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「……本当はね、少し不安だったんだ。……また働き始めること……。」

全ての花火を終え、一通り片付けを済ませたところで、僕と菜摘さんはそのまま砂浜に座って海を眺めていた。

遠くに浮かぶ満月が、クラゲのように水面を伝ってこちらに近づいてくる。

海に映るにはあまりに小さな光を放つ星たちは、ダイヤモンドを砕いたようにパラパラと直接僕たちの頭上に降りかかる。


そんな星空を見上げながら、菜摘さんは不安そうな声を出した。


「ほら……私、しばらく働きもせずにずっと家にいたじゃない?でも、教師って生徒たちよりも長い時間学校にいることになるから…朝も早いし夜も遅い。それに土日や夏休み中だって、生徒と同じように休めるわけでもない。…ほとんど引きこもりだった私が、そんな生活を送ることなんてできるのかなーって。またストレスにやられたりするんじゃないかなーって考えちゃったりしてね…。」

「…菜摘さんが休職したのって、ストレスで体調を崩したのが原因だっけ?」

「…まあ、体調というよりも……メンタルね。心がやられちゃったの。今でもたまに体調は崩すけど、むしろ体力はある方だと思ってるしね。」

「…それなら、大変そうな生活も、慣れたらきっと大丈夫だよ。」

「そうね~…。そこはやっぱり慣れよね。」

「うん……。事情を説明して、運動部の顧問や担任を持つことを避けてもらうことはできないのかな?そうすれば、少なくとも土日や長期休暇の負担は減ると思うんだけど。」

「…学校によるわね。まあどこも教員が不足してるから。多少は頑張るつもりではあるんだけどね。」

「……菜摘さんは、どうしてメンタルを崩しちゃったの?…その原因となるものがどこの学校に行ってもあるものなのか、それとも前の学校だからこそあったものなのか…それによっても変わってくると思う。」

「……そうね……。」

僕は今まで、菜摘さんが休職していることに関して深く追求したことがなかった。

きっと僕のような子供には分からないような社会人故の事情があるのだろうと思っていたからだ。

そして菜摘さんも、特に話してくることはなかった。

だから気にはなっていたけど聞けずにいたのだった。

「……隼くん…私ね、他人に誤解されることが多いの。…実は前の学校辞めたのも、それがきっかけだったんだよね。」

菜摘さんは僕に事情を話してくれる気持ちになったのか、キュッと僕の手を握ってそんなことを言い出した。

「…前のときは…まだ大学を出たばかりの1年目でね、いきなり担任を任されたの。それにやっぱり若いうちは運動部の顧問も頼まれるから…経験のないバスケットボール部の顧問もやってたわ。私なりに勉強しながら頑張ってたし、嬉しいことに授業内容や学級経営に関しては、先輩の先生たちから褒めてもらうことも多かった。授業アンケートでも、生徒たちの満足度も悪くなかった。だけど……」

握りしめていた手を更に強く結んで、菜摘さんは言葉を切った。

今まで話してこなかった何かを話すために、心の準備をしているかのような目をしていた。
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