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二、違いにご用心
2ー2、絶対に来させないはずだ。
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だが、そうなると別の疑問が現れる。
サードは何者だろうか?
それに、もし青年幽霊が孟起の言うシリュウだとしたら、生真面目で誠実な隊員で妹を大切にしていた彼が魔物の現れるような危険なところに十四、五歳の少女を連れて行動するとはとても考えられない。父上も彼の保護者ぶりは呆れ笑いを浮かべながら語っていた。
彼らの親しげな様子からして赤の他人同士だったが、学校で偶然出会い、その場で意気投合して仲間になったとも思えない。もしそうなら、情報交換を円滑に進めるためにも、こちらとも協定を結ぶはずだ。それにサードは青年幽霊を兄と言っていた。やはり、縁の者・・・・・・なら絶対に来させないはずだ。
タイラは悩んでいた。青年幽霊は本当に支援輸送隊第三隊員シリュウなのかと。
「はぁ~」
本日何度目かわからないため息を吐く。そして教室で唯一空いている席に目を向けた。
今朝方、まだ夜の明けぬうちに孟起はタイラの部屋にやってきた。もちろん無断で。
しばらく別行動をとると言ってサッサと出て行ってしまった。もちろん、他の仲間に託ける事をせずに。まぁ、彼が一人でどこかに行くのはいつものことであるし、理由もわかるのでタイラは快く承知した。
孟起は自由奔放で単独行動を好むところもあるが、実は仲間思いだし、やることには筋が通っていると最近ではタイラもわかってきた。だが、それゆえに団体行動には向いていない。さらに堅物の者によく思われない彼の外見のためもある。不良グループの中に紛れたら見分けがつかなくは強烈な自己があるのでならないだろうが、完全に仲間に見えるだろう。昔、ヘッドをやっていたと冗談交じりに言っていたが、本当ではとタイラは今でも思っている。実力実績はあるが、なかなか雲長と打ち解けていないのもそのせいかもしれない。年が離れているのも彼が孤立した原因の一つだろう。
父親であり常に行動を共にしてきた雲長が当たり前のように玄劉のパートナーになるので毎回必然的にタイラが孟起と組むことになる。
本当はいい奴だとタイラもわかってはいるのだが、まだ彼の性格についていけないため、早く新しい団員がほしいと思っているのも事実である。
そんなことを考えつつ、漂う大量の気を整理しながら調査している最中だった。
「タイラ、昼休みになったぞ。飯食いに行こうぜ」
昨日早速友達になった男子三人に声をかけられて現実に引き戻された。向かって右から佐藤君、田中君、山下君。気を追うのに夢中で授業が終わり昼休みになっていたのがわからなかった。気分転換もかねてタイラは彼らと共に昼ご飯をとることにした。天気がいいので、屋上で弁当を食べることに決まり、弁当を持って教室を出る。屋上に続く階段を上りかけた時、ドアの向こうで数人の女子の声が聞こえてきた。
「げっ、黒バラ四人組がいやがるのか」
「誰でござるか?」
「教室にやたらと派手な奴らがいたろ。会社の令嬢とか金持ちの家の娘だってこと鼻にかけてるいけ好かない集団でさ」
「朽木 沙耶、楼上 菫子、馬場 美佳、蘭園 聡子。頭文字をあわせて黒バラ四人組だとさ。美人ではあるが性格がキツすぎる」
「親がこの学校に多額の寄付をしてるとかで先生も手を出せない。そのことをいいことにやりたい放題」
「例えば?」
「授業中先生を無視して平気に私語してるのはすでに知ってるだろう」
佐藤の言葉にタイラは首を縦に振った。今日もそうだったかはわからないが、昨日はどの授業中でも関係なく大声で話していた女子がいた。遠慮という言葉を知らないのかと初日にタイラが思った女子達。先生も注意することすら諦めていた彼女達のことだろう。
