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10ー12、カメ、風になる
エターナニル魔法学園特殊クラス
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「・・・そろそろ」
馬が歩く速度で歩いていた時だった。空を見ていたロンがリトアに声をかけた。
「レイカちゃん、馬上は慣れたかな?」
「は、はい」
「まだちょっと硬いけれど、ごめんね。飛ばすよ」
手綱を引き、大きく嘶くと、黒馬は勢いよく駆け出した。景色が線のようだ。隣を見るとロンとイスカが乗っている赤毛馬が並走している。これは普通自動車より速いかもしれない。白い線と青い線と緑の線だけの世界にレイカが目を回していると、突然馬が止まった。レイカは思いっきりリトアの背中に顔をぶつけた。ちょっと涙目になりながら、顔を出す。
「やいやい、ねーちゃんら・・・・・」
そう言った男達をリトアの馬は右曲して素通りし、ロンの馬は彼らを容赦なく蹴散らしていった。
「彼ら、どこかで・・・・・・」
「もしかして、見覚えあるのかな?」
「うーん、うーん、たぶん、うん・・・なんやけど・・・・・・」
頭の端っこから出かかっているのだが、出てこない。とてももどかしい。リトア先輩も一緒にいたはずなのだが、その時の記憶があるとは限らない。今までの言動からするとなさそうである。それはつまり、敵になりえる可能性があるということで。
「せや、金の招き猫がどうとか言ってはった人達どす」
鼠駆除の縁起物だ。カーレントの日本では養蚕が衰退してから商売繁盛の縁起物となった。こっちでは養蚕はまだ盛んなのであっても不思議ではない・・・・・・はずだが、何かがおかしい。
「金製の招き猫ってことかな?」
「そうどす。右手を上げているか左手を上げているかによって何を招くかが決まるんぇ」
金運が右手なので一般的に売られている招き猫はたいていこっちを上げている。左手は人を招くとされる。まれに両手を挙げているものもあるが、ただの落ちである。ここまで説明してレイカは思い出した。リトアとオコと一緒に盗賊村に忍び込んだ時に手に入れていたあれである。あの後、招き猫はどうなっただろうか?確か、スタートウは一切の過去干渉から影響を受けない時界である。オコなら何か知っているかもしれない。さっそくと携帯を取り出そうとして、レイカの動きが止まる。車ではないので風の影響が凄いのだ。しがみついていなければ、吹き飛ばされ、放り出されていただろう。携帯だって開いた途端に手からもぎ取られる。
「なぁ、リトア先輩。うちちょっと携帯使いたいんやけど?」
「何か用事?」
「ちょっと、友達との約束があったの忘れとって」
「それは大変だね。メールでいいかな?少し急ぎたいし、丁度いいかな」
リトアの周囲の気がより澄んでいく。
「防ぎ給え、ヘルメ」
次の瞬間、風が止んだ。景色は相変わらず線だが、風だけが遮断されている。ボールの様な透明な何かで馬ごと二人が包まれている。シールドの一種だとレイカは理解した。馬乗りの間では有名な魔法らしい。おかげでスムーズにメールを打ち、送信することができた。
「・・・先輩、こっちにも」
「防ぎ給え、与え給え、ヘルメ」
ロンが操る馬の周りにも同じ球状のシールドが現れる。
「・・・ありがと」
そう言うとロンが操る馬は地平線の遥か彼方に走り去った。それは、レーシングカーにも匹敵するスピードだった。チーターの瞬間速度を持続している、そんな速さだ。
「な、何故、あれ程のスピードが?」
「傷害を守る術だから、一種の結界・・・・・・ロン君、透過の術かけたのかな?」
術をかけながらリトアはふと首を傾げた。その仕草は可愛い。
「かけなかったらどうなるんどす?」
「暴走馬と同じかな。でも、乗り手の意思通り一直線に進むから暴走とは言わないかも」
物を弾く魔法を表面にかけておいたから物にぶつかっても乗者が怪我をすることはないそうだ。魔法を完成させてからリトアは馬の速度を上げていく。
「今どれくらいでてはりますの?」
「時速90kmは出てるかな。さっきまでは70kmくらいだったよ」
末恐ろしいとはこのことである。
「急ぐからもう少し加速するよ」
結界のおかげで乗者や馬に影響は出ない。透過の術の効果だろう。他の旅人や荷馬車にぶつかることなく、馬は駆けていく。通り抜ける、が正しい表現だろう。景色が線になっているのが救いである。
「このスピードでどれくらいかかるんどすか?」
「休憩入れながらだから・・・3日かな」
徒歩1か月が10分の1になった。休憩は馬もだが、術者も体力を馬に分け与える魔法も組み込められているので、ただ乗っているだけ以上に体力を使う。もっと早めたいなら直線化するよ、と言われてレイカは慌てて首を横に振った。透過の術を強化して山をすり抜けるのだろう。生き埋めのリスクを考えると躊躇うには十分だった。とりあえず、カズから騎士学校に戻ったとメールが届いた。お祝いの言葉と野宿ナウと打ったメールを送信した。二人の乗った馬がロン達の乗った馬に追い付いたのは日が沈みかけた頃だった。
