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僕は、菜摘さんと受験の話をしてから、今まで以上に勉強に力を入れた。

平日の塾は週3日から毎日に増やし、土日も午後は全て勉強時間に使った。

習い事のテニスも2週間に一回のペースで行くことにした。


そうなると、僕が菜摘さんと遊べるのは土日の午前だけになる。

平日は殆ど会えなくなったからこそ、土日に会うことが楽しみになった。

そしてそれをモチベーションに、平日びっちりと頑張ることが出来た。


「最近、よく頑張ってるわね。」

ある金曜日の夜、塾から帰った僕に、母親が声かけた。

「うん。絶対に旭堂中に受かりたいから…。」

「菜摘さんも、そこの教員になるんだって?」

「それはまだ確定ではないけど…」

「そうなったら隼が受験に落ちる訳にはいかないものね。」

「うん……。」

「最近、浮かない顔してるわよ。やっぱり菜摘さんと会う頻度が減ると、寂しいから?」

「そりゃあ寂しいよ。……でも、それに打ち勝ってこそ目標達成に近づけると思ってるから……。感情をコントロールして目標を見失わないでいることが成功の秘訣だって…色んな大人が言ってる。」

「ふぅん……。ま、程々に頑張るのよ。」

「分かってる。気持ちだけ先走って根詰め過ぎてもかえって効率が悪いしね。とりあえず今日はすぐに寝るよ。…明日の午前中、菜摘さんに会えるし……。」

「そうね。貴重な二人の時間、遅刻するわけにはいかないものね。おやすみなさい。」

「おやすみなさい。」

母親の見守る視線を背中で感じながら、軽い足取りで自室へと向かった。

明日になれば、菜摘さんに会える……

それだけで、一週間の疲れが全て癒やされていくような気がした。

それに、もうすぐ夏休みに入る。

夏休み中は、今よりももっと菜摘さんと会える時間が増えるだろう。

今年は二人で何をして遊ぼう。どこに行って遊ぼう。

入浴や歯磨きなど、寝る前のルーティンをこなす僕の頭の中には、菜摘さんとのことばかりが広がってゆく。

ついさっきまで塾で数式を解いたり難解な論文の要約をしたりしていた頭が、少しずつ切り替えられていくような感覚がした。

きっと菜摘さんの存在は、僕の受験を考えたとき、かなりプラスに働いているのではないか、と思った。

1日中受験や勉強のことだけを考えるべきだという人もいるだろうが、僕はその逆だと思う。

菜摘さんについて考える時間があるからこそ、学校や塾にいる間は、集中して勉強に頭を使うことができる。

そこの切り替えが上手くできないのであれば、確かに恋愛や恋人といった概念はマイナスに働くのかもしれない。

しかし僕の場合は、むしろ根詰めすぎずにメリハリをつけることに繋がっている。

そのバランスが崩れないうちは、この大事な時期に恋を知って良かったのかもしれないと思えるのだった。
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