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8-3、カメ、擬音る

エターナニル魔法学園特殊クラス

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「ちょっ、ちょっと、リトア先輩もレイカちゃんも倒れちゃったじゃない」
「・・・そう」
「そうじゃなくて、どうなってるの?」
ロンに説明を求めたのが間違いだったとイスカは溜息を吐いた。ロンは近い人じゃないとわからないが、彼は凄く面倒臭がりだ。説明するくらいなら沈黙を貫く、そんな人だ。職業柄の関係もあるかもしれない。
「りとあハ侵入前ニ注入サレタ眠リ薬ニ当タッタンダロウ。れいかノハ単ニ同調ノシ過ギダロウ」
「同調のし過ぎ?」
「霊能力者ニ稀ニヨクアルコトダ」
イスカはレイカを抱き上げる。そのままベッドに運ぼうとしたが、生憎この家にはそんなものどこにもない。役得とそのままイスカは抱きかかえていた。
「どのくらいで目が覚める?」
「れいかハ軽イ貧血ト考エテイイダロウ。りとあハ薬ノ分量ニヨルナ」
「結果は?」
「ソイツラガ起キルノヲ待ツシカアルマイ」
「まぁ、あたしら霊力ないですし」
調査結果、目撃証言はなし。
「それは困らはったなぁ」
「レイカ、もう大丈夫?」
「うん、平気」
「ちゃんと鉄分とんなきゃ。レバー食べなさいレバー」
「えっと?」
レイカには話が見えなかった。
「デ、結果ハ?」
「なんて言えばええんやろ?こうドヤドヤと入ってきてゴタゴタしてザカザカと出ていきはりました」
「ごめんレイカちゃん。擬音語ばっかでわかんない」
「大人数で押し寄せて金目の物を根こそぎ持って行った、でいいかな」
ロイズに支えられたリトアが通訳する。まだ薬の後遺が残っているのか少しフラフラしている。
「人ノ仕業ナラ足跡ガ追エルナ」
『『本当ですか!』』
「地獄ノ番犬ナラナ」
幽霊達の思いは脆くも儚く打ち砕かれたのだった。
「大丈夫どす。召喚士に頼めば」
「ソノ召喚士ハドウスンダ?」
「誰か知り合いにおらへんの?」
「イナイナ」
「いないわ」
「いないことはないけれど」
リトアの言葉に全員の注目がいる。
「れべるハ?」
「それは問題ないと思うけど」
「ケドナンダ?」
「友達の知り合いだから。連絡取れるかな?」
「とりあえずとってみてくれ」
ロイズも半分諦めたようだ。確かに友達の知り合いなら連絡が取れるかどうかわからないだろう。
「あたし達「うちらにできることは?」」
「待機シトケ」
「「はーい」」
2人ではつまらないのでスピードをすることになった。イスカが断然有利だった。レイカが19敗した頃、夕日が西の窓から入ってきた頃に彼女は来た。
「こんにちは、三つ葉に依頼ありがとうございます。リトアちゃん久しぶりです」
桃色のツインテールが風に揺れる。飾り気のない菫色のワンピースもレイカには見覚えがあった。
「ミルクはん!?」
「レイカちゃん。こんにちは。ありゃもうこんばんは、ですね」
彼女はスターティアンの一員、ミルク。霊媒師ではなく、本物の死神である。例に漏れずちょっと変わっているが。
「すたーとうノ死神カ。へるはうんどデモ呼ベルカ?コイツラノ臭イヲ追ッテホシイ」
ロイズが指した幽霊を見てミルクは瞳を輝かした。
「あらあら、この人はもしかして」
鞄から取り出した一枚の紙には霊魂が映っていた。
「指名手配書?」
「行方不明者ですね。この人達は賞金が掛かってるのです」
数字を見るにそれもかなり高額である。他にも似たような行方不明者がいるらしい。
「上手くいけばその人達にも会えはるかもしれへんよ」
「そうだね。被害者がこの人だけとも限らないでしょうし」