「それだけならまだ甘い方さ。他にも授業中に携帯に化粧。挙句の果てには出前を頼んでその場で食べる。それなのに学校に来ない日は全然ないんだぜ。もう、呆れるしかないって感じだ」
そこまで堂々とやられたら誰も叱る気すら起きないだろう。
「だな。途中退出した日は教室にいた全員が安堵のため息を漏らしたものさ。ようやくまともな授業が受けられるってね」
あの時は嫌いな授業が嬉しく感じたと言って田中は笑った。
「今少し大人しいのはあるゲームを楽しんでるからだって噂だ」
「ゲームってどんな?」
「いじめだって噂だぜ。クラスに三つ編みで眼鏡をかけて大人しい子がいただろ」
そんな女の子いただろうか。クラスメートの顔を思い出してみるが、思い当たる人物は脳裏に浮かばなかった。同じクラスの馬場 美佳と蘭園 聡子比べたら他の女子はどれも大人しく感じる。
「井上 久美子って言うんだ。いっつも本を読んでて、話しかけてもほとんど答えてくれない、妙に存在感の薄い奴」
「でも、いい娘なんだよな。わからない問題とか聞くととても丁寧に教えてくれるし、こっちがわかるまで嫌な顔をせず根気よく付き合ってくれるからさ、影では男女学年問わず人気がある。しかも、下手な先生に訊くよりわかりやすいときたもんだ。教室にいなかったら探しようがないけどさ」
「そういえば眼鏡をとると美人だという噂もあったぞ。だから黒バラの標的になったんじゃないかって。虐めが本当にあってるかは知らないが、実際、最近よく一緒にいるのを目撃した生徒は多いぜ。先生も心配していたしな」
「もしかして柔らかな髪の娘でござるか?」
「いや、ふわふわって印象はないな。寝癖ついてるの見たことがないし」
彼女であろうとなかろうとその人物を何とかして助けたいと思ったタイラだったが、田中たちを巻き込むわけにはいかなかった。三人は触らぬ神にたたりなしの精神が身に染みているらしい。噂の域を出ないので間違っていた場合の痛手が彼らに降りかかる事がない状態でなければ手出しできないからだ。
続く
サードは何者だろうか?
それに、もし青年幽霊が孟起の言うシリュウだとしたら、生真面目で誠実な隊員で妹を大切にしていた彼が魔物の現れるような危険なところに十四、五歳の少女を連れて行動するとはとても考えられない。父上も彼の保護者ぶりは呆れ笑いを浮かべながら語っていた。
彼らの親しげな様子からして赤の他人同士だったが、学校で偶然出会い、その場で意気投合して仲間になったとも思えない。もしそうなら、情報交換を円滑に進めるためにも、こちらとも協定を結ぶはずだ。それにサードは青年幽霊を兄と言っていた。やはり、縁の者・・・・・・なら絶対に来させないはずだ。
タイラは悩んでいた。青年幽霊は本当に支援輸送隊第三隊員シリュウなのかと。
「はぁ~」
本日何度目かわからないため息を吐く。そして教室で唯一空いている席に目を向けた。
今朝方、まだ夜の明けぬうちに孟起はタイラの部屋にやってきた。もちろん無断で。
しばらく別行動をとると言ってサッサと出て行ってしまった。もちろん、他の仲間に託ける事をせずに。まぁ、彼が一人でどこかに行くのはいつものことであるし、理由もわかるのでタイラは快く承知した。
孟起は自由奔放で単独行動を好むところもあるが、実は仲間思いだし、やることには筋が通っていると最近ではタイラもわかってきた。だが、それゆえに団体行動には向いていない。さらに堅物の者によく思われない彼の外見のためもある。不良グループの中に紛れたら見分けがつかなくは強烈な自己があるのでならないだろうが、完全に仲間に見えるだろう。昔、ヘッドをやっていたと冗談交じりに言っていたが、本当ではとタイラは今でも思っている。実力実績はあるが、なかなか雲長と打ち解けていないのもそのせいかもしれない。年が離れているのも彼が孤立した原因の一つだろう。
