‥」

 大学受験を控えた高校3年の夏。普通ならここから、受験の為にラストスパートをかける時期なんだろうが、俺達は相も変わらず心霊スポットに突撃しまくっていた。

 そして今日は花の金曜日。学校も終わり、休日はゴロゴロしようと決めていた平日の最終日、蛇のようなしつこい男‥‥‥篤に捕まってしまう。

「問題でーす!夏と言えば?」

「はぁ?…花火」

「リア充かよッ!!」

「海で泳ぐ」

「だから、リア充かってッ!!カップルを連想させるワードを出すなよ。正解はお墓参りでしたー」

「…家族と行きますので、遠慮しときます」

「待て待て!!話を最後まで聞けって!」

 篤の事だ。墓に肝試しとか、罰当たりな事を言ってくるに違いない。言われる前に立ち去る…それが篤の対処法だ。

 だが、雑草のようにしぶとい性格の篤に俺は負けて、結局篤の話を聞かざるを得なくなる。

「なんだよ……どうせ、夜中に墓参りも兼ねて肝試ししようとか言うんだろ?」

「千春‥‥‥お前いつからそんな罰当たりな事を考えるようになったんだ?」

「篤に言われると腹が立つな」

 話を聞いてみると、どうやら『地獄坂』と呼ばれる場所に行ってみたいという事だった。その場所は50メートルくらいの坂が続くのだが、周りは林に囲まれていて、日中でも薄暗くその坂の中腹には墓地があるのだ。

 何故、そこが地獄坂と呼ばれるようになったか不明であるが、篤が小さい頃からそう呼ばれていたそうだ。

「それでだな、そこの曰くが少し面白いんだよ。夜中にその道を通ると、後ろには誰も居ないのに、足音が聞こえてくるんだって」

「それの何が面白いんだよ」

「『べとべとさん』みたいで面白いだろッ!?」

「妖怪のべとべとさん?」

「そうそう。そこは後ろから足音がするだけで、特に何か見えるとか、被害に遭うとかはないんだけど、妖怪だぞ?妖怪オタクの俺としては是非行きたかった場所なのだよ」

「いつの間に心霊オタクから妖怪オタクに衣替えしたんだよ‥‥‥」


『べとべとさん』というのは、夜道を後ろから着いてくるだけの妖怪なのだが、特に何かしてくるとかそういうのはない。つまり、怖くないストーカーだ。

 結局、次の日に現地で篤と待ち合わせをする事になる――


 ◇

 次の日の夜、風一つない暑苦しい夜だったという事は記憶に残っている。そんな中、俺と篤は待ち合わせ場所に集まっていた。

「さてと、22時になったのでそろそろ向かいますか。べとべとさん出てくれるかな?」

「出るはずねぇだろ‥‥‥妖怪なんて創作だろ?」

「お前ッ!!水木先生に謝れッ!!」

「水木先生の名前を出すのは卑怯じゃねぇか?‥‥‥悪かったよ」

 一応民家は近くに無いとは言え、あまり騒ぎ過ぎるのは良くない。高校生だから、警察に見つかったら補導されてしまう。

 ルートとしては、坂道を上ってから下がって来るというルートだ。篤の先祖が眠っているお墓はここにあるらしく、せっかくだからお墓参りも‥‥‥とか馬鹿な事を言っていたから全力で止めた。

 そんなわけで、俺は初めてこの地獄坂という、薄気味悪い坂道を通る事にしたのだが、俺が想像していたのは坂の上まで見える直線の坂道。

 だが、実際坂の麓に来てみると、曲がりくねりながら登って行く坂道のようだ。

「べとべとさんは何の為に存在する妖怪なんだろうな」

「なんだよいきなり」

「最近さ、こんな話があったんだよ。幽霊寿命ある説って奴。昔はさ、落ち武者の霊が~とかそんな話が結構あったじゃん?でも、最近は聞かなくない?」

「あー‥‥‥確かにそうだな」

「なんでも、幽霊って時間が経つと自分の顔が分からなくなって、ついには消滅しちゃうんだって。でも、怨念が強ければ消滅せずに存在し続ける事が出来るらしい。有名なのだと平将門なんかがそうらしいよ?」

「へー。実際俺も戦国時代の人とかは見た事ないな。実際は分からないけど、中々面白い話だな」

「だろ?べとべとさんなんかもかなり昔から存在してるのに、少し前までは目撃証言なんかも、調べたら出てきたりしてさ。だから、なんか伝えたい事でもあるのかな-って思ってさ」

