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1、始まりの逃避とウサギの国での活劇
カラス、無免許なのを明かす
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自然景観を台無しにしてしまったのもだが、ロンの姿がどこにも見えないことにレイカは慌てた。威力があり過ぎて巻き込んでしまったのだろうか?
でも、自分を敵の姿が見えないところまで逃がしてくれたのはロンである。最悪の考えが脳裏を掠めたのを否定して頭を振ってロンの姿を探す。
砂煙が消えていくにしたがって次第に周囲の様子が確認できるようになった。最初に目に付いたのは茶色い岩の表面に付着した血痕だった。
いや、痕というよりもはや水溜りだ。
「・・・無事?」
声は横から聞こえた。
「ロンはんこそ、大丈夫ど・・・・・・」
残りの言葉が口から出てこない。反属性の魔法の余波を防ぎきれず、先程の動きで止血した傷が開いている。岩に凭れかかって何とか座っていられる状態で、全身の活力が非常に希薄だ。白い肌から血の気がさらに引いていて、嫌な汗もかいている。荒い呼吸を繰り返す口元には吐血したであろう血がサラサラと下に流れ、雫となって同色の水たまりに落ちる。
明らかに怪我が悪化している。そもそも、あの1撃を受けた時点で動けるような怪我じゃなかった。絶対安静の重傷だったのだ。誰が見ても掠り傷程度のレイカの心配より自分の体を心配すべきである。
「早う医者呼ばな」
「・・・無免許でよければ、ここにいる」
驚愕している傍らで納得している自分がいる。
授業で怪我をしても保健室に行かずにその場でロンに何度も治してもらうのがレイカ達特殊クラスの日常だった。実技で負った擦り傷や火傷はもちろんのこと、骨折した腕も上級魔法を使ってものの1分足らずでロンが治してくれた。魔法だから治療による痛みもないし、何故か彼の魔法は身体的疲労や体力減少を伴わない。それに何といっても何が入っているのか不明の口に入れて良い物とは思えない味の薬を飲まなくていい。先生方もその腕を認め、時折だが治療を頼んでいる。よって、特殊クラスのメンバーが保健室を利用するとしたら授業中風邪でダウンした時のみだった。
だが、今は状況が違う。いつも怪我を治してくれるロンが気を失ってもおかしくない重傷を負っている。レイカも魔力を使い果たして子供の体に戻っているし、現われていた火属性では器具の消毒はできたとしても傷を治すことはできない。回復魔法は水と木と光と時の属性のみ。闇は対象の力を吸収して回復する魔法があるが、回復できるのは術者のみなのでこの際関係ない。
そもそも、幼い体のままのレイカ自身は属性どころか魔力を全く持っていないので使おうにも使えない。
「こっちの世界にも医師免許があらはるの?」
「・・・それは知らない。今から行うのはカーレントの技法に近いから必要かと。実践経験は十分あるから心配は要らない」
どこで経験したのかとは聞けなかった。
ロンの指の間で風が針を形成する。糸は自分の服を解き、生み出した水で消毒する。その目は迷いが無く、そしてあまりにも手馴れていた。
「ロンはんもカーレント出身やったんやな」
「・・・出身ではない。住んでいたことがある」
だから、入学してしばらくは誰とも話せなかったとパックリ開いた胸元の傷を麻酔なしで縫いながらロンが呟くように話す。普段なら頼んでもはぐらかされるか答えてくれない話題をレイカは彼が凭れかかっている岩の反対側で聞いていた。自分が動揺しないために話してくれているのだとわかっている。
だから、本当はそばで聞きたいのだが、あまりの傷の酷さで視界に入れることができなかった。その代わりに下に来ていた服を1枚脱ぐと裂いて細長い布を作っていく。本当は痛み止めの薬でも作りたかったのだが、そんな医学の知識が魔法薬学も未習得なレイカにあるわけがなかった。
続く
でも、自分を敵の姿が見えないところまで逃がしてくれたのはロンである。最悪の考えが脳裏を掠めたのを否定して頭を振ってロンの姿を探す。
砂煙が消えていくにしたがって次第に周囲の様子が確認できるようになった。最初に目に付いたのは茶色い岩の表面に付着した血痕だった。
いや、痕というよりもはや水溜りだ。
「・・・無事?」
声は横から聞こえた。
「ロンはんこそ、大丈夫ど・・・・・・」
残りの言葉が口から出てこない。反属性の魔法の余波を防ぎきれず、先程の動きで止血した傷が開いている。岩に凭れかかって何とか座っていられる状態で、全身の活力が非常に希薄だ。白い肌から血の気がさらに引いていて、嫌な汗もかいている。荒い呼吸を繰り返す口元には吐血したであろう血がサラサラと下に流れ、雫となって同色の水たまりに落ちる。
明らかに怪我が悪化している。そもそも、あの1撃を受けた時点で動けるような怪我じゃなかった。絶対安静の重傷だったのだ。誰が見ても掠り傷程度のレイカの心配より自分の体を心配すべきである。
「早う医者呼ばな」
「・・・無免許でよければ、ここにいる」
驚愕している傍らで納得している自分がいる。
授業で怪我をしても保健室に行かずにその場でロンに何度も治してもらうのがレイカ達特殊クラスの日常だった。実技で負った擦り傷や火傷はもちろんのこと、骨折した腕も上級魔法を使ってものの1分足らずでロンが治してくれた。魔法だから治療による痛みもないし、何故か彼の魔法は身体的疲労や体力減少を伴わない。それに何といっても何が入っているのか不明の口に入れて良い物とは思えない味の薬を飲まなくていい。先生方もその腕を認め、時折だが治療を頼んでいる。よって、特殊クラスのメンバーが保健室を利用するとしたら授業中風邪でダウンした時のみだった。
だが、今は状況が違う。いつも怪我を治してくれるロンが気を失ってもおかしくない重傷を負っている。レイカも魔力を使い果たして子供の体に戻っているし、現われていた火属性では器具の消毒はできたとしても傷を治すことはできない。回復魔法は水と木と光と時の属性のみ。闇は対象の力を吸収して回復する魔法があるが、回復できるのは術者のみなのでこの際関係ない。
そもそも、幼い体のままのレイカ自身は属性どころか魔力を全く持っていないので使おうにも使えない。
「こっちの世界にも医師免許があらはるの?」
「・・・それは知らない。今から行うのはカーレントの技法に近いから必要かと。実践経験は十分あるから心配は要らない」
どこで経験したのかとは聞けなかった。
ロンの指の間で風が針を形成する。糸は自分の服を解き、生み出した水で消毒する。その目は迷いが無く、そしてあまりにも手馴れていた。
「ロンはんもカーレント出身やったんやな」
「・・・出身ではない。住んでいたことがある」
だから、入学してしばらくは誰とも話せなかったとパックリ開いた胸元の傷を麻酔なしで縫いながらロンが呟くように話す。普段なら頼んでもはぐらかされるか答えてくれない話題をレイカは彼が凭れかかっている岩の反対側で聞いていた。自分が動揺しないために話してくれているのだとわかっている。
だから、本当はそばで聞きたいのだが、あまりの傷の酷さで視界に入れることができなかった。その代わりに下に来ていた服を1枚脱ぐと裂いて細長い布を作っていく。本当は痛み止めの薬でも作りたかったのだが、そんな医学の知識が魔法薬学も未習得なレイカにあるわけがなかった。
続く
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