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元いじめっ子の話

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一度溢れてきた涙はなかなか止まらなかった。

隼くんは、そんな私を優しく見守ってくれていた。

きっと隼くんが私に伝えたかったこと。

それをずっと、言葉にして伝え続けてくれた。


「あの日、渚さんを助けたこと…間違ってなかったんだって思えたんだよね。…本当はすごく怖かったんだよ?あんなに沢山の男の人たちを止めるのは……だけど、勇気を出して止めに入った。渚さんは逃げてくれたけど、久しぶりに教室に戻ったときのみんなの反応を見て……俺は、なぜか自分が間違ったことをしたような気がしちゃったんだよね」


少し影を落として悲しそうに話す隼くんに、私は首を振って否定した。

間違ってるわけがないんだから…


「だけどあの時、渚さんがそのハンカチを俺にくれた。しかも、そのハンカチを持ってたときに優勝できたから……何となく、このハンカチは俺が勇気を出すきっかけになってくれるんだなって思ったんだよね」

隼くんは、私に対して特別な感情があるわけではない。だけど…

「このハンカチを見る度に、俺はあの日振り絞った勇気を思い出すんだ。そしてそれが肯定されたことも思い出せるから…間違いなくこのハンカチは俺の勇気の源になってくれてるんだよ」


隼くんはこのハンカチを通して、あの頃失われかけた自信とプライドを取り戻しているんだろう。

あの日私を守りきれたこと。

それを、このハンカチが証明しているから。


「渚さんのおかげで、俺は今でも支えられているんだ。だから、本当にあの頃の自分をもう責めないで欲しいな」


隼くんは私の目を捕らえて真っ直ぐ見つめてくる。

「それに……あの時からずっと、自分を責めて許せないで悩んできたんでしょう?もし仮にあの頃の自分を簡単に許せなくても……もう充分、自分で自分に制裁を加えたんじゃないかな」


どうして隼くんは、こんなにも私が私を許せる言葉をくれるんだろう……。

隼くんの言う通り、私はあの日からずっと自分に鎖をかけていた。

いくら悔やんでもやり直せない過去。

あの日傷つけた隼くんへの贖罪の気持ち。

だけど、その十字架を背負ってここまで生きてきたことは……自分へ課した罪を全うしたことになるのだろうか……

「渚さん。これからは、自分を許していけるように考えていこうよ。過去の自分を責めるのはもう充分。あの頃必死に守っていた自分を、許して認めていけるように頑張ろう」

まるで暖かい陽だまりにいるような気持ちになる言葉を、隼くんは惜しげもなく私へ与えてくれる。

ずっと許されずに鎖に繋がれたまま泣いていた12歳の私を、隼くんが鎖から解き放ってくれた瞬間だった。

そして解き放たれて自由になった私を、これからは私が自分で抱きしめてあげなければいけない。

たくさん責めて、傷つけて、恨んで、殴ってごめんね……

そう言いながら、心が癒えるまで、優しく抱きしめてあげるんだ。
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