「上手くいけば一網打尽よね」
「分ケ前ハ期待シナイ方ガイイゾ」
珍しくロイズが報酬に興味を持たなかった。
「何故よ?」
「時界ガ違ウ」
「それが何よ?」
「せや、通貨が違うんよ」
同時界内でもかなりの種類があるのだから、別時界ともなると丸っと違う。別時界の通貨だと両替機能もないだろう。別の意味で価値が出るか、完全にガラクタ扱いされるか。
「さてと、さっそく始めましょう」
床の上に水で魔法陣を描き終える。そこに一握りの塩を投げつけた。
「オオ、凄イナ」
現れたのは体長3mある大型魔獣だった。獰猛そうな犬頭が三つあるその風貌はまさしくケロベロスだ。
「何もなくってよかったわね」
出た途端頭や尻尾をぶつけたりしたら迫力は半減する。頭は天井に思いっきりぶつけた様だが。
「外で出せばよかったなぁ」
臭いを追えと命令されてから狭いドアから外に出ようと必死になっている姿はちょっと、いや、かなり格好悪い。
「ケロベロスって冥界の番人だよね。物質体ってあるの?」
「ないですよ。現世、えっとこの世に召喚するってことはこちらで行動できる器を与えるってことなのです」
なら、解決策は簡単だ。別の器を与えてあげればいい。で、四人が持ってきたもので選ばれたのが、ハスキー犬のヌイグルミだった。近場の土産物屋で入手した。
「ずいぶんコンパクトになったわね」
「抱き抱えサイズどす」
ケロベロスという名前が大袈裟すぎるくらい可愛い見た目である。
「なんかこうケロちゃんって感じがするわね」
「イスカはん、別のものになってはるえ」
イスカは緑色のあれを想像し、レイカはオレンジ色のあれを想像した。
「頭一つになったのは残念です」
ミルクの胸に抱きかかえられてケロベロスはしきりに鼻を動かしている。大通りを真っ直ぐ歩いてそのまま大門に出た。もうすぐ日暮れだからか往来が激しくなっている。
「ここから外に出たようです」
これから先は臭いが混在してわからないらしい。
「ズイブン堂々トシタ誘拐泥棒ダナ」
何らかの業者、例えば引っ越し業者を装ったのだろう。
「・・・該当団体有り」
ロンがこっそり持ち出した出入帳を物陰で物色する。一か月以内のことなのにキチンとした人が記入者なのだろう。しっかりキッチリ記入されている。
「また入ってはるなぁ」
「ソウダナ。品定メヲシテイルノナラ好都合ダ」
ポンっとリトアの肩を叩く。
「また、なのかな?」
「また?」
ロイズが何か小瓶を渡していた。それを見てリトアはもう諦めた。
「今回ハソノママデイイ。香水ヲツケテ街ヲ歩イテクレ。ソウダナ、一時間シッカリダ」
「行動範囲はどうしますか?」
「マズ環状線ニ乗ッテクレ。ソコデぴんトキタ所デ下車。ソレヲ繰リ返セ」
「皆さんも気を付けて」
そう言うとリトアは改札口の向こう側に消えていった。
「で、あたし達もあれやるわけ?」
「無理トイウカ無駄ダナ」
「なんでどす?」
「魂ノ価値ガ違ウ。アイツノハ極上ダ」
「どこが違うってのよ」
「黄金律ナンダヨ、りとあハ。簡単ニ言ウナラ魔族ヤ幽霊ノ大好物ダナ。アト犯罪者、特ニ殺人鬼ヲ呼ビ寄セル。アノ香水ハソノ誘惑ヲ高メルタメノモノダ」
その日、環状線にて37件の痴漢が逮捕された。過去最高との記録だった。
そして、リトアは心底疲れ切って終電で返ってきた。部屋に入った途端、まるで倒れるかのように眠ってしまった。1人待っていたロイズはリトアを支えるとベッドまで運び終えると、自分もそのまま眠った。全員が乗ってもまだ余りのあるベッドだった。

                              続く
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