187 / 213
最終章
5-5
しおりを挟む
「奥山先生、ありがとうございました。俺、先生のおかげで勇気出せました」
店を出て少し歩いた先の交差点。
信号待ちの時、隼が俺に向かって言ってきた。
「一体何があったんだ…?」
「実は俺……店長からたまに無理矢理…その、触られたりしてたんです。何回か断ってるんですけど、なかなか止まらなくて…」
隼の説明に俺は驚いていた。
さっきの声を聞くだけでは、まるで隼も同意しているかのようだったからだ。
「でも、さっき店長からもうしないって言葉を引き出したので大丈夫です!奥山先生があそこにいてくれたおかげです!ありがとうございます!」
俺の顔が、隼を心配してるように見えたのだろう。
隼はまるで中学でこいつの担任をしていた時を思い出させるかのような純朴な笑顔で俺に礼を言う。
「別に構わないが……お前、よく俺に抱きついてきたりできたな。……普通は躊躇うと思うのだが…」
俺はあの時、隼を無理矢理犯したのだ。
今の店長としていることは変わらない。
それなのに……
「再会してからの奥山先生を見てると、もう安心していいんだなって思いました!元々、俺は奥山先生を信頼してたじゃないですか。」
口元には笑顔を浮かばせながらもどこか真面目に俺を見据える目は、あの日の隼と何も変わらない。
確かにあの頃、隼は俺を信頼し、仲良くなりたいと言ってくれた唯一の生徒だった。
それを一度踏みにじった俺は、二度と同じ気持ちを向けてもらえるとは思っていなかった。
なのに……
「隼、礼を言うべきはこっちだよ。……ありがとう」
俺の言葉に、隼は優しく微笑んだ。
その笑顔には、全てを赦しすべてを広く受け入れる隼の澄んだ心が映されているようだった。
しかし……
「それにああしたほうが、店長もショックを受けると思いません…?」
そう言いながら上目遣いで口元を緩める隼の表情は、不覚にもあの日を思い出させるような艷やかな雰囲気を持っている。
そうだ……
これがこいつの、真骨頂。
一見純白な天使みたいな笑顔を振りまく優しい奴。
しかし少しでも近づくと、容赦なくその毒牙を向けてくる。
だけど俺は、そんな大人になった隼に抱きつかれたあの感覚を忘れられず……
再び隼と裸で抱き合える日を心待ちにしてしまうのをやめられなかったのだ。
数日後…
「ちょっと、何事よ!」
パートのお局が、出勤するなり店長の代理が来ていることに驚いていた。
「店長……ストーカーと強姦未遂で捕まるんですって。だから支店から急遽代理の店長さんが来てるのよ」
もう一人のオバちゃんがお局さんに説明する。
「えええええ~何よストーカーって…あの人奥さんいるわよね?」
「そうなんだけど……何でもストーカーの被害は隼くんらしいわ」
「隼くんが!?!?そうなのね……ついに店長まで…」
そう言って驚いた"ふり"をしたお局は、自分の持つバッグから落としそうになったものを慌てて隠している。
だけど俺の目に一瞬だけ写ったそれは、俺の目に焼き付いてしまった。
なぜならお局が隠し持っているのは、隼をデカデカと待ち受けにしたスマホだったからだ。
それも、角度や画質的に、明らかにこっそり撮ったものだ。
(隼…やはり俺が担任時代に危惧したように、とんでもない男になったものだな…)
俺は一度あいつに人生を壊されているからこそ、店長やお局みたいな人間の気持ちもよく分かる。
(でも…せいぜい、俺レベルには身を滅ぼすなよ…)
そんなことを心の中で思いながら、俺はあの日抱いた隼への感情を、まるで自分のものではないかのように店長たちに擦り付けたまま仕事に取り掛かるのだった。
店を出て少し歩いた先の交差点。
信号待ちの時、隼が俺に向かって言ってきた。
「一体何があったんだ…?」
「実は俺……店長からたまに無理矢理…その、触られたりしてたんです。何回か断ってるんですけど、なかなか止まらなくて…」
隼の説明に俺は驚いていた。
さっきの声を聞くだけでは、まるで隼も同意しているかのようだったからだ。
「でも、さっき店長からもうしないって言葉を引き出したので大丈夫です!奥山先生があそこにいてくれたおかげです!ありがとうございます!」
俺の顔が、隼を心配してるように見えたのだろう。
隼はまるで中学でこいつの担任をしていた時を思い出させるかのような純朴な笑顔で俺に礼を言う。
「別に構わないが……お前、よく俺に抱きついてきたりできたな。……普通は躊躇うと思うのだが…」
俺はあの時、隼を無理矢理犯したのだ。
今の店長としていることは変わらない。
それなのに……
「再会してからの奥山先生を見てると、もう安心していいんだなって思いました!元々、俺は奥山先生を信頼してたじゃないですか。」
口元には笑顔を浮かばせながらもどこか真面目に俺を見据える目は、あの日の隼と何も変わらない。
確かにあの頃、隼は俺を信頼し、仲良くなりたいと言ってくれた唯一の生徒だった。
