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「ねえ隼くん…」
 
さっきまでニコニコしていた菜摘さんが、突然表情を変えて僕の名を呼んだ。
 
「…どうしたの?」
 
菜摘さんの表情だけでなく、その声までもが、さっきまでと急に雰囲気を変えてきたことに、
僕は少し身じろぎながら答えた。
 
「ここ…思った以上に誰も来ないわね。」
 
辺りを軽く見渡しながら、菜摘さんは声を潜めて言う。
 
「……隼くん…」
 
再び僕の名前を呼ぶ。
 
そんな菜摘さんの声には、いつもは含まれていない艶やかな色気があった。
 
僕はつい、菜摘さんの目を真っ直ぐに見つめた。
 
その瞳の奥には、小さな灯火が揺れ動いていた。
 
「…隼くん。…ここで…しない?」
 
 
菜摘さんの瞳に映る灯火を黙って見つめていた僕に、菜摘さんは突然そんなことを言った。
 
僕は驚きのあまり、小さく「え」と声を発することしかできなかった。
 
「昔見た何かの漫画でね、ビーチでしちゃうシーンがあって。二人とも汗まみれで体中に砂もついちゃうんだけどね。…それがなんだかすごくエロくって…いつか私もやってみたいと思っていたのよ。」
 
菜摘さんの口から普段出てこないような言葉の数々に驚きながら、僕は相変わらず何も言えずに、ただ彼女の柔らかい唇を見ていた。
菜摘さんが昔見た漫画のシチュエーションに憧れて、僕と今ここですることを求めている…
少し間を置いてから、僕はやっと今の状況が理解できた。
 
「な、菜摘さん…ここでするのは…」
 
理解できたからこそ、今度は急激に胸がドキドキした。
 
彼女の大胆すぎる大人の誘いに、子供である僕の方がついていけていなかった。
 
「…だめ?やっぱり恥ずかしいの…?」
 
「いや、そりゃまあ…」
 
少し残念そうに僕の顔をのぞき込んでくる菜摘さんに、僕ははっきりとした言葉を返せないでいる。
 
菜摘さんの言う通り、こんな開放的な場所でするのはかなり恥ずかしい。
 
他人に見られてしまうかもしれないし、声を聞かれてしまうかもしれない。
 
そして、もし見られてしまったりしたら…
 
見るからに成人と未成年である僕たちの関係が、世間にばれてしまうかもしれない…
 
僕はそんな現実的な不安を抱きながらも、一方で心の奥では、菜摘さんが提供してくれる新しい遊びに、少し興味を持ってしまっていることも……本当は自覚していたのだった。
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