上 下
140 / 214
17頁

9

しおりを挟む
「隠してたこと……?」

「うん。隼くんの予想通り、義兄とのことよ。」


菜摘さんは過去の自分や目の前の僕に向き合う決心と気まずさをまるで指先で表すかのように、何度も指を組み替えていた。


その美しい所作やなめらかな白い肌は、これから僕にどんな事実を告げるのだろうか。

脳内を掠めた場違いな感想は、菜摘さんの声で一気に現実へと引き戻されることになった。


「私と義兄は……少し前まで、ほぼ恋仲だったの…。」


耳に届いた菜摘さんの言葉が、頭の中で何度もこだました。

だけど不思議なことに、それを聞いた僕の胸は、どこか予想していたかのような冷静さを保ったままだった。

むしろ、この事実を菜摘さんの口から認めさせた後のこと、これからのことを咄嗟に考える必要があるかのように思われた。


「そうなんだ……少し前ってどのくらい前?」

「……今年の冬までよ。」

「じゃあ1月とか2月あたり?」

「2月までよ。」

「そんな…」


約二ヶ月前まで、菜摘さんと義兄と恋人関係のようになっていた……。

今年の2月と言えば、菜摘さんの家で一緒にバレンタインチョコを食べた想い出がある。

僕が学校の女子からチョコを貰ったことで、菜摘さんが少しヤキモチを焼いてくれたのも2月だった。

まだまだ鮮明に思い出される記憶が残っている時期まで……本当に菜摘さんの言葉通り、"少し前"まで、彼女には他の男性がいたのだ……。


「ごめんなさい隼くん。私は隼くんを裏切ってたことになるわね。」

「……どうして…」

「ごめんなさい。許してくれなくてもいい。嫌いになったならこっぴどく振ってくれてもいい。本当にごめんなさい…。」

「嫌いになれたら…こっぴどく振れたらどんなに楽か……。菜摘さん…僕は、この話を聞いても菜摘さんのことを嫌いになんてなれないよ…。」

「隼くん…」

「だけど、どうして…?理由が知りたいよ…。子供な僕だけじゃ、やっぱりダメだった?」

「違うわ!違うの。隼くんだけじゃダメなんてそんなことじゃないの。むしろ、逆よ……」

「逆…?」

「そう。…私は、いつか隼くんに捨てられると思うから……だからお義兄さんと……」



泣きながら説明する菜摘さんの言葉に、僕は頭が真っ白になるくらいショックを受けた。

正直、菜摘さんが義兄と関係を持っていたことを聞いたときよりもずっと大きいショックだ。

菜摘さんの中で、僕はいつか菜摘さんを捨てることになってるんだ。

菜摘さんの中で、僕と菜摘さんのこの関係は永遠じゃないんだ。

菜摘さんからしたら、僕は一時的な恋人なんだ。

何度も僕の気持ちを伝えたのに。

何時になっても、何年後になっても、僕は菜摘さんのことだけを想い続けるって、そう言ったのに……



「……なんにも届いてなかったんだ……」


思わず涙が溢れてきた。

震える声でそう言うのがやっとだった。

僕の気持ちは、一切菜摘さんには届いていなかったんだ……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

入社した会社でぼくがあたしになる話

青春
父の残した借金返済のためがむしゃらに就活をした結果入社した会社で主人公[山名ユウ]が徐々に変わっていく物語

処理中です...