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9ー13、カメ、当たる

エターナニル魔法学園特殊クラス

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 リトアが指定した日はそれから3日後だった。授業は通常クラスだけあり、特別クラスの方はなかった。上級生のクラス分けが終わるまで一時休講だと掲示板に貼ってあった。イスカもこれをわかっていて依頼を入れたのだろう。
「いい天気どすなぁ」
「絶好の行楽日和だね」
黒のカッターシャツと黒のジーンズに身を包んだリトアが微笑む。いつもと違い、体にフィットした黒い服を着ているからか肌の白さとか体の薄さとか四肢の長さとかが際立つ。いわゆるモデルでないと似合わない服だ。いつもと毛色の違う服装にどうしたのかと言うと、出かけることを話したらクラスメイトが我先に選んでくれたと苦笑で返してきた。おそらく、デートと間違われている。相手がレイカだとわかった時点で違うとわかるだろう。制服のある学校ではできなかった勘違いである。レイカだって楽しみにしていたのは変わらない。前日より選びに選んだ気合を入れた服、前の時でイスカと選び合いっこした服を着ている。袴じゃなくてスカートなのは久しぶりだった。
「・・・視線が痛いどすなぁ」
「そうだね」
積み上げられた皿の山を見ながらレイカの頬についたミートソースを拭いてあげた時だった。出そうになった悲鳴をリトアは何とか飲み込む。入ってきた酔っ払いに尻を撫でられたのだ。女と勘違いされないように胸元を開けているというのに、まるで効果がない。そう思いながらリトアはその手を軽く叩いて払う。うんざりしているのはこれが一人目ではないからだ。
「それにしても賑やかどすなぁ」
「謝肉祭だって」
羽目を外しても神から怒られない日だ。
「酔っ払いが多いのはそのせいどすな」
「気を付けてね」
リトア先輩も気を付けるべきであると空気が読めるレイカは思うだけに留めておいた。早く行こうとケーキを口に運ぶ。何故かゴリッとした。噛めない硬いものを仕方なしに皿に出すと、それは金色に光るコインだった。中央に林檎と見たことない模様である。
「金貨?」
「オモチャのようだね」
「おめでとうございますー!」
明るい声に顔を上げるとグイッと手を引かれる。威勢のいい声で呼び込みをしていたウエイトレスがいい笑顔でレイカの腕を握っていた。そのままカウンターまで引っ張っていかれる。
「幸運のコインが出ました!皆さん、この子に祝福の拍手を!!」
店中の人が一斉に拍手を送る。舞台に上がる高揚感に似た感覚がレイカを飲み込む。お酒を飲んでいないのにフワフワと綿飴を踏んでいるようだ。
「そして、このお店にできるお願い事が書かれているクジを引いてもらいます。あ、お酒はジュースになるから心配しないでね」
ホッとしながらレイカは箱の中に手を突っ込む。直感を信じて一枚の紙を取り出した。どれどれと開けたウエイトレスが一瞬固まった。そして、レイカがいた席を見てまた固まった。
「おめでとうございます。無料食べ放題が当たりました!」
「わぁ、嬉しいです」
20皿以上食べて全部タダはとても助かる。ここの料理は美味しすぎてついつい食べ過ぎてしまったのだ。総カロリーなど考えたくもない。
「一緒のお兄さんの分も只でいいですよって」
厨房から顔を覗かせたウエイトレスがマスターからの言葉を伝える。リトアはケーキと紅茶を一セット頼んだだけ。会計はレイカの十分の一にも満たない。
「あれ?先輩?」
さっきまでお茶を飲んでいたはずのリトアの姿はどこにもなかった。急に不安になったレイカが慌てて店の外に飛び出すと、誰かにぶつかった。
「ごめんなさい」
「悪ぃ、ってレイカじゃん」
「えっと・・・・・・」
記憶に間違いがなければ、彼は騎士学校の生徒で、あの時、一緒にいた・・・・・・。
「俺だって。覚えてねーはずないよな?」
真っ赤な力強い瞳が灰色の瞳を捕らえて放さない。
「・・・・ジアルはん?」
「やっぱ覚えてんじゃん」
「何で・・・?」
「俺らにもいろいろあるんだ」
そっちにもいろいろあんだろと言われ、レイカは黙って首を縦に振った。
「そこのボウヤにオジョウチャン」
しわがれた声が二人を呼ぶ。振り向いてみると紺色のローブを被った老婆が手招きしていた。膝の上には水晶玉がのっている。
「占い師が俺らに何か用か?」
「数奇な運命を背負ってるね」
「当たり前だろ」
老婆の言葉にジアルは自信満々に言った。
「俺の人生だ。真似なんかされてたまるかってんだ」
その言葉と態度にレイカは感銘を受けた。自分は彼の様に胸が張れるような人生を送ってきただろうか?
「どうせ、吉凶も自分次第なんだろ。だったら好きにやらせてもらうさ」
「おやおや、頼もしいねぇ。勇者だったらどんなによかったことか」
「無料奉仕なんて御免だぜ」
「うちもそんなことできへんなぁ」
「それが普通さね。さて、捜し人ならそこだよ」
皺くちゃな指が示した先は異様に盛り上がる人だかりだった。その中央の舞台の上では見たことがある黒服のパーンが布を翻して踊っている。まるで宙に浮いているかのような無重力の足取りで舞う。こっちに気が付いたヤギの仮面をかぶった踊り子が飛んでくる。音もなく着地するとレイカの手を引っ張ってそのまま風を切るように走り出した。敏捷UPの魔法をかけてくれたのでレイカもそのスピードについていけた。人混みを駆け抜けて町外れまで駆け抜ける。幾重にも伸ばされた腕達もさすがに町の外までは追ってこなかった。
「リトア先輩、どうしたんどすか?」
「これ?困っていたら占い師の老人にもらったかな」
そう言えば、町の人達の大半は仮面をつけている。走っている時、露店に仮面屋もあってそこで購入しているのも見えた。だから、余計に不気味に見えて・・・・・・
「せやのーて」
「あ、仮面つけたら連れて行かれて、何故か踊ることになったんだ」
ほとんど強制参加だったらしい。断る隙を与えずに舞台の上に放り出されたそうだ。即席だったそうだが、リトアのダンスは見るもの全てを引きつける力があった。そう言えば、学祭の時も一人抜きん出て上手だったとレイカは記憶している。ダンスも舞踊もできるって凄いとレイカは感心した。
「だから!誰でも構わずホイホイついて行くなッ!!」
「「ごめんなさい」」
ジアルの迫力に負けて謝った後、リトアは首を傾げた。
「レイカの友達、でいいのかな?」
「それは違うぞ!いいな!絶対違うんだからな!!」
大声でそう叫ぶとレイカを引っ掴んで聞こえないくらいに距離をとった。
「ひょっとしてあいつ記憶ないのかよ」
「ひょっとしなくても。ジアルはんは記憶持ってはります?」
「ああ、あるぜ」
アッサリと認めたことにレイカはちょっと驚いた。

                           続く
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