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「それにしても、このトッピングのクリームってどうして溶けないの?きれいに色も付いてるし。不思議」

「それはね、バタークリームだから簡単に溶けないのよ。色がついてるのは食紅を使っているから。バターに牛乳と粉砂糖と食紅を混ぜれば、そういう感じのクリームが作れるのよ。」

「なるほど…!すごいなあ…今度作ってるところも見てみたい!」

「そうね、今度隼くんも作ってみる?今日作ったお菓子はどれもそんなに難しくないものだし。」

「うん!作ってみたい!」


菜摘さんと話しながら、僕は貰ったお菓子を頬張っていた。
こうして少しずつ二人の時間が増えていって、共有する趣味も増えていくのが嬉しかった。


「隼くん、モテそうだから実はチョコ貰ったんじゃない?」

「えっ……!」

不意に菜摘さんに言われた言葉に驚いてしまった。

自分でも予想すらしていなかったが、誰かから貰ったことを菜摘さんに言うべきかどうか迷った。

「………」

「その沈黙は、肯定だな??」

「……っ!」

「分かりやすいわねぇ~隼くんは。…いいのよ別に。貰ったなら貰ったって言ってくれても。」

「……うん、貰った。」

「やっぱりね!誰から?」

「それが、分かんないんだよね……。帰ろうとしたら、靴棚に入ってたんだ。名前も書いてなかったし。」

「なるほどぉー。こっそり隼くんのことを好きな女子からだろうね。誰からか分からないようだと返事のしようも無いから困るわよね。」

菜摘さんの言葉に僕は頷きながら、思いの外菜摘さんが気を悪くしていないことに少し驚いていた。

「……あの、菜摘さん……その……」

「……もしかして隼くん、チョコ貰った話をすれば私が嫉妬すると思った?」

「えっ!……あ、う…うん。嫉妬というか何というか…あんまりいい気持ちはしないかなって…」

「まさか!むしろ、隼くんの良さをわかってくれる女の子がいると思うと嬉しいわ。」

「そ、そうなんだ…」

「なあに?嫉妬して欲しかったの?」

「いや…そういう訳じゃ…ないんだけど……」

菜摘さんの少し意地の悪い顔は、まるで僕の心を見透かしているような気がして、思わず目を逸らしてしまった。


確かに僕は、菜摘さんに嫉妬されてみたかったのかもしれない。

それは普段、僕が菜摘さんに嫉妬することの方が圧倒的に多いからということもあるだろう。

また、菜摘さんも僕に嫉妬してくれることが、僕と同じくらい好きでいてくれていることの証明にもなると漠然と考えていたからでもあろう。

僕はそんな自分の思惑に、少し恥ずかしくなった。

誰か分からないとは言えども、僕にチョコをくれた子の好意をまるでそのような道具みたいに考えていることになるからだ。

「……そりゃ少しはね?もちろん、ほんの少しはモヤっとしたわよ。でも……いい大人が小学生相手に嫉妬丸出しなのも、どこか恥ずかしいじゃない。」

「そんな……全然恥ずかしくないよ。恋愛に、年齢なんて関係ないって教えてくれたのは菜摘さんでしょ?それなら、嫉妬することに関しても年齢なんて関係ないんじゃ……」

「まあ、それもそうね。…でも隼くんの良さをわかってくれる女の子がいて嬉しいっていうのも本心よ?」

菜摘さんの気持ちを聞けば聞くほど、僕は自分の幼さを省みざるを得ず、どんどん恥ずかしさが増していくのだった。
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