その男、人の人生を狂わせるので注意が必要

いちごみるく

文字の大きさ
上 下
212 / 213
最終章

9-10

しおりを挟む
「隼くんもっ!!梨々さんが悲しむでしょ?!渚から聞いてるよ?大学時代、相当遊んでたって…」

「えっ!!渚さんが…??」

「同じ大学だったんでしょ?隼くん、就職してから落ち着けばいいねって話してたのに…全然落ち着いて無さそうね」

「………ごめんなさい…」

「海吏のこと、完全に取ったら駄目だからね?」


素直に謝る先輩に、麻友は優しく戦線する。

だけどその言い方は、本気で隼先輩を敵視しているのではなく、まるで俺と隼先輩の何とも言い難い関係を見守ってくれる雰囲気も含んでいた。


「もちろんだよ!……俺も、二人には幸せになって欲しいから。」


そう言って信じられないほど美しく微笑む隼先輩の目の奥には、どこか哀しい色が宿っていた。



恐らく、これからも俺は、隼先輩と関係を持つことは辞められないのだろう。

だけどそれは、俺と麻友、隼先輩と梨々先輩のような心の交わりとはまた違う、不思議な二人の気持ち。

そしてそんな曖昧で言葉にできない関係性を、麻友も梨々先輩も実質黙認している。


何故ならそれは、隼先輩の溢れ出る魔の魅力を止める術を誰も知らないから。


隼先輩がそれを存分に発動するのは恐らく俺だけじゃなくて、昔からの大親友である優先輩や恩師の佐伯先生に対してもだと思う。

隼先輩との深い交わりを持つ者は、皆普通の生活を送りながらも、隼先輩との秘密の関係を辞められないでいる。


そして……



(あの男……また隼先輩を見てるな。次に見かけたら、声かけてとっ捕まえてやるか。)


そんな隼先輩との関係を憧れ、叶わぬ気持ちを抱き続ける奴らは、今日も出現しては懸命に隼先輩を追う。



まるで自分の人生がどうなっても構わないとでも言わんばかりに、そういう奴らは隼先輩のことしか見られなくなる。


そしてその想いが真っ直ぐであればあるほど……形を歪ませて隼先輩へと向かっていく。

俺はそんな奴らの執念から、隼先輩を守るだけ。


あの日麻友と共に俺を暗いトンネルから引っ張り出してくれた人生の恩人に、一生の忠誠を誓い、実行するだけ。


一生をかけて近くにいられるのなら、そんなことは俺にとって造作もない。

人生を捧げてでも関わっていたいと思わせる隼先輩の不思議な魅力は、きっとその命が続く限り消えてなくなることはないのだろう。



「さっ!帰って麻友の作る夕飯食べるの楽しみだな~」

「そうよ!!だから早く署に戻ってタイムカード切ってきなさい!」

「麻友さん、今日のご飯はスタミナのつくメニューにしてあげてね。」

「隼先輩何言ってんすかw」

「そのままの意味だよー?疲れた海吏の体力を回復してくれるご飯が必要ってこと!」

「へぇー……あんたたち、そんなに体力削ったんだ??」

「もーーほらっ!隼先輩余計なこと言わないで下さいよっ!」

「だって海吏、今日まで連勤だったってさっき言ってたじゃん!疲れてると思うから回復してねって意味だったんだけど…余計なお世話だった?」

「へっ?あ、いや…ありがとう…ございます?」

「…まあいいわ。とりあえず海吏、今日は早く帰ってきてね?……美味しいご飯作って待ってるから!」


そう言って笑顔を向ける麻友に、俺は口元の緩みを隠せないまま頷く。


隼先輩は相変わらず、言葉の一つ一つが純粋にそのままの意味なのか、それとも何か別の意味を含んでいるのか…分からない。


だけど、俺と麻友のやり取りを暖かく見守る隼先輩は、みんなが思っているよりもずっと純粋でずっと清らかな人だ。

やっぱり一生をかけて、その笑顔を守りたい。



そんなことを考えながら俺は一旦二人と別れ、署に戻るべくその方向へと歩き出した。






「失礼します。先程から物陰に隠れて何かを見ているようですが……あちらに何かありましたか?」

心の中でやっぱり帰りが少し遅くなりそうでごめんと麻友に謝りながら、今日も俺は隼先輩を傷つける者に容赦せず見えない鉄槌を下すのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...