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僕が菜摘さんと話した次の月曜日。

何と、渚さんが突然学校から居なくなっていた。

結局、僕は渚さんと話すタイミングなくお別れすることになってしまった。


「渚の兄ちゃん、近所でも有名な悪い不良グループにいるらしいんだよ。その兄ちゃんが大問題起こしたとかで急に引っ越すことになったらしいぜ。」

帰り道、村上くんが教えてくれた。

今日の朝のホームルームで、先生が突然渚さんの転校について触れただけだったから、細かい理由などは何も分からなかった。

「そうだったんだ……。そんなに急に学校って辞められるんだね。」

「急には無理だろ。前々から転校の準備はしてたし先生も渚も知ってたけど、事情が事情だから皆に黙ってただけなんじゃねーかな。」

「そっか……。」

もし村上くんの言う通りなら、渚さんはきっと自分が引っ越すことを分かっていたからこそ、あの事件から1年経った今、僕にお礼をしてくれたのかもしれない。

「お前、渚と何か関わりあったっけ?」

「いや…特に関わりという関わりはなかったけど…。言いそびれたことがあったからさ。」

「へえ……なに、お前もしかして渚にも告られたりしたん?」

「えっ?!…何言ってんの、そんなんじゃないよ…」

「ふーん。お前のことだから、女絡みといえば大体そんな事情なんじゃねーかなと思ったんだけどな。」

「どんなイメージ持ってんの……。そもそも僕、クラスの女子とそんなに話してないのに。」

「でもモテてるのは事実だろーが。6年生になってから何人に告られたんだよ?」

「……それは……言えないよ。言い触らすことでもないと思うし。」

「そういうところもちゃんとしてんなぁ~。なんかお前、本当に完璧だよな…腹立つくらいに。」

「どこが?!…僕は、近くにいる人の気持ちもなかなか察せない奴だよ。身近な人ですらそうなんだから、関わりの浅い人だと更にそうだし…。人の感情とか考えてる事とか、そういうの、もっとちゃんと分かるようになりたいよ…。そしたら限られた時間の中でも、その人と気持ちを正確に伝え合えるのに。」

渚さんとほぼ話をしていなかったこの一年間、彼女の気持ちに全く気が付けなかった。

あの事件の後にハンカチを貰っていたのにも関わらず、それが彼女のどんな気持ちを表しているのかすら考えることができなかった。

そして痺れを切らした渚さんが菜摘さんに打ち明けて、それを菜摘さんから聞いても尚、僕はすぐにはピンと来なかった。

そんなことばかりしていると、これから先もタイミングを逃して相手と話せなくなることなんて沢山出てきてしまいそうだ。

相手の気持ちや自分の気持ちに敏感に気づける人間であれば、きっとそんな無駄なことはしないのだろう。
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