父親であり常に行動を共にしてきた雲長が当たり前のように玄劉のパートナーになるので毎回必然的にタイラが孟起と組むことになる。
本当はいい奴だとタイラもわかってはいるのだが、まだ彼の性格についていけないため、早く新しい団員がほしいと思っているのも事実である。
そんなことを考えつつ、漂う大量の気を整理しながら調査している最中だった。
「タイラ、昼休みになったぞ。飯食いに行こうぜ」
昨日早速友達になった男子三人に声をかけられて現実に引き戻された。向かって右から佐藤君、田中君、山下君。気を追うのに夢中で授業が終わり昼休みになっていたのがわからなかった。気分転換もかねてタイラは彼らと共に昼ご飯をとることにした。天気がいいので、屋上で弁当を食べることに決まり、弁当を持って教室を出る。屋上に続く階段を上りかけた時、ドアの向こうで数人の女子の声が聞こえてきた。
「げっ、黒バラ四人組がいやがるのか」
「誰でござるか?」
「教室にやたらと派手な奴らがいたろ。会社の令嬢とか金持ちの家の娘だってこと鼻にかけてるいけ好かない集団でさ」
「朽木 沙耶、楼上 菫子、馬場 美佳、蘭園 聡子。頭文字をあわせて黒バラ四人組だとさ。美人ではあるが性格がキツすぎる」
「親がこの学校に多額の寄付をしてるとかで先生も手を出せない。そのことをいいことにやりたい放題」
「例えば?」
「授業中先生を無視して平気に私語してるのはすでに知ってるだろう」
佐藤の言葉にタイラは首を縦に振った。今日もそうだったかはわからないが、昨日はどの授業中でも関係なく大声で話していた女子がいた。遠慮という言葉を知らないのかと初日にタイラが思った女子達。先生も注意することすら諦めていた彼女達のことだろう。
「それだけならまだ甘い方さ。他にも授業中に携帯に化粧。挙句の果てには出前を頼んでその場で食べる。それなのに学校に来ない日は全然ないんだぜ。もう、呆れるしかないって感じだ」
そこまで堂々とやられたら誰も叱る気すら起きないだろう。
「だな。途中退出した日は教室にいた全員が安堵のため息を漏らしたものさ。ようやくまともな授業が受けられるってね」
あの時は嫌いな授業が嬉しく感じたと言って田中は笑った。
「今少し大人しいのはあるゲームを楽しんでるからだって噂だ」
「ゲームってどんな?」
「いじめだって噂だぜ。クラスに三つ編みで眼鏡をかけて大人しい子がいただろ」
そんな女の子いただろうか。クラスメートの顔を思い出してみるが、思い当たる人物は脳裏に浮かばなかった。同じクラスの馬場 美佳と蘭園 聡子比べたら他の女子はどれも大人しく感じる。
「井上 久美子って言うんだ。いっつも本を読んでて、話しかけてもほとんど答えてくれない、妙に存在感の薄い奴」
「でも、いい娘なんだよな。わからない問題とか聞くととても丁寧に教えてくれるし、こっちがわかるまで嫌な顔をせず根気よく付き合ってくれるからさ、影では男女学年問わず人気がある。しかも、下手な先生に訊くよりわかりやすいときたもんだ。教室にいなかったら探しようがないけどさ」
「そういえば眼鏡をとると美人だという噂もあったぞ。だから黒バラの標的になったんじゃないかって。虐めが本当にあってるかは知らないが、実際、最近よく一緒にいるのを目撃した生徒は多いぜ。先生も心配していたしな」
「もしかして柔らかな髪の娘でござるか?」
「いや、ふわふわって印象はないな。寝癖ついてるの見たことがないし」
彼女であろうとなかろうとその人物を何とかして助けたいと思ったタイラだったが、田中たちを巻き込むわけにはいかなかった。三人は触らぬ神にたたりなしの精神が身に染みているらしい。噂の域を出ないので間違っていた場合の痛手が彼らに降りかかる事がない状態でなければ手出しできないからだ。
続く
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