上 下
105 / 118
2、魔獣飼育と新しい命

カメの死んだ瞳

しおりを挟む
『あら、この森に研究生以外の訪問者なんて珍しいわね』
後ろから発している緑色の光が次第に人の形になっていく。現れたのは透けるような緑色の肌の女性だった。
「あなた、人?」
『いえ、人という言葉は残念ながら当てはまらないのです』
「彼女は精霊どす。属性は木。木の精霊のドライアドはん」
『ああ、よかった。わかる人がいたのですね。本当にキレイな瞳』
「うち精視眼持ってはるから」
それにわからなかったら魔法が使えなくなるとは続けなかった。精霊達にとって自分の力はある意味精霊使いより達が悪い存在だとレイカは考えている。
その割に気軽に使っているように見えるが、使用回数が増えるほど術の構成が完成していき、安定領域に留まりやすくなる。何事も練習が大切なのだ。
「で、ここって学園島のどの辺なの?逃げるのに必死で迷っちゃったのよね」
『ここは学園が管理している飼育施設の1つで一般生徒が入らないように亜空間化しているわ。普通なら森に入った途端に反対側まで移動するシステムのはずなのだけど、不具合出たのかしら?』
「「・・・・さあ?」」
特殊な能力を持っていることで有名なクラスの生徒のためだとは考えられなかった。特殊クラスの生徒はその力が一般的な能力とは異なったり大きさが桁違いだったりするので先生はもちろんのこと隔離領域管理者にも伝えてある。この妖精が学園関係者なら知らないはずがない重要情報だ。何故なら、性格を除いた原因を有する何かしらの問題児の集まりであるため、先生でさえ警戒する要注意能力者ばかりだからだ。
しかし、特殊クラス在籍だからといって、いや、だからこそ能力も十人十色である。イスカの能力は確かに強力だが、空間に作用するものではない。レイカの能力は取り込んだ精霊によって変化するので影響がないといえなくもないが、能力対象はあくまで精神体であり、自然現象そのものではない。
そもそも、空間の精霊は最も下級の者でも火や雷などの元素精霊の階級に当てはめると中級となる。下級精霊だと姿が変化することはないが、中級以上の精霊を憑依させた場合、彼女の外見は子供から大人になる。
どうしてそんな変化が起こるのかは今のところわかっていない。
『2人ともまだ1年生でしょう。ここは上級生や研究生でも危険なのよ。通常の飼育施設では大き過ぎて飼えなかったり、凶暴過ぎて置いておけない生物が野放しにされたりしているから。それに調教しているわけじゃないから私でも物理的に攻めないと行動を抑えられないわ。なのに、赤ちゃんを連れてなんて』
「うわ~、最悪。ちなみに、さっきの狼もモンスターなの?」
『えっと、この区域だから・・・・ヘルハウンドね』
地獄の猟犬と称される魔犬の1種だ。成長すれば仔牛ほどの大きさになる真っ黒な犬。出会ったのはまだ狼サイズだったから成長途中の若い個体なのだろう。だが、特徴である真赤な目を持っていた。
『口から火を吐くけど、その子が一緒なら大丈夫ね』
「任せなさーい。って言いたいんだけど、あたし炎制御って大の苦手なのよね」
2人の目が点になる。
『・・・ウサギ族は、荒くる炎の精霊を沈めるための力を持った種族だったはずよね』
「大丈夫。それは妹が完璧に継続してるから」
『ふぅ、それもそうね。もし、その力があったら、制御できるってことで攻撃魔法のクラスに割り振られているはずだもの』
「だったら、こっちでよかったわ。暴走してもレイカには被害ないし」
「うん、吸収してしまうからなぁ。でも、全部は無理、かも」
吸収能力に長けたレイカでも巨大な炎を飲み込むのは骨が折れる。
そもそも、彼女が取り込むのは精神体。憑依を基軸とした能力であり、それも丸ごとが最も好ましく、1番彼女にとって負担の少ない術の使い方、正しい力の使用方法だ。カーレントの日本にいるらしい術者、イタコの能力がレイカの力に最も酷似している。イタコによっては憑依者に姿を似せる者もいるらしいから近い存在といっても過言ではない。
魔力吸収による魔法使用の方が偶然付いたおまけのようなものである。
「うちとしてはどっちかというと、この人の方が飲み込みやすいんやけど・・・・・・」
「でも、この人の知識がないとこの森抜けられ・・・・・ひょっとして」
「ひょっとしはります」
「よし!やっちゃいなさい!」
「はいな。サクッとやっちゃいますぇ!」
懐から取り出した扇を形良く広げる。
『へ、あ、ちょっと、私ここの管理者なんだけどぉぉォォオオオオオオ―――――ッ』
悲鳴は2人に無視され、管理者の木の精霊は扇の紋の中へと消えていった。


                              続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

突然異世界に来ましたが、自分が好きな銃と共に好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 サバゲーが趣味な主人公は、新しい銃を買い、ウキウキの気分で、帰路に着いていたが、通り魔に刺され、死んでしまった。  次に目が覚めると、見知らない森の中に居た。近くに流れていた川で、自分の顔を見ると、若返っていることに驚いた。そして、頭の中に無機質な声でアナウンスが流れた。そのアナウンスは、この異世界について説明されたが、自由に生きろと言われたので、主人公は、好きに生きようと考えた。  

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

TS転移勇者、隣国で冒険者として生きていく~召喚されて早々、ニセ勇者と罵られ王国に処分されそうになった俺。実は最強のチートスキル持ちだった~

夏芽空
ファンタジー
しがないサラリーマンをしていたユウリは、勇者として異世界に召喚された。 そんなユウリに対し、召喚元の国王はこう言ったのだ――『ニセ勇者』と。 召喚された勇者は通常、大いなる力を持つとされている。 だが、ユウリが所持していたスキルは初級魔法である【ファイアボール】、そして、【勇者覚醒】という効果の分からないスキルのみだった。 多大な準備を費やして召喚した勇者が役立たずだったことに大きく憤慨した国王は、ユウリを殺処分しようとする。 それを知ったユウリは逃亡。 しかし、追手に見つかり殺されそうになってしまう。 そのとき、【勇者覚醒】の効果が発動した。 【勇者覚醒】の効果は、全てのステータスを極限レベルまで引き上げるという、とんでもないチートスキルだった。 チートスキルによって追手を処理したユウリは、他国へ潜伏。 その地で、冒険者として生きていくことを決めたのだった。 ※TS要素があります(主人公)

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...