続く
馬が歩く速度で歩いていた時だった。空を見ていたロンがリトアに声をかけた。
「レイカちゃん、馬上は慣れたかな?」
「は、はい」
「まだちょっと硬いけれど、ごめんね。飛ばすよ」
手綱を引き、大きく嘶くと、黒馬は勢いよく駆け出した。景色が線のようだ。隣を見るとロンとイスカが乗っている赤毛馬が並走している。これは普通自動車より速いかもしれない。白い線と青い線と緑の線だけの世界にレイカが目を回していると、突然馬が止まった。レイカは思いっきりリトアの背中に顔をぶつけた。ちょっと涙目になりながら、顔を出す。
「やいやい、ねーちゃんら・・・・・」
そう言った男達をリトアの馬は右曲して素通りし、ロンの馬は彼らを容赦なく蹴散らしていった。
「彼ら、どこかで・・・・・・」
「もしかして、見覚えあるのかな?」
「うーん、うーん、たぶん、うん・・・なんやけど・・・・・・」
頭の端っこから出かかっているのだが、出てこない。とてももどかしい。リトア先輩も一緒にいたはずなのだが、その時の記憶があるとは限らない。今までの言動からするとなさそうである。それはつまり、敵になりえる可能性があるということで。
「せや、金の招き猫がどうとか言ってはった人達どす」
鼠駆除の縁起物だ。カーレントの日本では養蚕が衰退してから商売繁盛の縁起物となった。こっちでは養蚕はまだ盛んなのであっても不思議ではない・・・・・・はずだが、何かがおかしい。
「金製の招き猫ってことかな?」
「そうどす。右手を上げているか左手を上げているかによって何を招くかが決まるんぇ」
金運が右手なので一般的に売られている招き猫はたいていこっちを上げている。左手は人を招くとされる。まれに両手を挙げているものもあるが、ただの落ちである。ここまで説明してレイカは思い出した。リトアとオコと一緒に盗賊村に忍び込んだ時に手に入れていたあれである。あの後、招き猫はどうなっただろうか?確か、スタートウは一切の過去干渉から影響を受けない時界である。オコなら何か知っているかもしれない。さっそくと携帯を取り出そうとして、レイカの動きが止まる。車ではないので風の影響が凄いのだ。しがみついていなければ、吹き飛ばされ、放り出されていただろう。携帯だって開いた途端に手からもぎ取られる。
「なぁ、リトア先輩。うちちょっと携帯使いたいんやけど?」
「何か用事?」
「ちょっと、友達との約束があったの忘れとって」
「それは大変だね。メールでいいかな?少し急ぎたいし、丁度いいかな」
リトアの周囲の気がより澄んでいく。
「防ぎ給え、ヘルメ」
次の瞬間、風が止んだ。景色は相変わらず線だが、風だけが遮断されている。ボールの様な透明な何かで馬ごと二人が包まれている。シールドの一種だとレイカは理解した。馬乗りの間では有名な魔法らしい。おかげでスムーズにメールを打ち、送信することができた。
「・・・先輩、こっちにも」
「防ぎ給え、与え給え、ヘルメ」
ロンが操る馬の周りにも同じ球状のシールドが現れる。
「・・・ありがと」
そう言うとロンが操る馬は地平線の遥か彼方に走り去った。それは、レーシングカーにも匹敵するスピードだった。チーターの瞬間速度を持続している、そんな速さだ。
「な、何故、あれ程のスピードが?」
「傷害を守る術だから、一種の結界・・・・・・ロン君、透過の術かけたのかな?」
術をかけながらリトアはふと首を傾げた。その仕草は可愛い。
「かけなかったらどうなるんどす?」
「暴走馬と同じかな。でも、乗り手の意思通り一直線に進むから暴走とは言わないかも」
物を弾く魔法を表面にかけておいたから物にぶつかっても乗者が怪我をすることはないそうだ。魔法を完成させてからリトアは馬の速度を上げていく。
「今どれくらいでてはりますの?」
「時速90kmは出てるかな。さっきまでは70kmくらいだったよ」
末恐ろしいとはこのことである。
「急ぐからもう少し加速するよ」
結界のおかげで乗者や馬に影響は出ない。透過の術の効果だろう。他の旅人や荷馬車にぶつかることなく、馬は駆けていく。通り抜ける、が正しい表現だろう。景色が線になっているのが救いである。
「このスピードでどれくらいかかるんどすか?」
「休憩入れながらだから・・・3日かな」
徒歩1か月が10分の1になった。休憩は馬もだが、術者も体力を馬に分け与える魔法も組み込められているので、ただ乗っているだけ以上に体力を使う。もっと早めたいなら直線化するよ、と言われてレイカは慌てて首を横に振った。透過の術を強化して山をすり抜けるのだろう。生き埋めのリスクを考えると躊躇うには十分だった。とりあえず、カズから騎士学校に戻ったとメールが届いた。お祝いの言葉と野宿ナウと打ったメールを送信した。二人の乗った馬がロン達の乗った馬に追い付いたのは日が沈みかけた頃だった。
続く
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