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少し木の匂いがするコテージへと入った。

まるで本当の家のように、キッチン、リビング、寝室、バスルームなどが揃っている。

しばらく誰も使っていなかったらしいが、菜摘さんの父親が定期的に訪れては掃除などをしているようなので、久しぶりに使うとは思えないくらい全てが綺麗だった。

「そういえば、何だかんだお泊りは初めてじゃない?私たち。」

菜摘さんが持ってきた荷物や買い込んだ食料などを片しながら、部屋を見渡す僕にそう聞いた。

「うん、そうだね。なんか緊張してきたかも。」

「ふふ。隼くん可愛い。もしかして、女の人と二人きりで泊まる事自体初めて?」

「うん……それに、ベッドも一つしかないし……」

「当然じゃない!隼くんは私と、一週間一緒に寝るのよ。」

「そ、そうだよね……。」


これまで、菜摘さんと同じベッドで寝たことが無いわけではない。

しかしそれは数時間のもので、丸一日一緒に過ごすこともなければ、夜に二人で寝るということも初めてだった。

寝る行為だけでなく、食事や入浴、起床や着替えなど、普段日常的に行っている行為を菜摘さんと共にするということが、まるで彼女と一緒に住んでいるかのような感じがして、無性に僕を緊張させた。


「まあ……私の願いとしてはね?…いずれは、一緒に住みたいと思ってるから……今回の一週間は、その時の予行練習みたいなものよ。」

さっきまで手際よく片付けをしていた菜摘さんが、手を止め少し恥ずかしそうに下を向きながらそんなことを言った。

僕は菜摘さんの言葉の意味を咄嗟に捉えられず、しばらく彼女の赤くなった顔を見ていた。

「……なんとか言ってよ……」

その沈黙に耐えられなくなったのか、菜摘さんは僕を睨みながら両手で顔を隠してしまった。

「あ……その、驚いて……」

「何に驚くって言うのよ。」

「だってその……菜摘さんがまさか、将来僕と住んでくれるなんて思ってなかったから……」

「何で思わないのよ!私は隼くんと一生一緒にいたいわ。」

「それってつまり……」

「そうよ。……死ぬまで一緒にいるつもりだから…」

最後の方は、声が小さすぎて聞き取るのがやっとだった。

だけど珍しく耳まで赤くしている菜摘さんを見て、
僕はやっと菜摘さんの本当に言わんとしていることが分かった。

そして分かってしまったら、今度は僕が恥ずかしくなってきた。

「なっ……菜摘さん……」

「何よ…」

「僕も……菜摘さんと死ぬまで一緒にいたい……だから、その為には……その、け、結婚するってことで…」

「そ、そうよ!それをずっと言ってるのよ…」

「うわあ恥ずかしい!なんか急にドキドキしてきた…」

「何でよ今更……ていうか、前に隼くんから言ってきたのよ?」

「え?僕が?」

「そう。……ほら、去年の秋、秋桜を見に行ったでしょう?その時……私たちの写真を撮ってくれた老夫婦の姿を見て、隼くんが『僕も菜摘さんとあんな風になりたい』って……言ってたじゃない。」

「……確かに言ったね…。」

「でしょう?……まさか無自覚だったなんて…」


まだ少し赤い顔を僕に見せまいとそっぽを向いたまま、菜摘さんがベッドに腰掛けた。

僕はその隣に座って、菜摘さんの方を見ていた。

少し軋んだベッドの音が、静かな空間に大きく響いた。
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