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1、始まりの逃避とウサギの国での活劇

カメ、暑苦しい

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 暑苦しい。
意識がボンヤリしてきた時、レイカはそう思った。何時からここにいるのだろうか?どうしてここにいるのだろうか?あれからどうなったのだろうか?ロンは病院に行って治療を受けられたのだろうか?イスカ達がいるから大丈夫だと思うのだが・・・・・・。蜃気楼のかかった頭を答えの出ない問いばかりが浮かんでは消えていく。
ゆっくりと体を動かそうとしたが、ほとんど力が入らない。喉が乾燥していて声が出せない。
イスカの故郷は火山に囲まれているため、暑いことは知っているし、実際に体験している。だが、ここの暑さはその比ではない。プラス10℃ほど高いかもしれない。でも、この暑さは異様だ。まるで、噴火口のそばにいるみたい。
『もう少しでいいから涼しくならへんかなぁ』
乾いた唇から零れ落ちた言葉は誰かに届いたのだろうか。喉の熱さが引いていく。春ほどの暖かさになった時、ぼんやりとした視界の中に人が2人こっちを見ていることに気がついた。
誰だろう。烈火と業火。同じ赤なのに気の感じが違う。それでも根本は同じ火の属性。ルビーのような瞳が4つ。
『おい、こいつか。俺を五月蝿く呼んでる奴は』
低い怒気を含んだ声が上から降ってくる。
呼ぶとは?誰を?あなたを?うちが?名前も知らへんのに?理由もなく?
まだ意識のハッキリしていない頭で考える。でも、聞いたことのある声かも、ともレイカの脳は同時に反する答えを導き出す。体が浮遊しているようで不安定なのが気になった。
『いや、こいつじゃない。呼んでるのは別の奴だ。こいつは媒介にされてるだけだからな』
どうやら身体の気の流れが周囲の気の流れに同調していないために動きが制限されているらしい。ゆっくりと馴染ませていくと全身を縛る気から糸が一つずつ解けていくかのように解放されていく。
身を起こそうとすると上から眺めていた1人が手を差し伸べてくれた。
『おおきに。ここはどこどすか?』
『なんだ、知らずに来たのか。無用心なんだか。無茶苦茶なのか。どっちにしてもよく来れたもんだ』
ツンツン髪の男が呆れながら言う。文句でも言おうかと思ったが、喉はまだ渇いているし、手を差し伸べてくれたのもあって何も言えない。元々言えるような人でもなさそうだ。どちらも顔が怖い。
いや、世間1般では男前に入るかもしれないが、少々感性が変わっているレイカにとっては十分怖い顔の分類に入ってしまうのだった。
『ここは城の地下にある封印の間の内部だ。正確に言えばその場所に作られた亜空間で、完全なる精神体でなければ入れない場所だ。魔族でも死なない限りこれないからな』
『うちなら幽体離脱すれば来れそうどすなぁ』
自分の言葉でレイカは今の状態を知った。何時の間にか物質体から精神体が離れてしまったようである。これがあの魔族、サザエガルドの仕業だとしたら、彼はここに来させるために自分を攫ったのだろうか?
いや、違うとレイカは首を振って考えを消した。それなら、ここでどうしてほしいのか予め伝えられているはずだ。
憑依魔法は入る側にも受け入れる側にも準備が必要な術だ。意識の確認はもちろんだが、それ以外にも受け入れる側は自分の属性を相手にできるだけ合わせたりなど何かと面倒で忙しい。特にレイカのような能力者は。
『でも、なんでうちがここにいはるん?』
『それよりもまず、俺らの正体を聞くべきじゃないのか』
大剣を背負った赤髪の男がぼやく。
『それなら心配あらしまへん。ちゃんと正体の見当がついとります』
『それなら丁度いい。その力借りるぞ』
レイカが返事をする間も無く大きな手によって瞳を覆われ、またしても彼女の意識は蜃気楼の彼方へ落ちていった。


                             続く
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