175 / 213
最終章
3-2
しおりを挟む
「佐伯先生!」
俺は、この時ほど自分の耳を疑ったことはない。
もう二度とその呼び方をされることはないと思っていたからだ。
「お前ら………」
3月の半ば。
冷たい風に少しずつ舞い込む春の陽気。
東京のある川の辺り。
小さく育つ桜の蕾を湛えた木々の隙間から、俺は信じられないものを見た。
「隼………優……」
2つ並んだ背の高い影は、俺の霞んだ目にありありと映る。
「瑠千亜に……五郎…?」
その少し後ろに見える影も、俺を驚かせた。
「先生……俺たち、高校を卒業しました」
柔らかい笑顔で俺にまっすぐ伝える隼は、あの頃に比べて少し声が低くなっていた。
どうして、こいつらがここに…?
「先生、すみません。俺達…あれから先生には会えませんでした。けど、最後にどうしても挨拶したくて会いに来ちゃいました」
隼の横で、相変わらず真面目そうな眼鏡をかけた優が落ち着いた声で言う。
「俺達、めっちゃ頑張ってそれぞれ第一志望に合格したんすよ!」
「先生に教えてもらったテニスを、大学でも続けていくつもりです。」
瑠千亜と五郎も、あの頃とは見違えるほど大人になっていた。
「お前ら……俺に会うつもりで来たのか…?」
俺は未だに信じられない気持ちを隠すこともできないまま、黙って俺が裏切ってしまった青年たちを凝視していた。
「はい。佐伯先生のこと、俺たちはずっと忘れないです」
「先生から教わったこと…テニス以外のことでも、全部が本当に大切なことでした」
「もしよかったら…大学でやる大会、見に来てくれませんか?」
目の前に並んだ4人の青年は、口々に俺に向かって優しく語る。
「あと、佐伯先生……これ……受け取って欲しいです」
その中から隼が1歩前に出てきて、俺に分厚い冊子のようなものを差し出した。
俺は、この時ほど自分の耳を疑ったことはない。
もう二度とその呼び方をされることはないと思っていたからだ。
「お前ら………」
3月の半ば。
冷たい風に少しずつ舞い込む春の陽気。
東京のある川の辺り。
小さく育つ桜の蕾を湛えた木々の隙間から、俺は信じられないものを見た。
「隼………優……」
2つ並んだ背の高い影は、俺の霞んだ目にありありと映る。
「瑠千亜に……五郎…?」
その少し後ろに見える影も、俺を驚かせた。
「先生……俺たち、高校を卒業しました」
柔らかい笑顔で俺にまっすぐ伝える隼は、あの頃に比べて少し声が低くなっていた。
どうして、こいつらがここに…?
「先生、すみません。俺達…あれから先生には会えませんでした。けど、最後にどうしても挨拶したくて会いに来ちゃいました」
隼の横で、相変わらず真面目そうな眼鏡をかけた優が落ち着いた声で言う。
「俺達、めっちゃ頑張ってそれぞれ第一志望に合格したんすよ!」
「先生に教えてもらったテニスを、大学でも続けていくつもりです。」
瑠千亜と五郎も、あの頃とは見違えるほど大人になっていた。
「お前ら……俺に会うつもりで来たのか…?」
俺は未だに信じられない気持ちを隠すこともできないまま、黙って俺が裏切ってしまった青年たちを凝視していた。
「はい。佐伯先生のこと、俺たちはずっと忘れないです」
「先生から教わったこと…テニス以外のことでも、全部が本当に大切なことでした」
「もしよかったら…大学でやる大会、見に来てくれませんか?」
目の前に並んだ4人の青年は、口々に俺に向かって優しく語る。
「あと、佐伯先生……これ……受け取って欲しいです」
その中から隼が1歩前に出てきて、俺に分厚い冊子のようなものを差し出した。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
妹とゆるゆる二人で同棲生活しています 〜解け落ちた氷のその行方〜
若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)
現代文学
「さて、ここで解け落ちた氷の話をしよう。氷から解け落ちた雫の話をしようじゃないか」
解け落ちた氷は、社会からあぶれ外れてしまう姿によく似ている。もともと同一の存在であったはずなのに、一度解けてしまえばつららのように垂れさがっている氷にはなることはできない。
「解け落ちた氷」と言える彼らは、何かを探し求めながら高校生活を謳歌する。吃音症を患った女の子、どこか雰囲気が異なってしまった幼馴染、そして密かに禁忌の愛を紡ぐ主人公とその妹。
そんな人たちとの関わりの中で、主人公が「本当」を探していくお話です。
※この物語は近親愛を題材にした恋愛・現代ドラマの作品です。
5月からしばらく毎日4話以上の更新が入ります。よろしくお願いします。
関連作品:『彩る季節を選べたら』:https://www.alphapolis.co.jp/novel/114384109/903870270
「解け落ちた氷のその行方」の別世界線のお話。完結済み。見ておくと、よりこの作品を楽しめるかもしれません。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
無垢で透明
はぎわら歓
現代文学
真琴は奨学金の返済のために会社勤めをしながら夜、水商売のバイトをしている。苦学生だった頃から一日中働きづくめだった。夜の店で、過去の恩人に似ている葵と出会う。葵は真琴を気に入ったようで、初めて店外デートをすることになった。
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした
黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。
日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。
ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。
人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。
そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。
太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。
青春インターネットラブコメ! ここに開幕!
※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる