11 / 14
王宮編
4
しおりを挟む翌日、案の定クレアは目を腫らした、気を利かせた侍女長が人と会わない仕事を選んでくれた
一連の騒動を何度も思い出し、頭を働かせて考えてみるが、ティムの言っていた意味、ヘイリーの最後の言葉、クレアは全くわからなかった。
騒動から既に二ヶ月過ぎ、季節は冬に入っていた
あれ以来、ヘイリーとはよく廊下ではすれ違い、視線を感じると、遠くから目が合ったりしたが、会話をするのは数える程だった。
ティムとは全く会わなかった。元から会えるような立場にいないクレアはあの人懐っこい笑顔を見れなくなった。そんな日常を送りながらも、淡々と作業をこなし、侍女長や侍女仲間達と絆を深めていった
見習いをとり、立派な侍女になる目標も出来たし、
クレアは毎日が楽しくなっていた
だから
クレアは気を抜いていたのかもしれない
「お疲れ様クレア!今日はもういいわ、寒いから風邪ひかないでね」
「侍女長!もう少しでキリがいいので、そこまでやったら終わりにします!」
「ふふ張り切ってるのね、今日の夕食は鶏肉が入ってるそうよ!先に食堂で待ってるわね!」
「お肉!!侍女長!残しておいて下さいよー!」
「ふふん、作業を頑張るのも大事よ、だけどしっかり食べて、体力をつけるのも大事な事なのよ」
人差し指を、上へ指しひょうきんに言った侍女長にクレアは笑顔になった。
目を腫らした日以来、侍女長はクレアを心配して、特に目をかけてくれている、それを申し訳なく思うも、早く一人前になってみんなと肩を並べたいと頑張るクレア
そんな日の夜
遅めの夕食を食堂で取った後、自室に戻り、入浴を済ませて寝支度を整えると、瞬く間に瞼は重くなり、ベッドに体を半分入れた、
その時
廊下からバタバタと足音が聞こえた
何かあったのかと首を傾げていると
ガッシャーン
窓ガラスが割れて床に粉々に散らばった
割ったであろう、人の拳よりも一回りは大きい石も床に転がった
クレアを一気に恐怖が襲い、自体を把握出来ないでいると、そこに黒い人影が割れた窓から入ろうとしていた
「なっなに!?だれ!?」
咄嗟にベッドから起き上がり、窓とは反対側、廊下に向かう扉側に体を降ろし、しゃがみ込んで顔少しだけ出して、黒い人影を追った
黒い人影とはベッドを挟んだ形となった。
黒い人影は、月光を背に窓から侵入し、パリパリと窓ガラスの破片を踏みながらゆっくりと近づいてきた
「近づかないで!!」
大きな声をだすが、黒い人影は立ち止まらず、目を下に移せば、人影は短剣を持っていた
私を亡きものにしようとしている
それだけは理解し、クレアは恐怖に脚が震えた
ダンッ
勢いよく廊下側の扉が開いた
「クレア!!」
声を聞いて誰が入ってきたか分かる、顔を見なくても
「ヘイリー様!!」
クレアは立ち上がりヘイリーに体を向け一歩脚を出した
ヘイリーはクレアを目に捉えて駆け出す
黒い人影は短剣を振りかぶり勢いよくクレアに向かった
全て同時に起きた
クレアは黒い人影が向かってくる音に気付き、人影に目を向けた、恐怖で動けなくなっていた
急に目の前に大好きなキラキラとした髪が揺れた
勢いよくヘイリーが抱きついてきた、体の態勢を崩しそうになり思わずクレアは控えめに抱き返した
「ヘイリー様?」
バタバタと室内に何人もの騎士が雪崩込み、黒い人影は瞬く間に拘束された。
捕まる人影を見たクレアは一安心し、ヘイリーに意識を向けた
「ヘイリー様もう大丈夫です。騎士様達が捕まえて下さいました」
「ヘイリー様?」
返事のないヘイリーを不思議に思い、少し体を離しヘイリーの顔を覗き込んだ
「間に合ってよかった、クー怪我はない?」
「はい、大丈夫です。でもヘイリー様、何故こんなにも早く駆けつけてく「クー...」 はい...どうしましたか?」
「気に病まなくていいから、クーに怪我がなくて...よかった...本当に」
ヘイリーの顔は青ざめていた
クレアは何を気に病むのか考え始めた、その時
「ヘイリー!!」
エヴァン公爵の声が聞こえ、ヘイリーに駆け寄った
「ほんとに...お前は心配ばかり掛けて!!」
「全部俺が自分で行動を起こした」
それだけだと声は段々と小さくなり、ヘイリーはクレアに体を預けた
「え?ヘイリー様!!」
クレアは倒れかかってきたヘイリーを何とか受け止めたが支えきれず、ヘイリーは床に崩れ落ちそうになった、顔が耳元に近づいた時に愛してると聞こえた気がした、遂に支えきれずヘイリーは崩れ落ちた。
すぐ様エヴァンが抱き抱えようと手を伸ばしたが、何かに気付き、ハッとした
「誰かー!!手を貸してくれ!!ヘイリーが!ヘイリーが刺されれた!」
その場にいた全員がヘイリーに意識を向けてすぐに行動を移した
「そんな.........何で」
ヘイリーの背中には先程、黒い人影が持っていた短剣が刺さったままになっていた
クレアの意識は遠のき、どっと涙が溢れた
すぐにヘイリーは運ばれ、医師が駆けつけていった
クレアは崩れ落ち、そのまま立てなくなっていた
人が刺されている場面も、人が死ぬかもしれない場面も、初めて目の辺りにし、クレアはただただ泣いた
三日後ヘイリーは目を覚ました
幸い、大事な部分には達しておらず、安静にしてキチンと食事をする事を言い渡された。
クレアは自分のせいで怪我をしたヘイリーを心配して、エヴァンと侍女長に相談し、しばらくの間は休みをとり、ヘイリーの世話をやいていた
看病をしている時間は穏やかだった。
クレアとヘイリーは色々な話をした、好きな食べ物や好きな歌、手紙には書かなかった些細な出来事まで
会えなかった日を埋めるように
ただ
刺された日の出来事は一切話をしなかった
0
お気に入りに追加
487
あなたにおすすめの小説
猛禽令嬢は王太子の溺愛を知らない
高遠すばる
恋愛
幼い頃、婚約者を庇って負った怪我のせいで目つきの悪い猛禽令嬢こと侯爵令嬢アリアナ・カレンデュラは、ある日、この世界は前世の自分がプレイしていた乙女ゲーム「マジカル・愛ラブユー」の世界で、自分はそのゲームの悪役令嬢だと気が付いた。
王太子であり婚約者でもあるフリードリヒ・ヴァン・アレンドロを心から愛しているアリアナは、それが破滅を呼ぶと分かっていてもヒロインをいじめることをやめられなかった。
最近ではフリードリヒとの仲もギクシャクして、目すら合わせてもらえない。
あとは断罪を待つばかりのアリアナに、フリードリヒが告げた言葉とはーー……!
積み重なった誤解が織りなす、溺愛・激重感情ラブコメディ!
※王太子の愛が重いです。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
無理やり婚約したはずの王子さまに、なぜかめちゃくちゃ溺愛されています!
夕立悠理
恋愛
──はやく、この手の中に堕ちてきてくれたらいいのに。
第二王子のノルツに一目惚れをした公爵令嬢のリンカは、父親に頼み込み、無理矢理婚約を結ばせる。
その数年後。
リンカは、ノルツが自分の悪口を言っているのを聞いてしまう。
そこで初めて自分の傲慢さに気づいたリンカは、ノルツと婚約解消を試みる。けれど、なぜかリンカを嫌っているはずのノルツは急に溺愛してきて──!?
※小説家になろう様にも投稿しています
婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)
彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる