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9ー3、カメ、早速依頼を受ける

エターナニル魔法学園特殊クラス

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 流れの道を抜けるとそこは視界の悪い森の中だった。うっそうと茂っている訳ではないのに視界情報が少ないのはうっすらと出ている霧のせいだろう。小さな光の粒が混じっている。魔法粒子であることがレイカにはわかった。おそらく認識操作系の魔法だろう。さっそく携帯で位置を確認する。矢印は霧白の森南西部の森の中を指していた。大マップから縮小できない。
それにしても何故ここなのだろうか?ユーキの転送魔法は扉を介して時界を繋げるため、双方にドアが存在していることが必要条件となっている。街中でもある程度ごまかしがきくが、このように人気のない所に繋げることができない欠点もある。振り向くと森に溶け込みそうな家が建っていた。ファンタジー要素を含んだそれはレイカにエターナニルに着いたことを知らせていた。ダラダラと冷や汗が止まらない。振り向いた途端、見慣れない端麗な刺繍が視界に飛び込む。唐草色のローブをまとった金髪碧眼の美丈夫のものだと理解したのはそれから何秒後のことだった。
「叫ぶではないぞ」
開きそうになった口を手で慌てて抑える。
「よくぞ来た小さき者よ」
子供と言われるよりマシかなとレイカは思った。それにこの男性、他の男性に比べてそんなに怖くない。圧し掛かってくるプレッシャーは半端がないが。
「ふむ、レイカの方か」
「従姉の知り合いどすか?」
「手書きの年賀状を出し合う程度には知り合っておる」
ユーキは友好度によって態度を変える。基本丁寧な対応なのでわかりにくいが、見る人が見れば一発である。わざわざ手書きをそれも時界の違う相手に出すのだからかなり仲が良い間柄なのだろう。レイカは少し安心した。
「紹介が遅れたな。クンツァイトという」
金髪碧眼に尖った耳を持つかなりの美丈夫である。彼が霧白森に住む森エルフなのはわかった。こんな辺鄙なところに住んでいるかはわからないが、彼なりの事情があるのだろう。
「初めまして、レイカどす。魔法学園で一年生やってます」
入学手続きは済んでいるので問題はないはず。
「ふむ、さっそく要件に入ろう」
渡されたのは一枚の写真だった。まだ白黒の時代に撮られたものだが、保存状態がいい。前髪で目が見えないが、愛らしい整った顔をしている人物が写っている。
「髪色はプラチナブロンド。瞳は緑と青のグラデーション」
「綺麗な人どすなぁ。奥さんどすか?」
「ふむ、連れ子である。大切な家族なのに変わりない。見覚えはないか?」
子供が行方不明らしい。子供と称するには成長していると思う。中学生くらいの見た目だ。
「う~ん。何年くらい前の写真どすか?」
「500年、それくらい前だ。そなたの時間感覚だと50年ほど前になる」
戦時中に行方不明・・・・・・エルフでなかったら亡くなっていないだろうか?もう一度写真を凝視する・・・・・・成人していること以外の情報が得られない。せめてもう一人写っていたら背丈や肩幅などを比較できたのだが。
「ほな、成人はしてはります?」
たしかエルフの成人年齢は1000年だ。
「とった当時はまだだが、そうだな・・・しているはずだ」
「ちなみにこの人の母の写真はあらはりますか?」
「映像ならある」
この辺は魔法と科学の違いだろう。見せてもらった映像は目の前の美丈夫に負けない程の女性だった。長いふわふわの金髪をツインテールにしたパッチリとした緑眼の美、少女である。年齢が若く、吊り合っていないようだが、エルフでは珍しくないのだろう。
「耳尖ってあらへんなぁ」
「ああ、エルフではないからな」
排他的な種族が異種族と結婚しているとは驚きである。彼がこんな外れに住んでいるのもそのためなのかもしれない。村八分にでもされたのだろうか。
「ちなみにご結婚は何時頃に」
「2500歳の頃になるから2000年前か」
耳に他の種族の特徴が見当たらないことからこの映像の女性は人間だろう。とっくに亡くなっている。
「失礼承知で伺いますが、ハーフエルフって何年くらい生きれるんどすか?」
「前例はあまりないが、そうだな。エルフの特徴を引き継いでほとんど不老不死らしい」
写真の人物はまだ生きている可能性が高い。
「行方不明になったのは何時何どすか?」
「連絡がこなくなったのは2年ほど前である」
何故今更という言葉をレイカは必死に飲み込んだ。
「それまではどこで何をしてはったかわかります?」
「セヴァーニブルで相談役をしておると言っておったな。10年ほど前の話であるが」
セヴァーニブルとは魔族が暮らしている時界である。100年前までエターナニルと戦争していた。時界を超えた交流はないとこちらの社会の授業で言っていた気がする。どうやって連絡していたのだろうか。時流壁を移動する鳩とかいるのだろうか。
「名前は何て言うんどすか?」
「これか。プレッシャストパーズだ」
「・・・・うち今から学園島に入るんやけど」
入学すれば卒業するまで外に出る必要はないとまで言われる場所なのだ。
「なに、問題はない」
美丈夫は優しい笑顔を浮かべてこう言った。
「そなたは1年内に出会うと出た。注意していればいいだけだ」
常に探し続けろということですね、わかります。
「代わりに学業にある程度専念できるよう学費は我が持とう」
その言葉はレイカの心にしっかり刺さった。
「当然成功報酬は別につける」
更にザクッときた。
「かなりの額になるけど、ええんどすか?」
私立校なので授業料は高い。カーレントの私立大学より高い。
「心配することはない。些細ではないが、痛くない出費だ」
着ているローブは豪華だし、首に下げているペンダントもかなりの値打ちもののようだ。お金に困っているようには見えない。身なりだけを見れば、こんな家に住んでいるのが不思議なほどだ。没落貴族にも見えない。
「レイカ、依頼お受けします」
「朗報を期待しておる。写真は持っていくがいい」
「ええんどすか?大切なもんなんに」
「焼き回ししてある」
コピーという言葉がレイカの頭をよぎった。
「さて」
クンツァイトが手を叩くと森の奥から馬車が現れた。まるでおとぎ話の世界に来たようだなぁなどとレイカが呆けている間に話が進み、固まっている間に馬車に乗せられる。
「近港まで頼んである。港からは入学届を見せれば案内してくれるだろう」
御者がレイカの荷物を後ろに積んでいる。横の荷台には食料がかなり積まれている。
「長い旅になるだろうが、楽しむがいい。わからないことを御者に訊けば暇つぶしにはなるだろう」
「何日くらいかかるんどすか?」
「知っての通り霧白森は内陸地にある」
町に着いたら地図を買おうと思うレイカだった。
「3週間。到着は1カ月後となるか」
今日が入学式前日である。手続きは終わっているが、遅刻は確定だ。クラス分けにも間に合わない。
「学園側へは事情を説明しておく。そうだな、ついでに学園ギルドの依頼ということにしてもらうか。長旅を楽しむといい」
「ありがとうございます」
馬車の窓から乗り出して手を振る。その様子を御者は微笑ましそうに眺めながら手綱を操作していた。


                               続く
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