それを一度踏みにじった俺は、二度と同じ気持ちを向けてもらえるとは思っていなかった。
なのに……
「隼、礼を言うべきはこっちだよ。……ありがとう」
俺の言葉に、隼は優しく微笑んだ。
その笑顔には、全てを赦しすべてを広く受け入れる隼の澄んだ心が映されているようだった。
しかし……
「それにああしたほうが、店長もショックを受けると思いません…?」
そう言いながら上目遣いで口元を緩める隼の表情は、不覚にもあの日を思い出させるような艷やかな雰囲気を持っている。
そうだ……
これがこいつの、真骨頂。
一見純白な天使みたいな笑顔を振りまく優しい奴。
しかし少しでも近づくと、容赦なくその毒牙を向けてくる。
だけど俺は、そんな大人になった隼に抱きつかれたあの感覚を忘れられず……
再び隼と裸で抱き合える日を心待ちにしてしまうのをやめられなかったのだ。
数日後…
「ちょっと、何事よ!」
パートのお局が、出勤するなり店長の代理が来ていることに驚いていた。
「店長……ストーカーと強姦未遂で捕まるんですって。だから支店から急遽代理の店長さんが来てるのよ」
もう一人のオバちゃんがお局さんに説明する。
「えええええ~何よストーカーって…あの人奥さんいるわよね?」
「そうなんだけど……何でもストーカーの被害は隼くんらしいわ」
「隼くんが!?!?そうなのね……ついに店長まで…」
そう言って驚いた"ふり"をしたお局は、自分の持つバッグから落としそうになったものを慌てて隠している。
だけど俺の目に一瞬だけ写ったそれは、俺の目に焼き付いてしまった。
なぜならお局が隠し持っているのは、隼をデカデカと待ち受けにしたスマホだったからだ。
それも、角度や画質的に、明らかにこっそり撮ったものだ。
(隼…やはり俺が担任時代に危惧したように、とんでもない男になったものだな…)
俺は一度あいつに人生を壊されているからこそ、店長やお局みたいな人間の気持ちもよく分かる。
(でも…せいぜい、俺レベルには身を滅ぼすなよ…)
そんなことを心の中で思いながら、俺はあの日抱いた隼への感情を、まるで自分のものではないかのように店長たちに擦り付けたまま仕事に取り掛かるのだった。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
Change the world 〜全員の縁を切った理由〜
香椎 猫福
キャラ文芸
お気に入り登録をよろしくお願いします
カテゴリー最高位更新:6位(2021/7/10)
臼井誠(うすい まこと)は、他人を友人にできる能力を神から与えられる
その能力を使って、行方不明中の立花桃(たちばな もも)を1年以内に見つけるよう告げられ、人付き合いに慣れていない臼井誠は、浅い友人関係を繋げながら奔走するが…
この物語はフィクションです
登場する人物名、施設名、団体名などは全て架空のものです
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
妹とゆるゆる二人で同棲生活しています 〜解け落ちた氷のその行方〜
若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)
現代文学
「さて、ここで解け落ちた氷の話をしよう。氷から解け落ちた雫の話をしようじゃないか」
解け落ちた氷は、社会からあぶれ外れてしまう姿によく似ている。もともと同一の存在であったはずなのに、一度解けてしまえばつららのように垂れさがっている氷にはなることはできない。
「解け落ちた氷」と言える彼らは、何かを探し求めながら高校生活を謳歌する。吃音症を患った女の子、どこか雰囲気が異なってしまった幼馴染、そして密かに禁忌の愛を紡ぐ主人公とその妹。
そんな人たちとの関わりの中で、主人公が「本当」を探していくお話です。
※この物語は近親愛を題材にした恋愛・現代ドラマの作品です。
5月からしばらく毎日4話以上の更新が入ります。よろしくお願いします。
関連作品:『彩る季節を選べたら』:https://www.alphapolis.co.jp/novel/114384109/903870270
「解け落ちた氷のその行方」の別世界線のお話。完結済み。見ておくと、よりこの作品を楽しめるかもしれません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
無垢で透明
はぎわら歓
現代文学
真琴は奨学金の返済のために会社勤めをしながら夜、水商売のバイトをしている。苦学生だった頃から一日中働きづくめだった。夜の店で、過去の恩人に似ている葵と出会う。葵は真琴を気に入ったようで、初めて店外デートをすることになった。
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる