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9ー16、カメ、潜入する

エターナニル魔法学園特殊クラス

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 1時間が経過した。指定された星が真上になった時、3人はあの丘の上で再開した。酷く疲れているレイカを回復させるために、逆に凄く元気なジアルを落ち着かせるために、リトアは持ってきたスープを温め始める。バケットいっぱいのサンドイッチも一緒に購入したものだ。ちょっと待ってろ、と言ってジアルが森の中に入っていった。その様子をリトアは何も言わず眺めていたが、すぐにスープをかき混ぜる作業に戻った。
「リトア先輩、どうかしたんどすか?」
その表情に何かを読み取ったレイカが話しかける。
「うん、彼に申し訳ないなーって思って」
向けられたのはどこか悲しげな笑顔だった。ハイッと差し出されたスープを受け取る。野菜がたっぷり入ったミルクスープだ。何がと尋ねようとした時、地面が揺れ、森から一斉に鳥達が飛び立った。
「獲れたぞー」
「魔法で狩りするんじゃない!」
衝撃波は間違いなく町まで届いただろう。地震と誤認されていないか心配である。全然反省していない笑顔で悪いなと言うとジアルは野ウサギを差し出した。外傷はほとんどないのに絶命している。荷物の中から小型ナイフを取り出すと、リトアは器用に捌いていく。その間にレイカは平たい石を探した。河原まで下りていくと、対岸にサーカスのテントがあることに気が付いた。公演していたテントとはまた違う、しかしかなり大きなテントだ。遠目なので種類まではわからないが、魔法がかけられていることがわかる。適当な石を持って帰るとリトアとジアルが談笑していた。お互いの学生生活を話していた。レイカの持ってきた石を焚火にくべる。熱している間にレイカは先程見たテントについて二人に話した。話し終えた途端に2人から頭を撫でられた。リトアは優しく、ジアルは激しく。
「それだぜ。サーカスの魔道具管理テント」
あれだけ盛大な出し物だったのだ。道具も装置も盛大にある。秘密漏洩防止の意味もあるのだろう。公演後、本テントから重要機材や道具は移動されていた。開演中にも使用後の機材を移動させていたらしく、閉演後しばらくしてジアルが忍び込んだ時には主要機材は移動された後だった。もちろん、あの魔族を閉じ込めていた箱も。
「川辺から近寄った方が早そうか?」
「うーん、ちょっと距離あったように思うぇ」
「正面から迂回するよりは目立たないと思うよ」
「念のため訊くが、着泳はできるのか?」
服を着たまま泳ぐことである。リトアはできると答えた。レイカは条件付きでならと答えた。
「条件?」
「水の精霊に力借りるんどす。ただ、ほとんど攻撃できんくなってしまんよ」
水の攻撃魔法はともかく種類が少ない。代わりに支援魔法と回復魔法が豊富である。
「代わりに水中呼吸付与できるようになりますぇ」
「水中散歩か、それ採用するぜ」
「・・・装備を変えた方がいいかな」
「いや、そのままでいてくれ、中遠距離攻撃できるだろ」
「わかった」
先程情報交換したのだろう。リトアは何も言わず、管理空間から別の拳銃と銃弾を取り出していた。ジアルはその様子を見ながら肉を頬張っている。全部食べられてはたまらないとレイカも食事を再開する。結局食べ始めるのが早かったジアルが5割、続いたレイカが4割、準備をしていたリトアが1割を食べて食事は終わった。焚火を消して森に入る。レイカは二人の目を盗んで水精霊を取り込む。樹に上り、月が沈むのを待つ。
空が星だけになったのを確認して三人は川辺に立った。レイカが演唱している間にジアルとリトアは対岸の様子を観察する。リトアが亜空間から取り出した魔力視化双眼鏡でチェックする。松明が灯っているが、動いている者は少ない。3人だと判断した時、二人の身体を魔力が覆った。できるだけ音をたてないように三人は川の中に入る。
「支援魔法なんて久しぶりだな」
川底を歩きながらジアルは言う。彼が背負っている大剣は相当重いのか普通に歩いている。逆にリトアはまるで月の上を歩く人の様にふわりふわりと歩くと言うよりは跳ねるように移動している。レイカは完全に水中を泳いでいた。水の精霊の加護により水中を飛ぶように移動する。岸が近くなると見つかることを警戒して底近くに移動した。ジアルの持っていたハンドビデオを空中姿勢固定で水上へ投げる。数秒後落ちていたビデオの映像で崖の上の様子を窺う。双眼鏡で確認した見張りは崖の反対側を重点的に見張っているようだ。
「俺こっちやるからおまえこっちな」
「くれぐれも殺さないで」
「わかってるって」
「うちは?」
「スリープ使えるよね」
呼んで字の如く、対象を眠らせる魔法である。水か風属性の魔力で発動する魔法だ。演唱し終えたと目で伝えると2人は一気に水中から飛び出した。ジアルが二人に体当たりをし、リトアが残る一人を蹴り倒す。気が二人に向いた瞬間にレイカは魔法を解き放った。
「導け深遠の底へ・・・スリープ」
頭上から羊が降ってきて三人に命中する。完全に不意を突いたそれに抵抗する間も無く三人は深い眠りについた。木箱の上に座らせておく。
「さて、探すか」
「見張りするかな」
「うちも見張り・・・・・・」
「二人もいらねーだろ」
リトアと一緒に居ることは叶わず、ジアルに引っ張られてレイカもテントの中に入った。かなり大きなテントで、見たことのある道具と用途の知れない機械がギッチリと詰まっていた。間を縫う様に移動しながら2人はそれぞれ別々にあの箱を探し始めた。3分後、
「あった」
レイカが右奥、魔法陣の上に置かれた箱を発見した。紋様からして沈静の魔法だ。魔族はこっちで行動する際に魔力が必要だと授業で言っていた。箱自体からも魔力を感じる。封じの魔法がかけられている。そのためか箱には鍵がない。触らない方がいいだろう。解除は霊的なあれではないのでできない。
「ジアルはん、こっちどす」
綱渡りを楽しそうに堪能していたジアルが下りてくる。
「そっちには何かあらはったの?」
先程から小さな音と唸り声がしていたのでてっきり探し物をしていたのだと思ったのだが。
「肝っ玉の小さい虎がいたな」
臆病で生きていけるのだろうか。調教にはもってこいのような気もするが、怯え過ぎて反撃される可能性もある。まぁ、それを言ってはどの性格にもそれぞれ欠点がある。ただ、怯えて黙るのなら見張りには向いていないのではなかろうか。
「鳴かれると困るから殺しといた」
それにしては血の臭いがないようなとレイカは首を傾げる。
「しっかし参ったな」
「リトア先輩に解除してもらってもダメなんどすか?あ、術者にばれるとかやろか?」
「その心配はねーよ」
大抵の魔法はかけられた時点で術者の手から離れる。魔法の消滅を確認するためには先にそれ用の魔法を練り込んでおく必要がある、と持ち歩いている教科書を読んでレイカは理解した。魔法について簡単な解説がのっている程度だが、こういった魔法の性質基本編はバッチリ載っている。言い換えれば、1年で習う内容である。ちょっと勉強した一般人が知っているレベルとも取れる。
「ほな、何が参ったんどすか?」
「鍵がかかってないだろ」
「せやな」
錠前も鍵穴もない。
「このままえっちらおっちら運べばええんとちゃいます?」
「かなり重いぞ」
「どんくらどす?」
「人一人分くらい、ああ、鋼人よりは軽いだろうが」
平均体重が100越えの人達より重いなんて思われたくないだろう。でも、手足の長さからかなりの長身であることをレイカは思い出した。
「お前3人分って・・・5人分か?」
増えた。喜ぶべきか、悲しむべきか。女の子としては喜ぶべきなんだろうけれど、冒険者候補としては如何なのだろう。
「ほな、運ぶのは無理どすなぁ」
具体的な数値は伏せるが、こっちに来てから筋力は増えた・・・・と思いたいので結構重くなったとはずである。イスカに軽々と抱え上げられて走られたことまだちょっとショックだが、だが、あの頃に比べれば多少は。
「はぁ?楽勝だろ」
片手で軽々と担ぎ上げたジアルが行こうぜと笑う。ガクリと地に伏せたレイカをジアルは不思議そうに見ていたが、何かを察知したのか、レイカを抱えて出口に向かって行った。出入り口では静かな戦闘が繰り広げられていた。交代要員が来てリトアが鉢合わせた。弓使いvs銃使いの対決。どうなるかと思ってジアル共々物陰から見守っていてわかった。かなり、一方的である。変幻自在の弓矢をリトアは持ち前の反射神経と機動力で避ける。避けながら矢を回収していくのはさすがとしか言えない。
「何か、避け慣れてへん?」
「育った環境から見ればできて当たり前なんだよな」
言っておくが、こっちの弓、カーレントのとは比較にならない程規格外である。先に刃が付いているのはもちろんのこと、魔法付与しやすさもあって、矢先から炎が出るはもちろんのこと、軌跡に光魔法効果が付くなどの強化。軌道が真っ直ぐではない。熟練者になれば追尾機能を付けることも可能らしい。威力も銃以上にある。頭を押さえつけられた。その上を鋭い何かが通っていき、テント内にあった箱を粉砕した。前言撤回、エターナニルの弓矢は銃以上に危険な武器である。
「先輩、どんな人生を送ってきたんどすか?」
「思い出した本人に聞けよ。あ、これ頼む」
箱をレイカの横に置くと申し訳ない程度にボロ布をかけると背中の大剣を手に、リトアを一方的に攻撃していた射手に向かって突っ込んでいった。射手がジアルの接近に気付いたのはその大振りの剣が振り被った後だった。鈍い音と共に射手は動かなくなった。
「よし、一丁あがり」
「こ、殺したんどすか?」
「彼の剣、刃がないからやり過ぎない限り死なないと思うよ」
「おう、よく分かったな」
「見ればわかるよ」
バッチリ見える赤黒い刀身には鈍い光が宿っていた。たしかに斬殺は無理そうだが、撲殺はできそうだ。見れば見るほど引き込まれそうな不気味な武器である。何やら薄い膜のようなもので覆われているのもその不気味さを倍増させている。


                               続く
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