「伝えたい事があるから、後ろから着いて来てるって事か?」

「そうだったら面白いなって思ったのよ。というか、話してる内に上まで着いちゃったな。後は下って、何も無かったら帰るか」

 今の所ただ二人で話しながら坂道を歩いているだけだ。このままでは蚊に刺されながら夜の散歩を、男二人でしただけになってしまう。何が悲しくて野郎と散歩しなくちゃならねぇんだよ‥‥‥。

 そんな一人悲しくなっている時、篤の小さな悲鳴で現実に戻される。

「ひゃっ!」

「‥‥‥?どうした?」

『墓地の方見て見ろよ』

 小声で話してくる篤の言葉に従い墓地の方に視線を向ける。

『灯り‥‥‥?いや、蠟燭の火?』

『だよな。こんな時間に墓参りか?大分クレイジーな奴もいるもんだな』

『ふふっ。笑わせんなよ』

 小声で話すと何故かしょうもない事でも笑えてくる。

 修学旅行の夜に先生にバレない様に、友達と話をしている様な感じだ。

 一種のスリルを感じているからそのような状態になるのだと思う。まあ、緊張と緩和ってヤツだな。兎に角、その時は篤のクソつまらない言葉でも笑いを堪えきれなかった。

『行ってみる?俺達も墓参り。丁度、線香も持って来たし』

『ふふっ。なんでそんなの持ってきてんだよ。火はどうするんだ?』

『ぷっ。あそこの蝋燭の火から拝借しようぜ』

『ククッ‥‥‥やめろ馬鹿』

 何故か楽しくなってきた俺達は、結局夜の墓参りを決行する。この墓地には篤の祖先の墓もあるし、何よりこんな夜に墓参りをする奴の顔を見たかった。

 多少、おふざけが入っているのは否定はしないが、篤の祖先が眠っている墓には、真面目に手を合わせる気でいた。


 周りは林で囲まれているので、墓地に出入りする箇所は一か所しかない。

 墓石の数も20~30といった少な目の墓地なので、いくら暗いとはいえ人が居ればすぐに分かるくらいの広さだった。

 歩いて蝋燭の火が灯っている方に進んで行くが、辺りには誰も居ない。

「誰も居なくないか?」

「そうだな‥‥‥今日は風もないし、結構前に来た人が火を消し忘れた、とか?」

 蝋燭の火に近づいてみると、一つの墓石に辿り着いた。そこは、篤の祖先が眠る墓石だった‥‥‥なんてことはなく、何処かの家の墓石だった。

 ただ少しおかしいのは、蝋燭が長いのだ。

 その時は知らなかったが、蝋燭の長さによっては燃焼時間が違うようだが、その蝋燭は蝋の垂れ具合から考えると、火を点けてから間もないという事だけは分かった。


 俺達が坂道を上っている時に、蝋燭に火を点けた人物が墓参りを終えて、坂道を下っていった可能性も勿論ある。


 だが、俺達は一つだけ疑問に思っていた事がある。

 普通に考えるなら蝋燭に火を点けるという事は、線香に火を点けたいからだ。けど、線香は燃え尽きて灰になっているものしかないし、何より線香の匂いがしなかった。

 何の為に火を点けたのか分からない。そんな疑問が残りつつも俺達は、篤の祖先の墓に手を合わせて帰っていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 どうも。ゆりぞうです。
 番外編も以上となります。今回は霊などは出ない、不思議な体験のお話でした。
 結局、なんで蝋燭に火が点いていたかは分からず仕舞いです。
 オチがないのかよッ!!と、もやもやさせてしまったかもしれませんが、現実はほとんどこんなものです。

 次話からは千春と篤が、動画配信者になった後の話を書いていきますが、フィクションになります。
 宜しければお付き合い下さい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【本当にあった怖い話】

ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、 取材や実体験を元に構成されております。 【ご朗読について】 申請などは特に必要ありませんが、 引用元への記載をお願い致します。

続・骸行進(裏怪談)

メカ
ホラー
本作で語る話は、前作「骸行進」の中で 訳あって語るのを先送りにしたり、語られずに終わった話の数々である。 前作に引き続き、私の経験談や知り合い談をお話しましょう・・・。 また、前作では語られなかった「仲間たち」の話も・・・是非お楽しみください。

こわくて、怖くて、ごめんなさい話

くぼう無学
ホラー
怖い話を読んで、涼しい夜をお過ごしになってはいかがでしょう。 本当にあった怖い話、背筋の凍るゾッとした話などを中心に、 幾つかご紹介していきたいと思います。

狙われた女

ツヨシ
ホラー
私は誰かに狙われている

拷問部屋

荒邦
ホラー
エログロです。どこからか連れてこられた人たちがアレコレされる話です。 拷問器具とか拷問が出てきます。作者の性癖全開です。 名前がしっくり来なくてアルファベットにしてます。

処理中です...